第6話 この世界、スキルは誰にでもあるらしい
斉山 百華さんは理想的な人だ。
困っている人がいたら見過ごせないし、廊下に落ちているちょっとした紙屑も、拾ってはゴミ箱に入れている。
友人関係も良好で、目立つタイプでは無いが、クラスの揉め事がほとんどないのは、彼女のおかげだと、俺は思っている。
背は一六〇センチいかないくらい。眼は綺麗で大きくハッキリしている。髪はいつもサラサラで、肩に掛かって少し過ぎるくらいのちょうど良い長さだ。
細身で華奢。クラスでは一番頭が良いと思う。よく成績優秀者として先生に名指しされてたからな。
その他の特徴も、えーと。彼女の説明ならいくらでも出来るけど、とりあえず総括としては。
母性がある。
それにしても、どうしてこの子が俺の名前を?
俺は名乗っても無い。
確かに俺の名前は、余呉野 飛鳥だけど......。
まさか、俺と同じように、この夢の中に知り合いの誰かがいるのか?
......なんてな。夢の中ってのは何でもありだ。俺の名前を知ってる人がいるのは当たり前。
そこに論理も根拠もない。
「あの、私。見るだけで人の情報がわかるスキル持ちだから」
「あ、ああ。なるほど」
論理と根拠を示してくる。
なかなかに利口な夢だ。
どうせだったら、この子が百華さんで、夢だけど現実と意識が繋がってて、この世界から出ても記憶を共有してて、なんて。
夢より夢なことを、俺は夢見る。
夢の中なのにな。恐れていた二重夢だ。
早く醒めなければ。
それに百華さんは俺のことを余呉野くんと呼ぶ。
むしろ陰では余呉野なんて呼ばれてたら、少し傷つくかもしれない。
「ありがとう! ございました!」
「ありがとう」の後に少し間をおいて、「ございました」と同時にお辞儀をして、丁寧に感謝を示してくる。良い子だ。
「あの、お礼がしたいので、私の住んでいる所まで、来てくれませんか?」
「うん」と、俺は頷く。
ありがちな展開だが、悪く無い。
まんま序盤といったところだ。
背が小さく小柄で華奢で、けれども目に見える要素としては母性があるわけではない少女についていく。
ところで、しばらくの時間が経ったと思う。
この夢は、いつ終わるんだ?
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