指輪の炎痕
タイトル:東京湾岸シンドローム
第1話「指輪の炎痕」
提供:Mrギンギンバーガー
二十四時間ジム、モンテスマ・ゴー・ゴー
SOKOMO
東京湾岸。午前四時、十三分
貨物コンテナが無造作に積まれた埠頭で、煙が上がっていた。
第一発見者は、近隣の物流会社に勤める運転手だった。
焦げ臭さに気づき通報、駆けつけた湾岸署の巡査が見たものは、焼却寸前の『それ』だった。
死体。 顔は判別不能。全身が黒焦げで、判別できる部分はほとんどない。
しかし、左手薬指だけが奇妙に焼け残っていた。そこには銀色の指輪。
「……よくこんな燃やし方をしたな」
神埼陽介は、煙の残る現場でしゃがみ込み、無言で指輪を見つめた。
後輩の警官、山下元輝が近づく。
「おはようございます、神埼さん。遺体、搬送の準備できてます」
「DNA鑑定が最優先。あとは……この指輪、ラボに回せ。焼け残ってる理由がある」
「はいっ」
神崎の声は低く、感情の起伏を抑えていた。
だが、その視線の奥には、過去の亡霊を追いかける者の色があった。
おもむろに、神崎は、Mr ギンギンバーガーの春の新作、
焼肉生姜バーガーを取り出す。
今年のソースは甘口の中にも生姜が効いており、味にピリッとしたアクセントをつけている。
バンズの中には、二枚のパテと、契約農家から取り寄せたレタス。レタスに隠れて、
ニンニクチップスが入っている。チップスの先端は三角の切れ目が入っており、
なんとニンニクチップスで桜の花びらを再現しているのだ。
「それ、ギンギンバーガーの新作ですか? いいなあ。美味しいですか?」
「美味いよ。生姜がいいアクセントだ。
俺のお勧めはこれにギンギンバーガーオリジナルのエナジードリンクをセットで頼むことだ。
なんとポテトもついて九百五十円だ」
「わあ! お財布にも体にも優しいハンバーガーですね!!」
「このハンバーガーは五月一杯で販売終了だから、最寄駅のギンギンバーガーに急げ!! だぜ!!」
「…… ……はい!!」
現場をあとにし、神埼は湾岸署のエレベーターを上がる。途中、スマホに通知が届く。
件名「I'm Back. -M.」
震える指先で、本文を開く。 《Are you ready to burn again?》
神崎は目を細めた。
「……(舌打ち)まさか、お前なのか」
と、スマホにもう一通の通知が届いた。
『二四時間ジム モンテスマ・ゴー・ゴー!! 錦町駅西口にグランドオープン!!
各種設備に加えて、駐輪場、サウナ、シャワー、コインロッカー、水素水も完備。コワーキングスペースも使いたい放題!
今なら入会費無料。夏に向けてベストな体を手に入れよう!!』
「ジム……か……。最近増えたな。二十四時間ジム。
俺の中で、何かが始まりそうだぜ……」
山下が背後から声をかける。
「神埼さん、例の指輪ですが、あれ、イタリア製の高級ブランドですね。刻印がありました」
「ブランド名は?」
「"Mortavia"──過去に何件か、同じ指輪を巡る事件があったようです」
神埼は、一瞬だけ目を見開いた。
「Mortavia……」
指輪が、また現れた。
そして、“M”からのメッセージ。
これは単なる殺人ではない。 何かが、再び動き出している。
神埼はコートのポケットを握りしめた。そこには、かつての事件で焼け残ったもう一つの“指輪”があった。
……そしてそれを再びポケットにしまうと、ポケットから新しいスマートフォンを取り出した。
黒いシックなカラーリングに、カメラは十六個もついている。
もちろん防水性に優れており、お風呂でも動画が撮れる、見れる。
何よりポケットに収まる手のひらサイズだ。
山下は早速食いついた。
「あ! sokomoの新作 アイプーンですね!?」
「そ。先週発売された最新モデルだ」
「かっこいいなあ!!」
「かっこいいだけじゃねえ。とても利便性に優れてるんだぜ。
最新チャットGPTも搭載していて、十六種類のカメラでシチュエーションも選ばない撮影・収録もできる。
容量は40Gだ」
「40G! すげえ!!」
「先行予約は今日からだ。 新生活をゲットしようぜ」
──第2話へ続く──