第1話 さぁ、高校最後の一年(ラストイヤー)を始めよう
「もう高三か」
四月五日。春の入学式を終えてベッドに横たわる俺は、感慨に耽っていた。
「あと一年で、俺の青春は終わる」
友達もいたし、楽しい高校生活だったけど、一つだけ思い残したことがある。
「斉山 百華、さん」
高校入学して、同じクラス。初めての席が隣同士だった彼女。
高二でも同じクラス。
そして、今日のクラス発表。
高三でも、同じクラス。
それは確かに珍しいことだが、完璧に全員が全員、学年ごとに別々のクラスなんてことは難しいんだから、こういう事例だってある。
そしてこれは、俺にとって非常に喜ばしいことだった。
母性に満ちた性格、容姿。
外見だけは見ない。中身だけも見ない。
そんな俺の徹底した警戒主義の間隙を、彼女はスルリと入り込んで、そうして、俺の心臓を射止めた。
いわゆる、ゾッコンだ。
俺は彼女に、心底惚れている。
消しゴムを拾ってもらったり、教科書を見せてもらうことから始まった俺たちの物語は、今、第一部完を迎えようとしているんだ。
他にも、思い出が。
思い出、が?
えーと。
消しゴムを拾ってもらって、教科書を見せてもらって。
ほら、あったあった。なんか他愛ないこと話した!
いや他愛無いってのは内容を覚えてないって意味で、つまりは百華さんと話せるのが嬉しくて。
てか、実際は百華さん、なんて呼んでないし。
当然、斉山。苗字呼び。
「はぁ」
こんなにチャンスはあったはずなのに、距離は全然縮められなかったな。
でも、今年こそは!
ラストチャンスだ。
いや、これが無理でも、同じ大学を目指す!
「そのために、勉強だ!」
なんだけれども、もう夜も遅い。
時期が悪い。
まだ慌てるような時間じゃない。
明日の俺に期待する。
こうして俺は、眠りに落ちた。
彼女とお近づきになれることを、夢見て。
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