ほのぼの系エッセイの需要があると聴いて。田舎に住んでるとこういう場面にも遭遇します。
田舎の山近くに住んでいる。
田舎なので人間よりも野生動物のほうが多いし、日が暮れてから野良猫や猪、ハクビシンに庭に這入りこまれる、夜道で鹿を目撃するなど、結構こわい思いをしている。わたしは見たことがないのだが、家族は間近で雉を見たこともある。
ある日、前庭の木の剪定をしていたところ、気配がした。というか、おそらく目の端にその姿を捕らえたのだと思う。
四足歩行の小動物……猫か狸だ! また、庭に這入ろうとしている!
わたしは即座に警戒態勢にはいった。といっても、野生動物というのは敏感なので、人間が居れば寄ってこない。それに今はまだ日も高い。ここに立っていれば大丈夫だろう、でも猪だと場合によってはこっちに来るかも、うりぼうと関わりたくないし、やっぱり家のなかへ隠れようか……。
のそのそと歩いてきたのは、猫でも狸でもなかった。勿論、猪でもない。
シャム猫?
ぱっと見、そんな感じに見えた。上等なスウェードのような、ミルクティ色の体をしている。脚や尻尾はもう少し濃い色だったと思う。
顔は、なんだか間がぬけた感じだった。鼻が白くないのでハクビシンではないし、耳の形が狸とは違うし、猫や貂にしてはふとっていた。
なんだろうあれ?
わたしは庭木の後ろへ隠れ、そいつを観察した。そいつは山へ向かって、のそのそと歩いている。尻尾がふっさりしていた。
正体不明のなにかをもう少しよく見ようと、身をのりだした。そいつはわたしに気付いたようで、一瞬こちらを見、慌てた様子で右方向へ走りだした。
そこには側溝があり、そいつはそこへ、ぼっちゃんと音をたてて落ちた。
貂の家族がその側溝を移動経路につかっているので、サイズが大きいが似たような形をしているそいつもそうなのだろう。
人間に驚いてとっさにそちらへ逃げ込んだ辺り、普段からつかっている道であることは間違いない。ないのだが……実に見事な落ちっぷりだった。
踏切をミスったようで、爪が歩道をひっかくざざっという音が聴こえたし、落ちたときの音も大きなものだった。貂がそこへはいる時には、音はたてずに静かに動く。
側溝のなかから、水を蹴散らして走る激しいあしおとがした。
わたしはしばらく唖然としたあと、思わず笑ってしまった。
家族に話したところ、むじなではないかといわれた。しっかりしている狸や静かに動く貂などと違って、のんびりしていて少々とぼけたところがあるらしい。
わたしはそれから見ていないのだが、家族はむじなを見ている。サイズや毛の色などから、おそらく同じ個体だろう。
そいつはまた、山へ向かって歩いていた。わたしと違って家族はそいつをおどかさなかったので、無事に山へ移動できたようだ。
感想でご指摘いただいたのですが、本文中の「むじな」は「アナグマ」のようです。
長い時間見た訳ではないのですが、体表の色、四肢の感じなどからアナグマだと思います。