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第2話 我が儘令嬢のお泊りセット

「はあ・・・?」

 ベルデは自分がかなり呆けている顔をしている事を自覚している。

 顔に完全にフィットするはずの愛用の眼鏡が、絶対にズレ落ちているんだろうと思う。

 そして、その原因となったアンジェラは目の前で堂々と立って居るのを見て、徐々に脳が再起動を果たす。

「とりあえずは・・・だ。航法システムに目的地をインストールするから待っていてくれないか・・・ですか?」

「おほほ、急に敬語になったのね?いい心がけだわ、褒めてあげましてよ」

「それはどうもです」

「あたくしはこの窮屈な服から着替えたいので、あたくしの部屋を展開してよろしい?」

「展開?どういう事だ・・・ですか?」

 ベルデの問いに艶然と微笑むと、アンジェラはブレスレット型の情報端末を操作して立体映像を浮かび上がらせる。

「これですわ!凄いでしょう?これは王国屈指の工房が作り出した、貴族旅行用の携帯個室ですわよ」

 その映像は、簡素な3Dで全長6メートル、高さ3メートル、幅5メートルのドア付きボックスが表示され、ご丁寧に王国の紋章が描かれている。

「ほら、ドアをタッチしてごらんなさい?」

 言う通りにすると、そのボックスの中に入った様子が表示される。

 そこには、華美過ぎず機能的に洗練された家具などが一式揃った部屋の風景が表示されている。

「この格納庫にすぐに展開しますわ。異論はございませんよね?」

「いや、これはどこにあるんですか?」

 そう言うと、アンジェラは先ほど積んだ背後のコンテナを指差し一枚の書類を表示する。

「これがそのお部屋ですわよ。荷物の諸元は見ての通り」

「ええと、家具含む部屋一式、着替え一式、高級食材一式、なんですかこれ?」

「察しが悪いですわね。結婚前のうら若き乙女が殿方と一緒の空間に居るのは問題があるでしょ?この部屋一式はあたくし専用のスペースを作るためのものですわ。ええと、王国軍では展開式野戦指揮所、だったかしらね。あたくし用にカスタムしているけれども、頑丈さは軍用のそれに準じますわよ」

「え、あのクソ高い指揮所を個人使いですか…」

 ベルデが軍に居た頃、主に貴族出身の士官が使う移動可能な野戦指揮所を見た事がある。

 そしてそれは、下士官の年収を軽く超える金額だったと思い出す。

「ええ、あたくしは貴族ですから。それで、やってよろしくて?」

「良いですけど、スペースは大丈夫そうですかね?」

「それは貴方が調べて下さいな」

「あーはいはい」

 色々と諦めの境地になってベルデは貨物室のスペースのシミュレーションプログラムを走らせると、アンジェラの持って来た荷物を展開できる事を把握する。

「それでは、失礼をして・・・」

 そうアンジェラが情報端末を操作すると、荷物(野戦指揮所)が自動的に展開を始める、5分もすると外壁が出来上がっていく。

「さて、出来上がるまであたくしはお茶を頂きますわ。ベルデさんはお茶を淹れられて?」

「紅茶は無理ですが、緑茶ならお出しできますよ。お口に合うかは保証できませんが、というか絶対にアンジェラ様には合わないと思いますけどね」

「あら、緑茶ですか。当家は紅茶が多かったのですが、楽しみですわ」

 これは、淹れろと言う事なんだろうなと飲んだ後のアンジェラの叱責を考えて項垂れながらタロスに据え付けの小型キッチンへと向かう。

 数分後、湯気の立つ湯飲みに入れた緑茶をアンジェラの前に出す、茶請けは小さめの大福を用意したが高貴な身分の口に合うかなんて全く分からない。

「どうぞ」

「あら、ありがとう・・・。ふう、美味しいですわね。意外ですわ」

「それはどうも。俺はコックピットにいるので何かあったら声を掛けて下さい」

 緑茶を堪能しているアンジェラを置いてベルデが操縦をを進める、軍指定のルートを見ると前線から十分に外れていて、治安の良い場所を通る事がメインのようで安心する。

 もし、敵の機兵と交戦するとしても最終目的地の周辺らしい。

「それじゃ、行きますか。エウネミアと接続を開始、ミッションスタート」

 そう呟いてベルデはスロットルレバーと、姿勢制御スラスターのフットペダルを踏み込むとタロスはゆっくりとだが徐々に速度を上げてハイウェイを疾走し始める。

「ちょっと、ベルデいいかしら?」

 そして、しばらく走行していると後ろから声がかけられる。

「何です?・・・え?」

 操作を完全オートにして振り向くと、そこにはオレンジの髪はそのままに容貌が10人並みになったアンジェラが居る。

「これからの事を話しておこうと思って、まずはこのお仕事が秘密のものだという事は理解していますわよね?それで、お互いの名前と外に出た時の変装をしようと思いましてよ」

「まあ、秘密なのはもう十分に悟りましたよ。で、化粧での変装は分かったんですけど、すごいインプラント技術ですね」

「ほほほ、高貴な血筋では常識ですわよ?これは特殊メイクとインプラントで顔を変えているのよ。体型もいじりたかったのですが、アレは副作用が厳しいので間に合いませんでしたわ」

「いや、どういう基準ですか・・・。変装は俺もした方がいいですかね?」

「いいえ、あたくしだけで大丈夫ですわ。あとは、偽装用の名前を決めたいのですが・・・」

「はあ」

「貴方がつけて下さらない?出来ればアンジェラを元にして下さる?」

「そうですね」

 正直、いきなり無茶な事を言い出したアンジェラに「これが我が儘令嬢なのか」と思いながら思考を巡らせる。

「俺は誰かの名前を考えた事は無いんですけどね、アンヌでどうですか?あまりかけ離れる偽名ではそれに気が付かない事もあります。語尾をヌにした事で敢えて違和感を覚えさせて返答できる、という感じです」

「そおね、正直もう少し優雅な偽名が良かったのですが、我慢しますわ。言葉使いは今のものを続けて下さる?」

「ええ分かりました。ではよろしくお願いしますアンヌ」

 そう面と向かって呼ばれたアンジェラは、目を大きく見開いて意外にぎこちない微笑で答える。

「ええ、お願いしますわね」

 呼び捨ての不意打ちは成功だったようだ、ベルデは操縦席に戻ると遠くに首都地域から出るための検問所の姿が見えてきていたのだった。

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