モト親友
楽しんで頂けるよう多様な作品、展開を志してますので宜しくお願いします。
一回目
「あ、荒真希さん」
「ちょ、早くない?これでも30分前なんだけど…」
「実は、こう言うの初めてだから嬉しくて…」
「…張り切りすぎだっつの。行こ!」
3回目
「大丈夫だって。こう言うの馴れてるし、あそこまで追い詰めなくても」
「ごめん、あいつ凄いしつこいからついムキになっちゃって」
「…まぁ、あんがと」
5回目
「ごめん、遅くなっちゃった」
「…あの店員と何話してたの」
「え、別にただの雑談じゃん」
「…そっか、またナンパされるかもしれないし気をつけた方が良いよ」
「いや店員だし、大丈夫だって」
8回目
「明!いくらなんでもやりすぎだって!」
「ち、血が…でて…」
9回目
「ごめん…もう無理…」
~~~
「…はっ!…」
悪夢のような真実と共に目が覚める。この悪夢を見ても、それが現実だとわかると再び夢に戻りたくなる。
(…)
仕方ないと諦めつつモソモソと支度を始める、幸い今は独り暮らしなので逆にありがたい。こういった問題は親族に相談できないので一人の時間が増える方が良い。
簡単な朝食を済ませると、ひとつの写真立てが目に写る。
「…行ってきます」
喜びと憂鬱が混ざったような気持ちなりながら学校へと向かう。
~
玄関を開け、吹っ切れた様に向かう。
「ちょっとアンタ」
聞いたことのある声だった。
それはかつての友達で、家族にもできない様な相談をした人。凛としたツリ目に焼けた小麦色の肌、ちょっとしたツインテールの金色の髪が似合う、親友とも言えた人だった。
「ディレ…」
「話すの久しぶりね。ま、教室だと死んだ様に動かないし仕方ないけど」
「…」
「んで早速本題だけどさ…アンタなにしてんの?」
唐突に本質を突かれ、少し動揺する。
「それは」
「言っとくけど、あの元カノ?もう絶っっ対アンタのもんにはならないよ」
「…わかってる」
「わかってないでしょ、いつまで引きずってんの。
昨日もなんかやらかしたんでしょ?」
「どうでも良いけど、私に迷惑掛けんのはやめてよね。
それといつも通り学校でも話しかけないで」
そう言い残すと彼女は学校へと向かった。
僕は唐突な真実の現状を聞かされ立ち尽くす事しか出来なかった、頭がどうにかなりそうだ。
ただ、それとは別に今の現状を見据えて責めてくれた彼女に対し、感謝の気持ちもあるように思えた。
数秒立ち止まっていたが、冷静さを取り戻し学校へと向かった。
~~~
通学路の最中、和気あいあいとした生徒達が学校へと向かっている。一見当たり前の光景に思えるが薄っすらと影口や軽蔑の眼差しが僕へと向けられる。
ましになったとは言え今でも慣れない、少しでも反論しようとすると回りの反応より自分の頭が自制する、
「自業自得」だと。
「…ストーカー殴り付けたってマジなん?」
「あの子の怖がり様見たことないの?普通じゃああわならないでしょ。」
「やっぱり、ああ言うのってどうなん?好み?」
「いや~ないでしょ」
学校へ着いても離れたところから時折罵声が聞こえる。一日中ずっとこうだ、今さら否定するきにもならない。
尾ひれが付いた噂と孤独で頭がどうにかなりそうだ。
~~
「…てかさ~あの人にまだ付きまとわれてんの~?」
「そ、ホント面倒。まるでどっかの誰かさ…」
廊下を歩いていると再びディレと出会ってしまった、嫌なタイミングだ。
「………」
「あれ、黒井くんだけど話さなくていいの?」
「別に、行こ。」
そう言うと彼女はそのまま去っていった、大きな孤独感が身を包む。以前は親友とまで言える程の存在だつたのに、一体僕が何をしたって言うんだ。
(いやしてるだろ)
にしてもいつまで続くんだ、毎日同じ様に晒され少しずつ尾ひれがついていく。
(昨日も問題起こしたやつが何考をえてるんだ)
意味のない自問自答を繰り返す、考えるのをやめると負の感情に呑み込まれそうになる。
しかし回りの眼差しがそれを許してはくれない、突き刺さる目線に耐えられなくなり僕は駆け足でそこを離れる。
「やっぱり噂ってマジだったんだな」
「前も町中で彼女を着けてたって…」
やめてくれ
「人を脅してるってホント?」
「近づいたら脅されたってクラスの奴が」
違う
「病んでるって奴?怖…」
やめろ!
~~~
その後何をしていたかはあまり記憶に無い。走ってしまった気もするが気がつけば授業が終わり、夕焼けが照らされるなか校門をでて歩いていた。
(いつまで続くんだ…)
ゆっくりと帰り道を通りながらふと思う、きっとこの異常な性格が変わらない限り終わらないだろう。
しかし何度考えても解決策が浮かばなかった、彼女を見ると突発的に行動してしまう。
まるで人格を変えてしまうレバーを突然ひかれるように、自分では何も思いつかなかった。
(どうすればいいんだ…どうすれば……?)
ふと見れば家とは反対方向にある駅の近くにまで歩いていた。夕暮れでギラギラとした店が並ぶ。
(…よくここで友達と遊んだっけ)
思い出に浸りながら、昔よく入り浸ったゲームセンターを見かけ少しだけ興味をそそられる。
特に中にあるシューティングゲームのハイスコアはちょっとした自慢だ。久しぶりにと記録が誰かに抜かれてないか確認しようとなかに入る。
「ちょっと!!しつこいって!」
(!?)
入ると同時にけたたましい女性の声が聞こえる、聞き覚えのある声だ。
様子が気になりクレーンゲームの隅から横目に確認すると、今日何度目かのディレが見知らぬ人に怒っていた。
今朝の事もあり、暫くディレの様子を伺っていた。
「何度も言うけど、私貴方に興味無いんで」
「でもさ~、こんな所で鉢合わせたんだし一緒に遊ばない?どのゲームが好きなの?奢るからさ。」
「…話聞いてた?一人で遊びたいって言ってんの」
良くない雰囲気なのは見てとれる、ナンパ…だろうか?
どちらにしろ事が大袈裟になる前に助けないと。
彼女の性格から予期せぬ事態になりかねない。
早速助け船を出そうとしたその時、不安な思考がよぎらせ動かそうとした脚が止まる。
(何様なんだ…僕は)
前まで…いや今でもストーカーの様な行為で人に迷惑を掛けているのに、ナンパから助けるって明らかにおかしい話だ。いざ切り込んでも彼女に「お前が言うな」と言われるのが容易に予想できる。
僕は出そうとした脚を引っ込め、彼らを尻目にゲームセンターから離れた…
「だ~か~ら~、一回遊んで見たら良いじゃん。案外相性良いかもよ?」
「……」
「さっきなんかクレーンゲームで取ろうとしてたでしょ。とってこよっか?俺上手いんだよアレ」
「…今忙しいんで一人にしてもらえませんか?」
「スマホ見てるだけでしょ、せっかくゲーセンいるんだしそっちで遊ぼーよ」
「チッ…だから」
「聞いたんだけど、仲良かった男と最近不仲なんだって?そいつ忘れて一緒にゲームした方が有意義だって」
「…いい加減にっ!」
ガッ
「!?」
振りかぶったディレの手が後ろから掴まれる。
「?あなた誰。」
「…アキラ」
やってしまった、鼓動が高鳴るのがわかる。とにかく今だけは上手く事を進めないと。
「あの…今スマホで連絡して、て。ここで約束してたんで、だから…。」
「…」
「…」
全く上手く出来ない…思わぬ行動で呂律が回らない。彼らの冷めた視線が何故戻ったのかと軽く後悔させてくる。
「と、とにかく約束してたんで!すいません!」
明は掴んでいた手を引っ張りだす。
「ちょ、ちょっと!」
「…あっ!おい!」
二人が呆気にとられていたおかげでスムーズに事が進む。明とディレは手を繋いだままゲームセンターを後にし、久しぶりにお互いを意識したまま道を駆け出した。
~~~
「…っと、ちょっと!!」
「あっごめん」
必死すぎてまた冷静さを失っていた、どうやら駅付近とは程遠い場所まで走っていたようだ。
「ったく、さっさと離しなさいよ。」
そう言うと彼女はおもむろに腕をふるって離れる。
「…どういうつもり?」
「えっ…」
ごもっともな質問だが思わず聞き返してしまった。
「だから、関わるなっつってんのになんで首突っ込んでんの?大袈裟にとらえすぎだし、なに?振られたから今度は私に媚びうるってこと?」
思わぬ言葉に息が詰まってしまった、しかし心の片隅で今後異性にそのように思われる事は予想していた。
またも本質を突かれ彼女に嘘は通じぬと、ホンネで語ろうと言う気持ちが強くなる。
「僕は…どの口がって感じだけど、助けたかってのは本当。でも…今の自分を変えたくて、あの人を見て止めれば変われるかなって…。」
「チッ…アンタが?反面教師で?…少なくとも逆でしょ。」
ごもっともだ。
「大体さっきの言い回しなに?めっちゃダサかったんだけど!事前にセリフ考えつかないわけ?あんなんで変われると思ってんの?」
意地悪い笑みを浮かべながら延々と罵倒が続く、だが思っていたよりもシリアスな雰囲気にならずにすんで心のなかでホットしている。
それに昔に戻れた気がして少しだけ心地が良かった。
「…そこだけは変わらないでいいのに。」
(…?)
罵倒が終わると共に彼女がボソッと呟いた。
「…アンタ、明日学校終わったら時間作りなさい、いいわね。」
「えっ」
そう言い残すとディレは走って行く、相も変わらず嵐のような彼女に明は安心していた。しかし先程言われた言葉に段々と意識しはじめる。
(明日…学校後?)
その後、早々に帰宅した明は最後の言葉に一喜一憂しながら眠れぬ夜を過ごした。
~~~
「遅いっつーの!」
「ごめん…」
学校が終わり、どうしようかと考えていると「アンタの家前」という文が送られてきた。
正直連絡先は削除していると思ったので驚きだ。
「ほら、早く開けて。」
「…え、なかに入るの?」
「当たり前でしょ、ここで話せっての?誰かに見られたらどうすんの。」
家前と言われた時点でこの予感はしていたが、一体どんな話をするんだろうか。
「じ、じゃあどうぞ。」
「今さら改まってなにしてんのよ、早く入って!」
ディレに急かされ二人は家に入る、どんな形であれ久しぶりに友達を家に招けた(?)事に明は高揚していた。
二人はリビングを無視して二階にある明の部屋に入る。
「…ふーん、まぁ変わんないわね。」
部屋を軽く見回した後、僕に対し床に座れとジェスチャーを送る。理由を聞く暇もなくすごすごと従う。
~~
「……」
「……」
緊迫した沈黙が続く中、彼女はイスに座りながら此方を見下している。なんとなく正座にしたせいで、まるでこれから説教されるようだ。いや、もしかしたらそうかもしれない。
「………」ゾクゾク
「?」
「フゥ…アンタ、変わりたいんでしょ?」
「!…うん」
「どうやって?どんなふうに?」
「どうやってかはまだわからないけど、自分の…この気持ちを抑えたい。」
「具体的に」
「彼女を見ても…何も起こさないように」
「もっと!」
その時、ディレに後押しされたように一時でも自分の気持ちを忘れられた。
「密姫と、友達に戻りたい…」
少なくともこれが今言える精一杯の本音だった。
また罵倒がくるかもとディレの反応を見るのが若干怖い、というより暫く反応が無かった。
「…ま、いっか」
再び小さな声で囁くと二言目に予想だにしない事を言う。
「それ、本当でしょうね?」
「…うん」
優柔不断の僕でもこれだけは間違いないと確信を持てる。
「協力…しよっか。」
「……え」
「だから!変わりたいんでしょ!?いつまでも近くでウジウジされると昔近くにいた私まで迷惑なのよ!。」
協力の理由が嘘なのは長い付き合いでわかった。
普通こういう時は何故?とか、どうして協力するの?など疑問がでるものだが、そんな事は一切思い付かぬ程ディレの協力を欲していた。
「有り難う!…ディレ有り難う…」
僕は無意識に彼女の手を握り締め、涙をこらえつつ感謝を述べながらその場に立ち尽くしていた。
「お、大袈裟だっての!…ったく。」
「言っとくけど、協力って言っても教室で話しかけんじゃないわよ。」
そう言っても明は無言で頷いたまま、その様子はまるで打ちひしがれているようだ。
(全くコイツは、逞しいんだか情けないんだか。)
まぁ昔から選択ミスしてオタオタする事が多かったし、だからアイツに唆されてまた間違えたんだし。
ホント私がいないとダメなんだから。今度こそ選択を間違えないようにして、別の奴に唆されないようにして、変な女に靡かないようにして、そして…
(私のモノにしなくちゃ。)
ディレは両手を明の顔に添えて笑みを浮かべた。
ご観覧ありがとうございました!次回もご期待ください。