表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/7

05

 最近彼が家におらず、何かを準備してきているのは知っている。そして私はそれすらも飲み込んで勝つつもりでいる。


『ほらみなさい、貴方は私に守られていればいいのよ』


 そう言ってやるつもりだ。


 彼の母は、この宣言をすることを知らなかったらしく凄く怒っている。でも安心しておば様、私は彼をここで倒して、心も体も屈服させてあげますわ。


「さあ、始めましょう」


 二人揃って、身体強化の詠唱を唱える。それが開始の合図となる。


 子供の頃とは比べ物にならないくらいの速さで、彼が踏み込んでくる。初手の意表をついた攻撃としては良い攻撃だ。だけど私の体はそれに反応するくらい成長している。

 

 攻撃を受け流し、彼に斬りかかる。それと同時に彼の足元から短剣が飛んでくる。


おっと


 危ない危ない、意表に意表を重ねたいい攻撃だ。普段から彼を見ている私でなければくらっていたかもしれない。彼の行動を逐一監視していた私からすると、それは知っている動きだ。初見にはならない。


 彼の一撃が私を襲う。その攻撃は男性らしく重い攻撃で、ただ鈍重だった。その遅さでは私に追いつけない。難なくひょいっと避ける。


 距離ができたことで、一拍置かれる。


「なかなかやるじゃない」


「……チッ」


 彼は納得いっていないようだが、彼の動きはとても同い年の男性の動きとは思えない。私のための努力は単純に好感が持てる。


「でもダメ、そんな遅さじゃあ私は捕らえられないわ」


「ふん、ならお前から攻撃してこいよ」


 あら、分かりやすい挑発。何か狙っているのかしら。


 でも私の記憶の中に、彼が私の攻撃に対抗できる手段がないことを考える。もしかしたら最近いなかったのは、その秘策を練っていたのかもしれない。


それは……とても楽しみ


 私のために一体どんな秘策を用意したのか、罠だと分かっていても知りたくなる。魔力を体全体に込める。もし罠だとしても力で全て食い破る。そんなつもりで彼女は彼に攻撃を仕掛ける。


彼の足を狙う、切りつけるが彼は無反応だ。


後ろから背中を切りつける、これも違うらしい。


肩を突きさす、痛そうな表情をする彼、あはっ。もしかして本当に無策なの?


(もし本当に無策だったら、ごめんなさい死んじゃうかも!)


 最期に顔に向かって突きを繰り出す。その一撃は今までの人生の中で最高で最速の突きだった。彼への思いがその一撃を繰り出す。


 彼はその攻撃に無策にも手で防御することを選んだ。そして剣が彼の手を突きさす。


「捕まえた」


「あっ」


 不覚にもドキリとしてしまった。その隙を見逃さず彼は私を片手一本で宙に挙げる。


まずい――!


 このまま背中から地面に叩きつけられたら、少なくとも数秒動けなくなる。その間に剣を突き立てられ詰みだ。少し遊び過ぎたか。


 体を何とかひねり、地面に背中から落ちないよう体制を整える。これを凌げば私の勝ち。


 そして私は、思っていた方向と違う方向に叩きつけられた。


「がはっ!」


 彼の筋力は私の想像を超えていた。私なんて軽々持ち上げられ、あらゆる方向に叩きつけられる。つまり持ち上げられた時点で詰みだった。


ビタンビタン


 何度も叩きつけられ、呼吸ができなくなる。まずい意識が――


 唐突に攻撃が終わり剣が突き付けられる。


「俺の勝ちだ」


 そうして二人の戦いが終わった。


(負けた……)


体が痛い。まだまともに動けそうにない。そんな中、彼は勝利宣言をする。


「俺はお前と違って才能が無かった。だから今まで努力を重ねてきた。」


「ごほごほ――なにを」


「お前は違ったようだな……」


どういうこと……?


「俺はお前との婚約を破棄させてもらう」


「あんた何言ってるの!!!! そんなこと許すわけないでしょ!」


 彼の母親が、怒鳴り散らしている。


「それを決めるのは貴方ではない。勝者の俺だ」


「馬鹿だ馬鹿だと思っていたけどこれほど馬鹿だったなんて!! 男が調子乗ったこと言ってるんじゃないのよ!」


「俺は一度として、貴方に母親らしいことをしてもらった記憶がない」


「結婚相手を見つけてきたじゃないの!」


「それは俺にとっては邪魔でしかない。俺の嫁は俺が決める。」


「このっ――」


「アンネ、そこまでにしよう」


 そこに彼の父が介入してくる。


「はっ?! 何あんたが口出してるのよ! そもそもあんたが教育を間違えたからこうなってるんでしょう!」


「だとしても、当事者じゃない君が怒るのは間違っているんだ。君が怒ってしまっているせいでヴィルマが何も言えていない」


「っ――! ごめんなさいヴィルマちゃん、息子には後でよく言って聞かせるから――」


 ようやく息が出来るほどには体が回復してきたので、私はおばさんに伝える。


「おばさん……」


「なにかしらヴィルマちゃん?」


「私は彼と約束して彼に負けたのです。だから彼の言葉に従います」


だから――


「彼との戦いを汚さないで下さい。これ以上、負けを認めないことは私のプライドが許しません」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ