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選ばれなかった者たち 2

拓真は、その場を静かに離れると決意した。心の中では混乱と怒りが渦巻いていたが、どこか冷静な自分も感じていた。彼はただ一人、広間の外へ向かって足を進める。振り返ることなく、ただひたすらに歩き続けた。


騎士たちの目が鋭く感じられるが、拓真はその視線を無視して、広間を後にした。外に出ると、広大な庭園が広がっていた。空は晴れており、風が心地よく頬を撫でるが、その感覚が余計に虚しく感じられた。異世界に召喚されて、何をすべきかも分からず、ただ「選ばれなかった者」として存在している自分。自分の置かれている状況を受け入れることができず、心がどこかで折れそうになっていた。


拓真は、庭園の端に立って、空を見上げる。今まで自分が生きてきた世界と、ここはあまりにも違っていた。異世界の空は青く澄み渡り、広がる大地には見慣れない植物が生い茂っている。その風景はどこか美しく、どこか神秘的だが、拓真の心には何も響かなかった。


「あれ、拓真?」


その声が後ろから聞こえた。振り返ると、ヒロトが近づいてくるのが見えた。拓真は一瞬立ちすくんだが、すぐに表情を引き締めて振り向いた。


「ヒロト、どうして…」


ヒロトは笑顔を浮かべながら、拓真に歩み寄る。だが、その笑顔はどこか不自然だった。


「お前、あんなこと言われて落ち込んでるのか? まあ、普通はショックだよな。俺も最初は信じられなかったけど、もう少し落ち着けよ」


拓真はヒロトの言葉を無言で聞いた。彼は無理に笑顔を作ることもなく、ただ静かに立ち尽くす。それでも、ヒロトの姿を見て、どこか安心する自分がいることに気づいた。ヒロトは、今やこの異世界で唯一、自分と直接的な繋がりを持つ存在だった。


「ヒロト、お前…」


拓真は言葉を切り、何かを言おうとするが、その前にヒロトが続けた。


「お前が選ばれなかったからって、俺はお前を仲間外れだと思ってない。むしろ、選ばれたってことは、俺の役目が決まっただけで、これから一緒に戦う仲間だろ?」


拓真はその言葉を聞いて、一瞬だけ心の中で温かいものがこみ上げてきた。しかし、すぐにその感情が冷静に押し戻される。


「でも、俺には力がないんだ」


拓真は静かに言った。自分の心の中にある、否応なく湧き上がってくる不安と自己嫌悪を隠しきれず、言葉にした。


「だって、選ばれなかったんだぞ。ヒロト、お前とは違うんだ」


ヒロトはその言葉を聞いて、一瞬だけ黙った。だがすぐに、いつもの明るい表情を取り戻すと、拓真の肩を軽く叩いた。


「そんなことないって。お前はお前だろ? 選ばれなかったからって、すぐに諦めるなんて、俺が許さないぞ」


拓真はその言葉を受け入れようとしたが、やはり心の中で違和感を感じていた。自分は本当にヒロトのように戦えるのだろうか? それとも、結局のところ、何もできずに終わってしまうのではないかという恐怖が、胸を締め付ける。


「でも、俺ができることなんて、何もないじゃないか」


拓真は再び呟いた。彼は心の中でずっとその問いを抱えていた。選ばれなかった者として、この異世界で何をすべきなのか。力もない、自分には何の能力も与えられなかった。ヒロトがあんなにも力強く自信を持っている一方で、拓真はその正反対の立場にいた。


ヒロトはその言葉を無視するかのように、肩を再び叩き、笑顔を浮かべた。


「それでも、拓真がいるからこそ、俺たちは強くなれるんだ。俺は信じてるよ、絶対にお前にもできることがあるって」


拓真はその言葉に、何かを感じたような気がした。だが、すぐにその感情がすり替わる。自分にはそれができるのか? それとも、最初から選ばれなかったことが示している通り、何もできないのか。


その時、突然、遠くから騎士たちの足音が聞こえた。拓真とヒロトは立ち止まり、広間の方向を見つめる。


「呼ばれたようだな」


ヒロトが口を開き、拓真もそれに応じてうなずく。


「そうみたいだな」


二人は無言で歩き始める。拓真はその歩みの中で、どこか寂しさを感じていた。この異世界で、選ばれなかった者として、果たして何を成し遂げることができるのか。自分がいるべき場所、やるべきことをまだ見つけられずにいる自分に、焦りが募っていく。


広間へ戻る途中、拓真の心の中で、ある決意が固まっていた。それはまだ形になっていないが、確かなものであるような気がした。



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