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選ばれなかった者たち6

茂みを蹴って走る。


泥が跳ね、枯葉が舞い、息が荒くなる。

拓真の肺は焼けつくように痛み、心臓は耳の奥で太鼓のように打ち鳴らしていた。


後ろで、「ガルルル…ッ!」と低くうなる声。

振り返る余裕はない。

もし足を止めれば、すぐにでもあの魔物に喰い殺される。


(…最悪の判断だった…!)


今にして思えば、素人の自分たちが噂を確かめに森へ入ること自体が、狂気の沙汰だった。

けれど、情報が曖昧だったからこそ確かめる価値があった。それが"人の命"に関わるものならなおさら。



──数時間前。


「拓真くん、この地図…このへんに“浄化の泉”って書かれてる。見に行ってみる…?」


噂の真偽を確かめるため、拓真とメイは授業後に森の外縁へ足を運んでいた。

そこに現れたのが、《斥候種シェイド・ウルフ》――警戒領域外とされていた区域に、明らかに“おかしな”存在だった。


「待って…! あの動き、ただの魔物じゃない……索敵型……!」


メイが息を呑み、拓真の腕を引いて駆け出す。

このとき既に、彼らの生存率は著しく下がっていた。



「はっ、はっ……クソッ、体が重い……!」


逃げながら、拓真は脳内で現状を冷静に整理しようとする。


◆表示スキル:


・《未明ノ書》(未覚醒):情報不明

・《解析眼》Lv.1:構造を解析・視認

・《思考加速》Lv.1:危機時に思考速度向上

・《影の加護》Lv.1:認識阻害・気配遮断


使えるのは《影の加護》――相手の認識から逃れる力。

だが、それは完全な透明化ではない。位置や音、痕跡まで消せるわけじゃない。

それでも、数秒でも敵の注意を逸らせれば──。


「メイ、左に逸れて! 俺は右へ!」


「でも、拓真く──!」


「大丈夫、見つからない!」


拓真は即座に《影の加護》を発動し、茂みの中へ飛び込んだ。

メイは唇を噛みしめながらも、指示通りに別方向へ走る。


数秒後、魔物の咆哮と共に、別方向へ向かう足音が聞こえた。


(──今だ!)


拓真は息を殺し、《解析眼》を発動。

周囲の地形、斜面、足場、魔物の通路のパターン。

すべてを一瞬で読み取り、最も生存確率が高いルートを頭の中で導き出す。


「……よし、メイと合流して抜ける!」



一方メイは、全速力で倒木の下をくぐり、泥濘に足を取られながらも前進を続けていた。


(《共感》……まだ拓真くんが、"冷静"でいる……)


彼女のスキル《共鳴共感》が、拓真の心理と共振する。

鼓動、恐怖、焦り、けれど揺るがない意志。


(大丈夫……私は信じる)


そんな彼女の目に、魔物の影が映る。


「……ッ来た!」


メイはすかさず記録ポーチから石粉入りの袋を取り出し、地面へ放り投げた。


バァンッ!


白煙が立ち上り、一瞬視界が遮られる。

魔物がうなり声をあげ、動きを止める。


その隙に──拓真が飛び出した。


「メイ、こっち!」


「拓真くん!」


合流した二人は、事前に解析していた斜面へ滑り込むように突っ込む。

足元の岩を蹴り、傾斜を使って一気に下る。


「ここを抜ければ……村側の見張り台が見えるはず……!」


斜面を滑り、倒木の影に身を潜める二人。

魔物の気配が近づいては遠ざかる。

息を殺し、互いの手を強く握る。


「……ごめん、巻き込んじゃって」


「……ううん。私、ちゃんと選んでここに来たんだよ。拓真くんと一緒にいたくて」


足音が止む。


森の中に静寂が戻ったように感じたそのとき──


――ゴギィッ……!


頭上の枝をへし折って、魔物が再び現れる。


「……もう、逃げられない……?」


それでも、拓真はまだ思考を止めない。

解析、地形、隙、情報、すべてを繋ぐ。


「──《影の加護》を重ねる。メイ、俺に手を重ねて!」


「うん!」


彼のスキルと、メイの《共感》がリンクする。


――そして、気配が一瞬、空に溶けた。


魔物が首をかしげるように歩を止めた──。


(いける。これで、あと数秒稼げれば……!)


しかし、その時だった。


空気が震える。

風が前方から吹きつける。


「ッ!」


二人の目の前で、まばゆい光が森の奥を照らす。


――黄金の閃光と、青白き魔力の奔流。


その中に立つ、二つの影。

剣を掲げた“光の勇者”と、聖なる結界をまとった“蒼き聖女”。


「……ヒロト……ユイ……」


拓真が息を呑んだ。


その瞬間、魔物は目を細め、警戒するように後退した。

絶望的な死の淵で、二人はようやく“表の選ばれし者たち”と再会する――。

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