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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

泣き虫小人と友達

作者: 夏葵蓮

ぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

【桐】は小人族の中でも更に小さく気も弱いためいじめられていた。


「ぐすっ。」


小人族の中には友達といえる存在もいなく、

遊ぶ相手は岩山に住んでいる狼くらいだった。


「わふっ。」


中でも桐と仲のいい白狼【ガウ】はいつも一緒にいた。

ガウは桐が小さい頃に罠にハマっていたところを助けた白狼だ。


「わっ、くすぐったいよ!ガウ!」


泣いている桐の顔をべろべろ舐め回し、

そんなに泣くなよ!と言わんばかりに周りをぐるぐる回っている。


「ははっ!分かったよ遊ぼう!」


遊びまわり気づいたら夕方、じきに夜になる。


魔物が出るから帰らなくては。


「またね!ガウ!」


ばふっ。と泣いたガウは颯爽と帰っていった

正直村には帰りたくない。


家につき、扉を開ける。


「こんなに遅くまでどこに行ってたの!」


母の声が響く。


「別に遊んでただけだよ」


「全く、夜は危ないんだから、」


また始まった

母は小言が多いのだ。


「わかってるよ。じゃあ僕は部屋に戻るから!」


ちょっと!という声を無視して急いで2階に上がる


「いちいち聞いてらんないよ...」

思わず呟く。


さっさと布団に入り眠りにつく。



朝になり、起き上がると美味しそうな匂いがすることに気がついた。


「そういえば、昨日ご飯食べてないな。」


一階に降りるとシチューを作っている母の姿


「おはよ!お腹すいた!」


そういうと呆れた顔をして


「あんた昨日夜食べてないからでしょ。いっぱい作ったから食べなさいよ」


そういうと座った僕の目の前にドンとシチューを置く


「いっぱい豆入ってる!」


ガツガツと食べ始めた僕を満足そうに見て


「それじゃ母さん仕事行ってくるから!」


バタバタと出ていく母


「いってらっしゃい!!」




食べ終わった僕も学校に行く準備をする


「行きたくないな。」


学校に着き教室に入るとニヤニヤした奴が目に入る。

なるべく目を合わせないようにしていたら向こうから来たようだ。


「泣き虫が今日も来たのかぁ?」


そう言って立ちはだかる【杉】


「何?」


「いやぁ、昨日も泣いて帰ったのに今日も来れるメンタル回復法を教えて欲しいなって思ってさ!」


いちいち腹の立つ奴だ。

無視して通り過ぎて席に着くと横の女の子がこっそり話しかけてくる。


「気にしない方がいいよ...」


「うん。」


そんなことはわかっているがイラつくものだ


先生が入ってきて授業が始まる。

今日は釣りの授業だそうだ。


小人族は狩りが得意ではなく

授業では釣りや罠、きのみなどについて学ぶ


先生の話をぼーっと聞きながら

釣り具を作成していく。


先生の話を聞かなくても釣具が作れるのは母が教えてくれたからだ


「できた」


そう言った瞬間横から奪い取られる。


「なんだこれ!ヘッタクソだな!」


杉とその取り巻きが立っていた。


「ほんとだ!折っちゃおうぜ!」




残ったのはぐちゃぐちゃになった木の破片だけだった。


先生は、何も言わない。

杉が村長の息子だから。


気付いたら僕は杉を殴り倒していた。


「イテェ!」


杉が前に転んでしまう。


「何すんだよ!」


「杉くんに謝れよ!」


取り巻きたちが詰め寄ってくる。

その場から僕は逃げ出した。


夜になり、母が帰ってくる。

少し帰ってくるのが遅かったように感じる。


「ごめんね!遅くなって!ご飯作るからね!」


「うん。」


わかっていた。

知らせを聞いて謝りに行っていたんだろう。

母の頬が赤くなっているのは、きっと。


「ごめん。」


小さく、口の中で呟いた。



それから杉は明らかにいじめてこなくなった。

こちらをチラチラ伺うだけだ。


そうして時は流れ、卒業をして、

みんなそれぞれ得意だったことをして暮らしている中。


僕は今日もガウと遊んでいた。


釣りも罠も小道具を作ることもあまり得意ではなかった僕は大人になっても役立たずだった。


「ガウ。僕は何ができるんだろう。」


真剣にガウに相談してしまうほど病んでいた。


「ばふっ!」

大きな声で返事をして尻尾をパタパタ振る。


ガウも成長をして今では僕よりも全然大きくなってしまった。


「こんなんじゃ母さんを安心させてあげられないよ。」


最近は危ない話をよく聞く。

帝国がやけに異種族を殺し始めたそうだ。


少し前ではケンタウロス族の村がほとんど焼かれたらしい。

最強の将軍とやらが暴れているそうだ。


「物騒だよなぁ...ガウ?」


そんなことを考えているとガウが唸り始め、駆け出した!


「どうしたんだよ!」


僕も後から追いかけて背中に乗る。


向かっている方向は村の方だ。

ガウは罠にかかってから一度も村に近づいたことはない。


ごちごちした岩山を抜けて村が見える丘について、

すぐ何かがぶつかり合う音が響いていることに気づいた。


「なんだ、あれ」


目を凝らしてみると

帝国の旗を掲げた奴らと大男が槌で門をこじ開けようとしてる。


「...!母さん!」


全速力で走り出す。

後ろでガウが吠える声が聞こえる。


数分もたたず村にたどり着いた。

音は、もう止んでいた。




家までは一瞬だった。

ドアをこじ開けようとしている帝国兵に後ろから襲いかかる。


「なんだこいつは!!」


突然のことで驚いたのか、剣を奪い取ることに成功した。


「囲め!かご」


声を出していた兵士の首に剣を差し込む。

司令塔だろう。


「は?」


呆けているもう1人の鎧の隙間も切り裂いた。


誰も気付いていなかった桐の才は、

幼い頃から鍛えられた狼にすらついていく速さと筋力だった。


「おかしいぞ!小人族は弱いんじゃなかったのか!」


騒いでいる。


僕はおかしくなったんだろう。


殺すことに何も思わなかった。




家の中に入ると母がいた。


「大丈夫!?」


一言目でそう言われ、

母は偉大だな。と思った。


僕の体は浴びた血で真っ赤だったのに。


「ごめん」


「こんなんで、ごめん。」


僕はきっと、これでしか役に立てない。


「桐、あんたは私の誇りだ。」


「無事に帰っておいで。」


母の言葉に頷き、一際大きい音が鳴った広場に駆ける。


杉と村長がいた。


その横には集められたであろう小人族達


「お前らが隠してる秘宝の場所を言え」


大男がその低い声で村長達に言う。


「言うまで他の小人族を一人ずつ潰していくぞ」


そう言い一人の首を締め上げる。


行かなければ!

腕は届かないから、狙うなら足だ。


「ん?」


反応が早い!

掴んでいた村人を投げ捨て槌を振り下ろしてくる。


潰されるッ!


衝撃と共に横に転がる。


「ばふっ!」


目の前にガウがいた。


「危ないから来ちゃダメだろ!」


ガウは大男を見据える。

言うことを聞く気はないようだ。


「二人なら...」


この大男はかなり強い。

きっと衛兵達はこいつにやられたんだ。


「我が名は巨人のエグモント!」


「チビ!名乗れ!」


輝かしいほどの笑顔でそう言ってくる。


返答は駆け出しながらでいいだろう。


「桐だ!」


剣を槌にぶつける


「桐!小人族のくせに男らしいな!!!」


ガハハと笑いながら弾いてくる。


「ガウ!」


後ろに回り込んでいたガウがふくらはぎに噛みつこうとして蹴り飛ばされる。


注意は足元に向いている。

ジャンプすれば首を狙えるだろう。


本当にか...?


考えて止まった瞬間槌が振り回される。


「おっ?乗ってくると思ったんだがなぁ」


槌を肩に構え直し頭をかいている。


罠だった。

ガウはこれじゃ蹴られ損だ。


「ガウ、大丈夫か?」


「ばふっ!」


吠えることで平気なことを伝えてくる。


何か崩す方法が、あるはずだ。


考えた隙を狙われたのだろうか、

こちらにかなりの速さで走り出してくる。


「壁!?」


デカすぎて壁が迫ってくるように感じる。


「ふんっ!!!」


振り下ろされた攻撃をなんとかかわして

その際に見えた隙に剣を差し込んだ。


「うぉ」


エグモントの腕に赤い線が走る。

これしかない。


距離を取りガウに小声で話しかける。


「僕が隙を作る。ガウは隙をついて右の足だけ狙うんだ。」


ばふっ!そういうとがうは少し離れる。


牽制気味で剣を振り、相手の高速で振るわれる槌を避け続ける。


ガウがたまにつけてくれている右足の傷は効いているだろうか。


何回繰り返したかわからないが決着はあっさりとついてしまった...




エグモントの槌が体に突き刺さる。

とてつもないスピードで景色が流れていく。


あ、死んだかな。


背中を思い切り木に打ちつけ意識が飛びそうになる。


辛うじて保った意識の中


「ガウ、逃げろ」


巨人が奥から迫ってきている。


「桐。お前さん強かったぜ。」


槌が振りかぶられる。


ドン。










...?


エグモントの胸から剣が出ていた。


「え?」


エグモントが後ろに向かって思い切り槌を振るう。


吹き飛ぶ小さい影。

あれは...杉だ。


「クソ、気付いたがまさかこの俺がバランスを崩すとは、」


...まだやれる。

体は重いが動けそうだ。


「先にあっちから殺してやる...卑怯者が」


そう言いながら去っていくエグモントの胸から剣を抜き取る。


苦悶の声をあげ、崩れ落ちた。

その首に剣を押し付け無理やり切り落とした。


「ガウ、あの人の場所まで、」


ガウに咥えられ運ばれる。


居た。杉だ。


「なんで、お前が」


そう言うと杉は


「なぁ、言ってなかったんだけどよ」


独り言のように呟いている。


「桐、あの時はごめんな。」


きっと後悔していたのかもしれない。

やり直すことだってできたはずだ。


杉を背負う。


「村に戻ろう。杉」


帝国は撤退したようだ。

巨人がやられた知らせでも届いたのだろうか。


そして数日が過ぎた。


村は少しずつ移動の準備を始めていた。

またいつ襲われるかわからないからだ。


「杉。大丈夫?」


「なんで逆にお前はもう治ってんだよ」


杉はなんとか生き延びた。


今回のことで僕は小人族の英雄とか呼ばれるようになったけど、

そんなことよりも良いことがあった。


ガウだけじゃなく、

もう一人の友達ができたことだ。

最後まで読んでいただかありがとうございました!

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