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第0章〈Echo〉
闇の中でエンジンが響く。フロントガラスをかすめた街灯の光が、彼の持つモノクロ写真を淡く揺らした。
灰色の胎児のエコー写真。その裏の滲んだ活字に、息を呑んだ。
MIYA 16/1/20
その日付の奇妙な一致には、偶然を超えた運命を感じた。ひどく長い呼気が車内を満たし、静電気のような緊張だけが残る。
窓から射す光が赤く変わる。裏側の胎児が一瞬、赤く浮かんだ。視線を逸らせば、この感情は夜の闇に溶けてしまうだろう。それでも視界の隅に焼きついた日付は、呼吸のたびに色を濃くする。
遠くで赤子の声がこだました気がした。ハンドルを握り直す彼の手がわずかに震える。それが過去の残響なのか、生まれてこられなかった命の叫びなのか、誰にも判別できない。
声が途切れた瞬間、つい1時間前の出来事が頭を掠めた。
……殺した3人の死体は、もう見つかってしまっただろうか。
それともまだ、夜の底で──こちらを見上げているのか……