第3話 変更は突然に
検問所の通過はあっさりとしたものだった、ベルデが出した電子パスを検問所のメインコンピューターに送ると、重量、各種センサーや重装備の係員による調査は無くそのまま通される。
正直、荷物や同乗者を調べられたら内容が内容なので足止めは覚悟していたが情報部はきちんと仕事をしてくれたらしい。
そのままハイウェイを進んでいくと、第1目的地のダイナーに着く。
予定ではここで情報部のエージェントと会って、次の場所へのパスと情報を受け取る手はずになっている。
タロスにアンジェラを残そうとした時、アンジェラとひと悶着あった。
「ベルデ、あたくしを一緒に連れて行きなさい」
「いや、トラブルを起こしそうなので止めて下さい。なんでダイナーに行きたいんですか
?」
「ええ、それは市井の者が何を食べているのかや、どんな様子なのかを知る為ですわ」
ふふん、と言った風で胸を張るアンジェラの様子にため息をつく。
「アンヌ、ここでもしトラブルが起きて解決に時間がかかった場合、目的地に時間通りに行けない可能性が高くなるんです。それに不必要にアンヌを他人と接触させたくない、理由はいくら変装をしていても、それを見破られる可能性が高くなるからです」
「あら、王国軍で使われている変装インプラントでもダメですの?」
「あまり市井の技術を舐めないで下さい。見破るスキルを持っている人もいるかもしれない・・・こういう秘密の仕事では臆病なくらいがいいんです」
「そう、それでは仕方ないですわ。で・す・が」
「はい?」
「地方都市タージュでは、少し外に出歩かせてもらいますわ。これは命令ですわよ!」
ビシッと指を突き付けて訴えるアンジェラ。
「それは、現地の治安状況を確かめてから決めましょう。それでは行ってきます」
「わかりましたわ、せめて操縦席から外を看させていただけないかしら」
「ええ、それくらいはいいですよ」
そんなやり取りをした事を思い出したベルデは、ダイナーの適当な席に座るとすぐに接触があった。
「ベルデさんかな?」
隣に座ったのは、身長2メートルに届きそうな立派な体躯をした青年。
戦闘用インプラントを着けているうえ、遺伝子にマルジ熊の遺伝子を組み込んでいるように思える。
いかつい顔に似合わず、その目には敵意は無いのでベルデは警戒を解く。
「ああ、あんたは?」
「おれは・・・まあ、グリズリーとでも呼んでくれ。ここに例の情報を入れてある。あとはニュースがあるんだが良いニュースと悪いニュースのどっちから聞きたい?」
「ハイイログマさんね・・・まんまじゃないか?それでは良いニュースから」
「へえ。逆は多いんだが意外だな。それじゃ、この仕事の報酬は上乗せになるようだ。俺もそのおこぼれに預かれるので嬉しい。そして悪い方のニュースは帝国軍の動きのため軍は前線を下げている、これによりハイウェイはあと5時間で軍専用に切り替わるから別ルートを通ってくれ。到着予定時刻は守れとの事だよ」
「マジかよお・・・やってくれるぜ。通行パスはこの先も使えるのか?」
「厳しいだろうな、戦時体制になった検問所はもっとランクが高いパスでなければ通れないだろう」
「はあ、到着時間の変更は無いんだろうな?具体的に遅い方で」
「ああ、それじゃ励んでくれよ」
そうグリズリーと名乗ったエージェントは、ベルデにデータチップを渡した後に会計を済ませて出て行く。
ベルデはそれから10分後にダイナーを出てタロスに乗り込む。
「遅かったですわね」
「ああ、悪い知らせです」
揶揄する口調のアンジェラにベルデは詳細を話すと、アンジェラの表情が険しくなる。
「王国軍も不甲斐ないですわね!輸送艇1隻のルートも確保できないなんて!」
「何が起きたか、このチップに入っているといいんですけどね」
そうグリズリーから受け取ったデータチップをスロットに入れて、タロスのコンピューターに読み込ませると、操縦席に地図の立体映像が浮かび、その中に5つの光点が表示される。
『ここに表示された目的地までのルート選定は任せる。だが情報共有と物資支援ため4つの地点を通る事は必須である』
そう立体映像に記載された文字と、立ち寄り地点の位置を見てベルデはコンソールを指で神経質な仕草で叩く。
「王国軍の奴らめ、やりやがったな」
「ベルデ、どうしたのですの?あたくしに分かりやすいように説明して下さる?」
「わかりましたよ。この地図は俺達に指定された立ち寄り地点を示しているんですが、4つとも帝国軍の勢力圏内に近く、戦況によっては帝国の勢力圏内を通過しないといけないんです。さらに、アンジェラ様の行きたがっている中立都市のタージュは3つ目のウェイポイントに当たりますが、その周辺の治安は前線が近い事もあって悪化しているようですね。2番目のウェイポイントとタージュの間は注意深く動く必要がありそうです。それで、さっきまでの予定ルートは変更して、これから3つの候補からルート選定をしないといけないのですよ」
「あら、ご苦労な事ね。ルートの内容を見てもよろしくって?」
「どうぞ、ルート1は最短距離ですが、ほとんどの距離を帝国軍の勢力範囲の中に入っています。ルート2は王国軍の勢力範囲の中を多めに行く感じです、ルート3は安全策で王国軍の勢力範囲を行きますが距離が長いので、もし何かあった場合は、確実に遅延しますね」
「ふーむ、なかなか難しそうですわね。ルート2が良さそうに思えますけど?」
「正直、王国軍の頑張りに依るんですよ。ルート2と3の混合なら安全そうですね」
「ベルデの言う方法でいいと思いますわ。ただウェイポイント4から目的地まではルート2では距離が開くので、一番距離の短いルート1を使いましょう」
そうきっぱりと言ったアンジェラを、ベルデがジトッとした目で見る。
「そこは、かなり危険です。最悪タロスを置いてエウネミアで到着になりかねない、それに戦闘になったらアンヌの命の補償は出来ませんよ?」
目的地とされている場所は、森林地帯の奥の遺跡付近と指示されている。
ここにアンジェラを運ぶ意味は不明だが、行き帰りで戦闘が発生する可能性が高い。
エウネミア単独ではそんなに長距離、長期間の行動は出来ないためアンジェラの申し出に不審を覚える。
「いいえ、戦力に当てがあるのでそうして。これは命令よ」
そうキッパリと言うアンジェラに、
「最後のルートは、ウェイポイント4での情報収集をしてから決めましょう。それでいいですね?」
ベルデは安全策を提示して、アンジェラの様子に少し不審を覚えながらタロスを発進させる。
大型輸送艇が土埃を上げる中、その姿は闇の中に消えて行った。