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25.ネタバラシ

蛇足。読み飛ばしていただいても支障はありません。

 たくさん死んだ。

 さて、誰のせいかと問われれば、それは『ジャッジメント』のせいである。徹頭徹尾が『ジャッジメント』の計画で、そこに誰か別の意思──例えば魔王ヴォイドとかの思惑はひとかけらも入っていない。レガリアが裏切ることを想定し、ヴォイドが拾われることを想像し、レガリアが一度死んだ後にヴォイドはミセルのところに行くであろうと推測し、ならば誰を誰のところに向かわせれば殺せるか考えて、実行した。勇者パーティはいてもいなくても関係ないから計算に入れなかった。そこらへんは『トリックスター』や『シルバーコイン』に任せっきりだ。なんか色々あったらしいけど、どうでもいい。とりあえず僧侶は死んだらしい。『スナイパーライフル』が殺したらしい。うん、なんだっていいよ。『ジャッジメント』の管轄外だ。魔王と勇者パーティの邂逅は少しだけ興味をそそられたりもしたが、それも終わった今心底興味のない事象に成り下がっている。長たる『ジャッジメント』がその調子だから、少年十字軍内部でもかなり混乱していたようだ。パーティの存在を知っていたり知らなかったり。見つかってないと思っていたり思ってなかったり。そもそも勇者や魔王に重きを置いていない奴は知らず、真面目に殺害を目論んでいた奴は知っていた感じか? よおわからんが、きっとそうなのだろう。『ジャッジメント』は少年十字軍の少年少女を単なる糧としか見ておらず、それ故に扱いはぞんざいなものとなる。最終的に死んでくれたらいい。彼ら彼女らは家畜だ。殺されるために生まれてきた存在。絶望し続けるために作られた存在。何かと動きづらい『ジャッジメント』に代わり、魔王や勇者を探すために、合間を埋めるためにそこにいた。

『ジャッジメント』は物語の中を自由に動けない。

 それは『ジャッジメント』が物語を作り変える存在となったからである。監督は物語を監視することに手一杯で、物語に割り込んで自由に演じることはほぼ不可能だ。いくら『ジャッジメント』でも体は一個。んで、目ん玉は二つ。自由に物語を組み替えることはできても、その中で活躍できるかは話が別なのだ。だから、『ジャッジメント』は自由に動けない。行動が制限される。一介のモブである彼女は無理やり監督の席に座ったから、尚更。最初から活躍できるわけもないのに、監督者になってから活躍したいなんて、そんなうまい話はない。

 というわけで、ツギハギ監督者である『ジャッジメント』は物語を自由に弄った。

 少年十字軍なんて奇っ怪なものを作って、魔王と勇者を殺そうとした。では、なぜ? なぜ『ジャッジメント』は魔王と勇者を殺そうとしている? 別にモブはモブとして生きていけばいいだろう。それなりの希望を持ち、それなりの絶望を経験し、百点ではないが及第点な人生を送ってしまえばこんなたくさんの死人は出なかったはずだ。少年十字軍なんてものがなければ、彼ら彼女らはほどほどに絶望して可哀想に終わっただろう。そう、早め早めに終了できたはずだ。世界の主人公にはなれずとも人生の主人公として、そのちっぽけで主観的な空間で最後まで舞っていられた。観客がいないことに気づきもせず、幕を閉じることができた。じゃあなぜ『ジャッジメント』はそうしない? 『ジャッジメント』は己が主人公ではないことに気づいた。なるほど。しかし言ってしまえば気づいただけだ。自分が主人公にはなれないことを自覚しただけ。では、なぜ魔王や勇者を殺そうとする? コスパを重視するくせに効率が悪すぎる。主人公ではない『ジャッジメント』に勇者は殺せないし、魔王だってトドメを刺すことはできない。ならなんで。気味が悪い。何を考えているのだろう。全部無駄なのに。どうせ『ジャッジメント』だって死ぬだけなのに。主人公にはなれないのに。監督者の椅子に座った時点から、主人公なんてものには一生なれないと運命付けられたのに。それをわかっているはずなのに。バカみたいに主人公の席にこだわる彼女は、何を考えているのだろう? 愚かしいことこの上ない。彼女こそが世界で一番の愚かも──


「ぐちぐちうっさいなあ。『ジャッジメント』は『ジャッジメント』なりに考えてるんだよ。魔王も勇者も殺す方法。『ジャッジメント』が死んでも『ジャッジメント』は主人公になれるんだ。いや、死んでからが本番かな。『ジャッジメント』は死んでもいい。主人公になるためなら、魔王と勇者を殺すためなら、魂ぐらいあげる。悪魔でも神でも縋り付く。蜘蛛の糸を引っ張って仏を引き摺り下ろす。女神にみっともなく泣き喚く。なんでもいいの。魔王を殺せるなら、どうでもいいの。少年十字軍のみんなもそう思ってたはずだよ。心情はみんな違ったけど、最終目標、あるいは世界に対しての不満は一緒。大量生産の消耗品みたいにね。魔王に拘泥していなくても、勇者に固執しておらずとも、行き着く先は一緒だったの。じゃあまとめてあげた方がいいよね。少なくとも効率は良くなるよね。『ジャッジメント』は裁く。それだけのために生まれたんだから」


 そう。

 だから?


「魔王を殺す。勇者も殺す。いるだけで厄災を振り撒くイレギュラーを、『ジャッジメント』が裁いてあげる」



 ……



 さて、魔王ヴォイドの話をしよう。

 いや、話すこともないんだけどさ。一応だよ一応。あっちの長さんもなんかしていたようだし、まあやっとくかぐらいのノリで。暇つぶしぐらいにはなるだろうから、ちょいと付き合ってくれるとヴォイド的にはとても嬉しかったりする。泣き喚いて喜ぶ。狂喜乱舞の大歓喜だ。どこぞの背信者じゃねえけど。

 んで、ヴォイドの話だが。

 本当に話すことがないんだ。世間一般で考えられる魔王と勇者の物語となんら大差ない。ドラクエを思い出してくれたらいい。魔王は世界を滅ぼそうと、あるいは支配しようとしていて、それを勇者が止めた。ヴォイド的には何もしていなかったんだけど、どうやらレガリアやアレクシアがなんやらやっていたらしく、そのとばっちりを喰らった形である。へえ、ムカつく。打首にしたい。もう勇者によってされたんだっけか。わからんが、とにかく、魔王は勇者によって滅ぼされたのである。んで、詰めが甘くてこっちの世界まで逃げ延びたのである。

 おしまい。

 ……いや、流石に短すぎるか? でも老人の昔話って若い人嫌がるだろうし、こんぐらいでいいのかも。気になるのならご自身で妄想してくれ。ヴォイド自身もよく覚えていない久遠に消えた記憶を、あなたなりに再演してくれたらいい。鮮烈な死の記憶によって塗りつぶされた英雄譚。あなたの空想が入り混じった物語を聞かせてくれよ。それこそ暇つぶしになるというものだろう。ねえ?

 でも尺が余っちゃうな。うーん……どうしようか。そうだ。答え合わせでもしよう。『ジャッジメント』が行った勇者アンド魔王ぶっ殺し計画。その評価。魔王直々に判定してくれるなんて滅多にない、まさにスペシャル審査員。感謝してくれよ。

 で、肝心の点数は百点満点中十点ってところだ。

 てかほぼ間違い。ダメダメ。赤点どころか〇点。その十点だってやりたくなかったぐらいである。なんだろうな……全部遠回りって感じ? いちいちやることが回りくどいのだ。少年十字軍なる組織を作って、監督者になってしまった自分の足代わり。じゃあ監督者になんてなるなよと思ってしまう。なる意味あった? ない。絶対ない。少年十字軍だって本筋にはいらないのだ。この物語は勇者と魔王が主役。モブの皆さんがどれだけ出しゃばったって早死にするだけ。いや、その早死にこそが目的で手段だったのだろうけど、回りくどすぎる。正々堂々真っ向面から勝負して負けりゃいいのに。目的は主人公になりかわることなんだろう? なら、魔王に歯向かって華々しく散ればよかったじゃないか。そうすりゃ仮の勇者としてちょっとした短編の主人公ぐらいにはなれたんじゃないか? わざわざこの物語を乗っ取ろうとしなくとも、ちっさい舞台の主役で満足してりゃあよかったのに。バカもここまでくると鬱陶しくなってくるのだ。どうせならとんでもねえ阿保と踊った方が楽しいってのはなんも分かってねえ世間知らずの方が見てて面白いって意味で、無駄な知識ばかりつけた自称賢人に付き合っていても面白くもなんともないのである。だから、『ジャッジメント』に付き合うのに飽きた。つまんねえ。くだらねえ。もうどうでもいい。いちいち突っかかってくんなよ。魔王は魔王。勇者は勇者。あんたらが主人公になれないように、自分らだってモブにはなれないんだから、そこら辺を考慮してからやってくれよ。どう足掻いても無理なんだって。魚が急に足はやして陸地歩いてたら変だし、人間がエラ呼吸し始めたら怖いだろう? それと同じ。無理なもんは無理! 諦めてくれ。

 なので、ヴォイドは諦めさせることにした。

『ジャッジメント』を殺す。そうすりゃ諦めるだろう。格の違いを見せつけてやるのだ。主人公にはなれないよと嘲りながら、その死体に唾でもなんでも吐きかけてやりゃお相手さんも脳髄の芯まで理解してくれることだろう。だから殺す。完膚なきまでに叩き潰す。やはり雑草は根っこから抜かないと。

 それに、ほんの少しだけ楽しみなのだ。

 あの長とやりあえるのが。様々な手を尽くし色々な策を練り、ここまで頑張って魔王を殺さんとした少女と戦うのが、もう楽しみでしょうがないんだ! はは、いじらしいやつ。相対するにあたってちゃんとおめかししてくる子の方がヴォイドは好み。うんうん、あめちゃんをやろうな。ついでにソフトクリームはどうだ? いらない? そっか。じゃあ死んでくれ。ヴォイドは何があろうとも『ジャッジメント』を真正面からぶっ殺してやると決めた。楽しそうだから。なんだかワクワクするから。ヴォイドは相手を負かす行為が好きで好きでたまらなくて、だから手っ取り早い戦争が好きだった。勝っている戦争ほど楽しいものはない。そしてヴォイドは魔王である。負け知らず。命知らず。辛酸を味わったこともないガキ。そんなやつに『ジャッジメント』は負ける。かわいそうだな。これこそ悲劇だろう。それなりにいい値段でチケットが売れそうな舞台。何度もいうが、こっちにシフトすりゃあよかったのに。ねえ?

 それと、どうせなら『ジャッジメント』の策に乗っておきたいというのもあったりする。

 百点満点中十点。それでも使いようだ。というか基本遠回りで回りくどいってだけで九十点減点されているだけだから、やろうとしていたこと自体はなかなかいいセンいってたんだよね。ヴォイドがまた一からRTAルートでやってもいいが、ちょっぴり面倒なのと、やる気は使うと無くなっちゃうから温存しときましょうねというエコ思考によって、癪ではあるが『ジャッジメント』の策を利用してやることにした。やっぱりあいつは監督者だ。ヴォイドすら、あいつの脚本の上。まあいい。踊ってやる。実はヴォイドはとんでもねえ阿保である。踊ってた方がいいタイプの怪物である。だからこそ、素直に活躍しておこうじゃないか。『ジャッジメント』が計画していることと、ヴォイドがやりたいことはそれなりに一致しているんだから。うんうん、使っておこう。リサイクルリサイクル。環境に優しい。

 というわけで、ヴォイドは『ジャッジメント』の策に乗ってやる。

 せっかく用意してくれたんだから。



 ……



 この場をちょいと借りたいのだが、構わないかにゃ?

 自己紹介が遅れちゃったぜ。ボクは『トリックスター』。狂言回し。物語を掻き回し掻き乱すクソ野郎。ついでに偽トリスタン。いや、偽物である自覚はボクにはねえ。ねえったらねえ。トリスタンってのは単なるゲームのニックネームであり、断じて前世がトリスタンだったよって表明ではなかったのに、それをあちらさんが勘違いしちゃっただけだろ。ボクのせいじゃないね。やっぱ人間深く考えることがとーっても大事。『スナイパーライフル』や『ワーカーホリック』をはじめとする少年十字軍の皆様方は停滞が進んで焦って死んじゃったから、やっぱり落ち着いて考えることこそ、リスクマネジメントになるンだろーな。ボクはそれなりに考えられる方だから、こうしてこの場をお借りすることができたわけだ。ひゅう! 最高! 狂言回しとして誇らしいや。

 さて、そろそろ本題に入らなきゃあいけない。

 狂言回し、つまり物語の進行速度を早めるボク。だからボクはボクがしなきゃいけないことをする。それが『トリックスター』の意味。存在理由。それに、監督者や魔王ばっかに語らせるのもつまんねえから。ここまでちゃんと聞いてくれてるアンタみたいな観客は大事する。魔王の心情ばかり語ってないで、ここらでちゃんと進めておかないと、そろそろ中弛みしそうじゃないか。

 本題。

 勇者パーティの過去と現在について。

 喪音ことモニカ。真実ことマギー。そして『シルバーコイン』ことトリスタン。主にこの三人の、現世でのご活躍について、ちょっとだけ話してみたくなったんだ。これまでの頑張り記録とその結果。だから、新しく出る情報としては、その結果の部分ってことになるか。今どうしてんのか。モニカが死んでトリスタンが裏切って、マギーは絶体絶命の中、どうやって生き延びてるのかの話。そこがメインディッシュ。だからちょっぴり前座に付き合ってほしいんだよ。最初から語らないとつまらないと思ったから、まあ、サービスサービス。聞き流してくれて構わないからさ。

 さて、まずモニカとマギーの話。

 モニカこと喪音の母親は一年前、交通事故で死んだ。で、父親が病んだ。モニカは変わってしまった家庭環境に戸惑いながらも、メイクアップアーティストを目指しながら頑張ることになるわけだな。ここまでならよくある不幸話だが、ここでマギーがモニカを見つける。マギーは言わずもがなの勇者信仰者。勇者を見つけるためならネットストーカーだろうがなんだろうがやっちまうやばいやつで、ネットの海をかき分けながら、一生懸命モニカを探し当てたってわけ。お互い前世の記憶が一致することを確認した後はとんとん拍子。トリスタンという名前でゲームしてたボクを見つけて、それから魔王と勇者を同時進行で探して……先に魔王を見つけた。それが運の尽きだった。魔王にも『ジャッジメント』にも目をつけられたボクたちは藁の家に引き篭もった子豚同然で、あっという間に全滅寸前になる。え、運悪すぎ。わろた。というか『トリックスター』であるボクをトリスタンだと思い込んだあたりから崩壊していると言えなくもない。そこからが間違い。御愁傷様。だからちゃんと考えなさいって言ったのに。いや、言ってなかったっけ? しらね。どーでもいい。勇者御一行の生存は、はなっから長にも魔王にも計算されていない。理由はいてもいなくても変わんねえから。モニカが死んでいようが生きていようが、マギーが頑張って魔王を見つけようが見つけまいが、どっちでもよかったから。『侵略種』や『臆病な探究者』もその類だと記憶している。物語をちょっと変えるけど、結末までは変えられないモブ。もちろんボクもその一人。『トリックスター』はあくまで狂言回しであって、主人公や監督者じゃない。早めるだけの存在だ。だからモニカとマギーの命運は早まった。魔王を発見するまでに至った。魔王があんな遊び心加えてなきゃ勇者も見つかっていたかもしれないレベルでね。いやー、ほんと惜しい! モニカは結局おっ死んじまったし、マギーだってあんな有り様。真実としての人生はもう歩めないだろう。

 勇者に見つかっちまったんだから。

 真実もただの助けるべき、救うべき人間にシフトしちゃったんだから。

 ……ん? あ、そうそう。こっから本題。モニカが狙撃手くんの凶弾にやられて死んだ後、勇者がマギーを救ったんだよ。だからマギーももうちょいで死ぬ。華々しい再演。絶対にマギーは死ぬし、『シルバーコイン』も無様に殺されるんだろう。ここで出てこねえってことはもう死んでんのかな? ボクとおんなじ種類の人物だったわけだし。こりゃ死んでるな。裏切り者。背信者。好きで好きでたまらないご主人様を裏切りたくなっちゃう、どうしようもねえやつ。ここで死んで正解かも。

 勇者は誰一人助けられない。

 勇者って言っても古今東西、それこそ多種多様で十人十色な特性があって、たまたまこっちの勇者サマは人が救えないタイプの勇者だったってだけだ。そこは気にしないでくれよ。多分このへんの解説はボクの役目じゃあない。魔王あたりが嬉々として語りたい情報だろうから、ボクはお口にチャックしておくのだ。怒らせたくはないからな。ただえさえ一回殺しちゃって(偽物だったけどサ)ヘイト溜まってんだから、ここで無闇矢鱈と評価下げてもいいことがないのは想像すりゃわかるだろ? ご機嫌取りは誰であろうととっても大事。ボクはもう舞台に立つことはないけれど、こうやって一時的に場をお借りすることはできる。ひょっこり顔出してナレーションぐらいはできる。んで、この舞台は魔王と長のもの。この、こっそり覗いて有る事無い事言いふらす時間に魔王に首を落とされましたなんて酒の肴にもなりゃしない。死因が油断なんて末代までの恥だ。ちなみに末代はボクだから一生の恥だ。んで、ボクは死んだも同然だから結局あんまり恥はかいてない。死人ってサイコー! 死後の再評価って大抵いい方向にしかいかないからな。そうでもない? そうなんだ。世界史は苦手だ。てかボクは体育以外の成績が終焉に向かっていた。

 語ることももうないかも。

『シルバーコイン』は結局死んじゃったぽいし。死因? そうだなア……きっと狙撃手くんじゃね? あの癇癪で結構な数死んだし。順当に考えるとこのへん。ボクが出てきたこのタイミングでネタバラシをしないってことはそういうことなのだ。死人に口はない。んで、天国も地獄もない。なので会話はできません。単純明快だ。こういうわかりやすい事象はとっても好み。長が考えたご計画とか、魔王の特別性とか、そういうのはよしてほしいんだよね。『トリックスター』はどこまでも単なる一般人である。『魔法』も持ってなきゃ『前』の記憶があるわけでもない、本当に、ただ野球が得意な学生だった。そして狂言回しだった。ボクは物語を加速させちまうらしく、両親の寿命が縮み、モニカが諦めて、マギーの死因を作っちゃったんだ。長の『魔法』と効果は一緒。いや、ちょっと違うかな。ボクのは制御不能だもの。いるだけで周りは早死にしてく。それを特段悲しいと思ったこともないけど、じゃあボクがいなかったらどうなったんだろうとちょっとだけ思ったことがある。今回の件で言えば、両親は大往生したのだろうかとか、モニカは最後の最後まで、『前』の自分が伝えられなかった思いを伝えるために頑張ったんだろうかとか、マギーは結局信仰対象を見つけられることはなく諦めて真実としての人生を再開させたのだろうかとか、くっだらねえifの話。タラレバここに極まれり。そんな未来はボクの目で見られるわけがないのに、夜寝る前だとか、お風呂入ってる時とか、ボクのせいで死んだ人の死体を見た時とか、なんでこいつ今このタイミングで死んだんだ? ア、ボクのせい? そっかあ……みたいな気分にはなっちまうのである。センチメンタル。メランコリック。もしくは一過性の憂鬱。重苦しい、ちょっとした灰色のわだかまりがちょいと通りますよとヘコヘコ頭下げて通り過ぎてく。気持ちわる! 自分で言っといてなんだけど吐きそう。おえ。特段可哀想でもないやつの自語りほどきもいもんはない。うええ……。ボクが憂鬱になっていようが陰鬱になっていようがそんなのは関係なく物語は加速し続ける。ボクが舞台上に上がった時点で決まっていた末路だ。そいつァ脳髄の奥まで叩き込んでいたはずだろ。なるようになれ。そう思いながら登場したはずだ。ここまできたはずだ。長もそれを承知して計画したはず。だから、これは予定調和。停滞を無理やり加速させるボクがいたからこそ、長はこの計画を練った。

 だから、これでいい。

『トリックスター』は狂言回しである。物語を掻き回し掻き乱し、ぶっ壊すことを至上命題とした生き物。怪物とはまた違う、ナニカ。ボクはどこまでもボクにしかなれない。モブにもなれなきゃ主人公にもなれない。ボクの存在を、長や魔王はどう思っていたんだろう? 主人公になりたいやつと主人公にしかなれないやつ。狂言回しという特殊な立ち位置のボクは、どう見えていたんだろうね。考えても仕方ないことではあるけど、まあ、こういうときばっか無意味な思考はよお回る。ぐるぐるぐるぐる回り続ける。洗濯機の中みたい。ボクの役目は狂言回しでいいはずなのに、なんでかそれを疑問に思う自分がいるのだ。気持ち悪い。ゆらゆら。ぐらぐら。なぜか揺れる。意味わからん。こんなに長く語るはずじゃなかったのに、ほんと、わからない。自分がやりたかったことがわからない。これでよかったのだろうか。悪かったのだろうか。勘違いだとしてもモニカとマギーはボクを仲間だと思ってくれていて、ゲームだって楽しくて、あの、秘密を共有した相手というのはどこまでも愛おしく思えてしまって。あれ? なんだ? 『トリックスター』はこんなことを語りたいわけじゃないだろ。なんだっけ。そうそう。勇者パーティの現在をお伝えしようと思っていたんだ。だからこのお話はしまいおしまい。さっさと退場すべきだろう。なあ? なんで無駄に引き伸ばしている? ボクがやりたいことって、なんなんだ? 役目は果たした。さて、その役目とやらは本当にボクがやりたいことだったのだろうか? そりゃそうだろ! やりたいことだったはずだ! いちいちうっせえんだよ! じゃなきゃ登場した意味がない生まれてきた意味がない。『トリックスター』の役目は物語の進行と加速。それでいい。それでいい。それでいい。それでいい。だからもう引き延ばさないでくれ。長の『魔法』が解けている。なるほど、これは偶然長に接触したなんの関係もない一般人にしかできないことだ。つまりはそういうことだったのだ。停滞。思考をストップさせなきゃこんな役目はやってられない。潰れない進行役を、狂言回しを作るために、ボクを。至上命題。命題? この説が正しいのなら、命題なんて、そんなものが、あるはずが──



 ……



『トリックスター』をどう思っていたか。


「そんなの『ジャッジメント』に聞かないでよ。野暮だなあ。……さっき『トリックスター』が言っていたように、彼はただの進行役だよ。なるだけ早く決着をつけるために生み出した、少年十字軍狂言回し。候補は何人かいたんだけどね。完璧なる一般人はいなかったから、彼がちょうどよかったんだよねえ」


 うん、だから。


「『トリックスター』は『トリックスター』であるとしか、認識してないよ」



 ……



『トリックスター』をどう思っていたか。

 ……はあ。いたか? そんなやつ。いたんだ。ああ、トリスタン……偽物だったわけね。見抜けなかったのは悔しいな。魔王としてのプライドはズッタズタのボッコボコである。はず……。

 そんだけ。

 別に、なんの思い入れもない。『トリックスター』がいたからと言って、この物語の結末が変わるわけじゃない。

 つまるところ、どうでもいい。

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