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バッドエンドとバッドエンド後の出会い①

いつの間にかサーシャという少女になっていた。


王都から外れた片田舎の町。

弟は生まれつき病気で歩くこともままならない。

父も母も懸命に働いているが、田舎の農夫の稼ぎでは王都の著名な医者に弟を診せることは出来なかった。


私がサーシャになったのは、そんな時だった。

――少女の両目で視た世界は、絶望で一杯だった。


昨夜から弟の病状が急に悪くなったのだ。


胸を掻きむしるように苦しむ弟。

涙を流しながら看病に勤しむ母。

知り合いに医者のツテを探す父。


少女の身体から記憶も流れてきた。

数年前の記憶だろうか。

父が農作業をしていて、母と少女は一緒にパイを作っていて、弟はそんな何でもない一日を絵に描いてくれていて。


頭の中では温かい光景、目の前には絶望的な光景があった。

その温度差に、頭がついて行かなかった。


私はとにかくなんとかしたくて、必死で祈った。


『神様でも誰でもいいから、この子を助けて』


――その時、辺りが光り出した。


私の体から光が出て、弟の苦しんでいた顔が穏やかになったのだ。




我が家で幸運だったのは、サーシャ(わたし)が光の魔法を使えたことだった。

「光の魔法は治癒や浄化が出来る魔法でとても貴重だから王立魔法学園に通ってほしい」と一体どこから嗅ぎつけたのかわからない王都からの使者に言われた時には、チャンスだと思った。

王立魔法学園卒業という学歴を手に入れて、良い職に就き、家族に楽をさせるのだ。


入学したその日から必死に勉強した。

勉強し過ぎて首席になってしまっていたが、更に勉学に励んだ。例えどんな立場になっても、頭の中の知識だけは、誰にも奪えないことを知っていたからだ。


そんな矢先。

「殿下に色目を使って。どういう神経をしているのかしら。平民なのだから、慎みなさい」


三年の終わり頃。あともう少しで卒業という所で、貴族令嬢にありもしない嫌疑をかけられた。


「なんの話でしょう。殿下とは良き友人です」


私の学年には、第三王子殿下がいた。

課外学習で同じ班になったり、同じ科目を履修したりとなかなか接点が多く、いつの間にか勉学を教え合う友人になっていた。

ただ、この令嬢が言うような仲では全くない。


「ふん、どうとでも言えるわね。殿下からは離れなさい。でなきゃ痛い目みるわよ」


――今思えば、これは脅しではなく、忠告であったのだろうか。

人付き合いを疎かにしていた私には、あの令嬢の身分も名前も立場も、なぜそのような事を言ったのかも、その時はわからなかった。


卒業式の日。

卒業の証である首飾りを貰った後、私は王都から追放された。

理由は第三王子殿下の婚約者で、なおかつ宰相の娘である公爵令嬢曰く、

『家紋の入ったハンカチを泥で汚した。これは我が公爵家を侮辱する行為である。相手は平民で貴族の作法に無知である事から極刑は避けるが、王都からの追放は免れない』だそうだ。


――要するに貴族様お得意の言いがかりで、邪魔な私を排除したかったらしい。

卒業前に追放されなかったのは有難い配慮だが、既に決まっていたはずの高給な王都の魔法師団で働くという道は閉ざされた。


これ以上の厄介事に巻き込まれるのは御免だったので、さっさと学生寮にあった少しの荷物を纏める。家族に何も影響が無かった事だけは幸いだった。


学生寮を出る途中で数人の学友に声を掛けられたが、騒動を聞いて皆心配してくれた。

寮とは言っても私の他には貴族しかいなかったので、事情を話すと家のメイドからお抱えの商人の護衛まで、幅広い職を勧めてくれたが固辞した。

どれも有難い申し出だったが、私には夢があるのだ。


王都の魔法師団なら叶えられたかもしれないが、今となっては冒険者にならないと叶えられない。


冒険者になって一発当てるのだ。


王都を出る馬車に飛び乗る。

――目指すは、隣国との国境付近。


隣国はクーデターやら魔物の侵攻やらで荒れている。

そういった所では冒険者への依頼が後を絶たないのだ。

私にとってはまたとないチャンスであった。



馬車を乗り継ぎやっと着いた国境付近の町ドルテ。


「すみません、登録とこの依頼を受けたいのですが」


町の端にあるギルドで、2枚の銀貨と登録用紙、壁に貼ってあった依頼の紙を剥がして受付に渡す。

受付の女性はこちらをチラリと見て動こうとしない。


……無言で銀貨をもう2枚置くと、やっと口を開いた。


「登録と依頼受付ですね。完了しました。お気をつけて」


そう言いながら、銀貨を4枚ともポケットに入れて2枚の用紙を棚に適当に置いた。


「あの、登録証を下さい」


受付嬢は面倒くさそうに舌を打った後、登録証に名前を書いて渡してくれた。綴りが間違っている。これではサーシャではなくアイシアだ。


――まあ、いいか。名前なんてどうでも。

そう思い、訂正せずに依頼に向かう。


この世界のギルドでは冒険者のランクや依頼のランク付け等はされていない。そんなものを判断する事は魔法でも誰にも出来ないからだ。

例え稀少な魔法を使えてもダンジョンで生き残れるとは限らないし、依頼をどうこなすかは人によって異なる。

分不相応な依頼を受けて死んでも調査不足な本人が悪い、というスタンスだ。


私が今回受けた依頼は、南の森の中にあるダンジョン内でしか採れない薬草の採取であった。

先程の受付嬢の対応を思い出す。舐めまくった態度を取ってくれていたが、それも当然なのだ。


――自身の格好を見回す。


学園に通う上で王国から援助を受けていたため、それなりに整った身なり。

馬車に乗ってきたので靴もそんなに汚れていない。

野宿をしていないので髪もベタついていない。

大方、どこぞの裕福なお嬢様がお遊びで依頼を受けに来たと思われたのだ。途中で魔物に恐れをなして逃げてしまうのだろう、と登録証すら渡す気がなかった。


悔しいが、とりあえず冒険者としての一歩目だ。頑張ろう、と口角を上げる。

実は甘く見られて少し腹が立ったが、育ちが悪いので、お嬢様に誤解されるのは、まあ、そんなに悪い気分ではなかったのだ。


ダンジョンに着くと、魔物がうじゃうじゃといた。


「うえっ」


学園の実技試験で魔物と戦ったことはあるし、そこらの魔物には負ける気がしなかった。だが、森の魔物とは戦ったことがなかった。今まで戦った魔物はどれも動物の様に大きくて毛皮を被っており、目があり牙があり爪があった。

目の前の魔物は虫のように表面がヌルヌルで小さくていっぱいいる。蜘蛛の様なものもいれば、芋虫のようなものもいる。

正直、この依頼無理だ、と感じた。田舎暮らしのくせに昔から虫の類は生理的に受付ないのだ。


「炎よ。とべ!!」

手の平をかざし、魔法を放つ。

光属性以外の魔法も学園で身に付けたのだ。蜘蛛の様な魔物の一匹に冷静に火球を打ち、消滅するのを観察する。


――うん、通じる。

本当の意味での実践は初めてだったので、自身の魔法が魔物に通用するか不安だったのだ。


これならいけるかも、と思った時だった。


放った炎が魔物の横にあった木も燃やし、

その上にいた蝙蝠のような魔物を炙り、

驚いた魔物が羽ばたき、

同じ見た目の仲間を引き連れ襲って来たのだ。


「ひえええっ」


三体も飛翔する魔物が一気に襲いかかってきて、驚きで逃げてしまった。

実は欠片も冷静ではなかったのだ。

火属性の魔法は得意だが、森の中にあるダンジョンは木で出来た洞窟のようで、壁面が土や石だけではなく、木で覆われている所も多い。

酸欠になる恐れもあるので、火の魔法など普通は使わない。


――一度背を向けてしまうと、後ろからする魔物の鳴き声が怖くて、振り返ることは出来なかった。


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