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封印区域4-2

その夜、王都の静寂を破るように、拓真たちのもとに一通の密書が届けられた。小さな紙包みは、異常なまでに丁寧に封蝋され、封印された紋章が明瞭に浮かび上がっている。拓真はその封蝋をじっと見つめ、呼吸を止めた。


封蝋には、王都でも限られた者しか用いない特殊な印――“聖導官”の紋章が押されていた。それは、王国の内政を司る高位の神殿官や貴族が使用する印であり、裏社会での取引や陰謀の証としても知られている。普通の手紙では絶対に見かけることのない印だ。


「誰かが……内通者?」


拓真が低い声で呟くと、メイは言葉を飲み込みながら手紙を受け取り、慎重に開封した。中には一行だけ、手書きで記された文字があった。


《南区、供物の館。記録者に問え。仮面の名を、彼が知る》


拓真はその内容を何度も反芻し、視線を宙に彷徨わせた。彼の目がどこか遠くを見つめているような感覚に、メイは静かに息を呑む。


「供物の館か……都市伝説扱いされていた場所だ。だが、それだけに、逆に注意すべきだ」


拓真が低く呟く。その言葉には、慎重さと警戒心がにじんでいた。


「行くの?」


メイが尋ねる。拓真は彼女を見つめると、深く息を吐いた。


「行くよ」


「これが“呼び水”だ。罠かもしれない。でも、これ以上何も動かせない状況が続けば、逆に自分たちが動かされることになる。情報が欲しい――そして、この“仮面の名”というのが、クレイか、セイリオスか、それとも別の人物なのかを突き止める必要がある」


拓真の言葉に、メイは一瞬迷いを見せたが、すぐに頷いた。その表情は、拓真の決意を支え、そして彼を信じる者のような強さを持っていた。


「私も一緒に行くわ。拓真くんを一人にはさせない」


拓真は少し驚いたように彼女を見つめたが、すぐに冷静に頷くと、軽く微笑んだ。


「ありがとう。でも、もしもの時は無理せず、君は引き返すんだ。無駄な危険は避けたい」


「わかってる。でも、何も知らずに後悔するくらいなら、行って確かめたい」


その言葉に、拓真は再び無言で頷き、手にしていた密書をそっとしまい込んだ。続けて、地図と手帳を広げて、その場所――南区に位置する“供物の館”の周辺地図を確認する。そこは王都の南端にあり、古くから荒れ果てた地域として知られ、今ではほとんど人が住んでいない廃墟地帯だった。


拓真の思考は、一度その場所に触れたことのある記憶を呼び起こす。それは、王都で発生した異変の兆しのひとつとして、わずかながら耳にした噂の一部だった。しかし、都市伝説として消えてしまったそれが、今まさに現実のものとして目の前に立ち現れた。


「準備をしよう。夜が明ける前に、あの場所に辿り着かないといけない」


拓真は軽くメイに言った後、暗く湿った夜道へと足を踏み出す。王都の静寂が支配する夜、この一歩がどれほど大きな意味を持つのか、それを理解しながら進んでいった。


その時、拓真はふと思う。封印された“供物の館”――あの場所で待つのは、いったい誰なのか。そして、そこで得られる情報は、どこまで真実を示すのか。だが、それを確かめるためには、彼自身がその目で見る必要があった。

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