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02

「守るってなに?」


 今日は久々に、同い年のユリと遊んでいた。最近ではお手伝いの時間以外にも鍛錬を積んでいるため、あまり遊ぶ機会がなかったが、たまにこうして情報交換をすることがある。今日はシューベルトの話だ。


「シューベルトが弱いでしょ。たから私が守ってあげるの」


「うーん、でも男の子の中では強いほうなんでしょ?」


 そう、彼は男の子の中では強い方なのだ。だけど女の子と比べると圧倒的に弱い。なんなら目の前にいるユリよりも弱いのだ。


「だってうちのママとパパもそんな感じじゃないよ? 一緒に頑張ってるもん」


 確かにそうだ。うちの家もお母さんとお父さんは仲良しだし、一緒に頑張っている。

 

うーん、守るってなに?


 結局その日は、守ることが何なのかは分からなかった。


 次の日、私は無心になって村の中を走っていた。昨日は考え過ぎて、よくわからなくなったので、こういう時は何も考えずに運動するのが良い。


はっ、はっ、はっ、はっ


 以前から、私も彼を見習って村の中を走るようになった。身体強化をしながら走ることで体に魔法を馴染ませる。体力が切れてくると魔法が切れてしまうので、まだまだ練習が必要だ。


ガサッ


「誰――!?」


 音がしたほうを振り向く、そこにはボロボロの状態の彼がいた。


「シューベルト!? どうして――」


 どうしてそんなところに? いや、それよりもどうしてそんなに傷ついているの。彼の姿を見て驚きのあまりに続く言葉を失う。


「……お前には関係ない」


 ぶっきらぼうに答える彼に少しだけイラっとする。


「関係ないっ!? よくそんなボロボロの状態でそんなこと言えるわね!」


 今、私との関係なんてどうでもいい、まずは傷の手当からしないと。


「……ほっといてくれ」


「あっ」


 彼はそう呟いて歩き出す。私は彼の気持ちに思わず唾を飲み込む。一体どんな厳しい訓練をすれば、あんなにボロボロになるのだろう。そして彼はそんなボロボロになるまで鍛錬を続けている、その覚悟に私は驚いている。


「……私も負けていられない」


 彼は今もこうして自分を傷つけてしまっている。それはきっと私がまだまだ弱いからだ。


頼られていない……


 そんな寂しさと悔しさが入り混じる。彼女はもっと鍛錬を積むべく母に相談することにした。


 それから数日後、私は念願の狩りに出かけることができた。


「よし、ヴィルマやりな」


「はい!」


 そういって瀕死の状態のゴブリンにとどめを刺す。これで10体目。


「うっ」


 少しだけクラっとする。これがお母さんが言っていたレベルアップ酔いというやつか。時間にして数秒、クラクラするがそれが収まるころには、自分が強くなったというのが実感できるくらいに体の調子が良くなる。


「レベル1から2に上がるときは、他のレベル帯のレベルアップに比べて負荷が大きいのよ。実際数字だけ見れば以前の自分の2倍だからね。大丈夫かい?」


「はい、もう大丈夫です」


 特にレベルアップ酔いは、最初が一番酷いらしく長い人でも5秒くらいクラクラするそうだ。


「よし、じゃあ村に戻ろうか」


「え? まだいけますよ」


 なんなら体の調子がいい。あと2~3匹くらいはいけそうだ。


「ダメだよ。レベルアップは強くなった気になるんだけど実際はそこまで変わらないんだ。それに今までと強くなった分感覚が違うから、その分危険も多い。帰って鍛錬をし直したほうがいいよ」


「そういうものなんですか」


「そういうものなんだよ」


 少し納得がいかないが、仕方ない。そもそも無理をいって森へ連れてきて貰っている以上、言うことを聞いておくべきだ。本来ならまだ幼い私が森へ出ることは禁止されている。でも彼に追いつかれないために少しだけ抜け駆けして連れてきてもらった。


(きっとシューベルトも驚くわ)


 先にレベル2になったことに驚き、ますます彼は気合を入れて鍛錬に励むだろう。そんな私のために強くなろうとする彼を想像して、ニヤニヤしてくる。


 村に戻り自主練習をする。確かに言われた通り少し違和感がある。レベルアップをして鍛錬をする。これはセットとして考えたほうがよさそうだ。

 

 しばらく無心で剣を振り続けていると、遠くで歩く彼の姿が見えた。


(あ、シューベルト! あれ?)


 彼の姿に少し違和感を覚える、足取りはかなり怪しくなんなら辛そうだ。彼のもとに駆け寄り、声をかける。


「シューベルト!」


「……あ?」


「どうしたのシューベルト、ひどく辛そうじゃない!」


 大変! 私は自分が強くなることばかり考え、彼の体調を全然考えていなかった。もともと引きこもり気味だった彼が、急に運動をしたらこうなるのは明白だ。彼の頑張っている姿がカッコよく自分の欲ばかり追いかけてしまったが故に、彼は衰弱してしまった。


「早くどこか休める場所に――」


「なんでお前はいつもそうなんだ……」


 ドキリとする。私のやらしい気持ちが見透かされてしまった気がした。


「……一人で歩ける」


 そういって彼は私が差し伸べた手を払いのけ歩いていく。


ゾクッとした。


 その冷たい所も。一人で戦おうという姿勢も。こんな男の子滅多にいない。


「いつか、絶対に私のものにしてあげる」


 そんな強気な彼を力で押さえつけるのもいいかもしれない。そんな危ない思考が少しだけ頭をよぎった。


強くなったことで少しだけ調子に乗っていたのかもしれない。


そんな邪なことを考えている私に天罰が下ったのかもしれない。


 その知らせが村に届いたのそんな時だった。


「大変だ! 村の女衆を集めてくれ!」


「なんだ、なにがあった」


「森に狼の魔物、ハティが出たって話だ!」


「な!? なんでハティがこんなところに!」


「わからねぇがハグレかなんかだろう、とにかく村の連中に知らせて森に行かないよう注意しないと」


 そして事件が起きた。

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