第3話 結局、ゲームの世界かよ!
俺は走っていた。
本当は自分の肩を揉みながら、ゆっくりと歩きながら気だるげに、熟練の気風を纏いながら颯爽と現れるつもりだったのだが。
現実はそうはいかない。
「だって、間に合わないかもしれないだろ」
ゲームの世界じゃ無いんだから、チュートリアルなんて言ったのも言葉の綾だ。
これが夢だとしても、ハードな世界観なら少し遅れれば取り返しがつかなくなる。
そんなことになったら寝覚めが悪い。
「間に合ってくれよ」
不思議なことに走り続けても疲れなかった。
普段の俺なら十秒も走れば歩きの選択肢を連打する所だ。
居た。見つけた。
森。木々に囲まれた鬱蒼な場所で、ポニーテールの少女が、狼のような獣と向かい合っている。
彼女はまだ幼く見える。背丈から十歳前後だろうか。
「くらえ!」
俺は後ろから狼の背中に木の棒を叩きつける。
グルゥ、と狼が鳴いた。
「やったか?」
攻撃は当たった。でもさすがに一撃とはいかないか?
狼は、すぐさま体を翻し、牙を向けて俺に襲いかかる。
少女が叫ぶ。
「危ない!」
数々の走馬灯が、俺の中をよぎっていく。
百華さん。百華さん。百華さん。
ああ、ここまでか。夢の中とはいえ、こんな有様じゃ、現実で百華さんに振り向いてもらえないのも、無理、ないよな。
あのダサい防具、つけときゃよかったな。
俺は観念して目を閉じる。
少し経つ。何も聞こえない。
また少し経つ。何も起きない。
「なんだ? 痛みもないとか、そういう?」
目を開けてわかる。違う。
狼が空中で停止している。
少女も口に手をやり停止している。
「まさかこれは、時を止めるスキル!?」
もしそうなら、とんでもないチートスキルだ。
けどすぐに、違うことに気づいた。
なんか視界の上の方にゲームのポップアップウィンドウみたいな表示が出ている。
それには、こう書いてある。
「どちらのスキルを入手しますか?
→無頼の英雄
→優しき英雄」
なんだ、これ?
ゲームの世界かよ!
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