「アリと、花と、まじめな横顔」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
校門ちょっと手前、いつもより早く来た朝。
花壇のマーガレットが朝日で透けてて、なんか“撮っておきたくなる”空気だった。
スマホを構えたら、花びらの影にちいさなアリを発見して、目線がすぐ地面にスライド。
――“きれい”と“おもしろい”が、頭の中で同時再生されるの、よくある現象です。
荻野目 蓮
ちょっと早く着いた朝。
ふと花壇の前でしゃがんでる陽葵を見つけたけど、なんか顔がまじめで声かけにくくて、
とりあえず近づいて“観察する側”に。
――観察者の観察って、たぶんいちばん静かで、優しい時間。
【こんかいのおはなし】
朝の学校って、
まだ“誰の時間でもない”感じがする。
ちょっとだけ早く着いたから、
校門の脇にある花壇で足を止めた。
「……この光、すごい」
マーガレットの花びらが、
朝日で透けてて、
なんか“やさしい紙細工”みたいだった。
スマホをそっと構えて、
画面越しに角度を探してたら――
「あ、アリ……!」
花びらの影を、ちいさな黒い点が動いてた。
わたしはしゃがんで、スマホをしまって、
地面に近づいた。
アリは、ちゃんと道を選びながら、
石と石の間を迷いなく歩いてる。
「……かしこいなぁ」
そのときだった。
誰かの影が、ふわっと差し込んできた。
「……なにやってんの」
声の主は、蓮だった。
さっきまで気配なんてなかったのに、
すぐ隣にいた。
「アリ観察中。いま、マーガレットからお引越し中らしい」
「花見てたと思ったら、
視線の位置が下がってるの、おもしろかった」
「ねえ、わたしそんな観察されてたの?」
「うん。
……けっこうまじめな顔してた」
「うわ、はずっ」
「でも、そういう顔してるときの陽葵って、
“すきなこと考えてる顔”って感じする」
「それ、どんな顔……」
「たぶん、俺しか知らないやつ」
言われた瞬間、
なんか、
花よりアリより、
顔が熱くなった。
「――なんでそういうこと、
さりげなく言うの……」
「朝だからじゃない?」
「どんな理由……」
ふたりで小さく笑って、
立ち上がった。
朝日が、
花壇も、アリの道も、
わたしたちの影も、ゆっくり照らしてた。
“見つけたくて見た”ものも、
“見られてたことに気づかない”ものも、
ぜんぶ今日という日の中で、ちゃんと光ってる。
【あとがき】
花を撮ろうとして、アリに出会って。
アリを見てたら、自分が見られてた――
この小さな連鎖は、
“好きの気配”がどこまでも静かに広がってる証なんですよね。
朝の風に包まれながら、
ふたりの世界が今日も始まりました。