プロローグ
「ねえお母さん、シューベルトは私と結婚するのが嫌なのかな……?」
この世界は女性が強い世界だ。村の、どの家族を見てもそうだ。一見素朴そうに見えるうちだって、お母さんのほうが強い。
だから貴方の事を『守ってあげる』と伝えた。それは最大限の求愛行動だと教わったし、お母さんもお父さんをそうやって口説いたと言っていた。
なのに彼は『嫌』だと拒否した。
少しムカッとした、私は貴方より強いんだ、貴方を守ってあげられるくらいに。それを証明するために彼をボコボコにした。
少しやりすぎちゃったかもとは思ったけど、お隣のおばさんはおじさんにそれくらいやっている。
「シューベルト君はきっと、守られているだけなのが嫌なのよ」
「グスグス……どういうこと?」
「きっとシューベルト君はヴィルマの後ろじゃなくて横に立ちたいんじゃないのかな」
「横に……?」
「そう。だからヴィルマも彼に負けないくらい頑張って強くならないとね。たくさん鍛えて、彼の横に立てるようにね」
「でも、シューベルト私より弱いよ?」
「あら、分からないわよ。男の成長って早いんだから」
そういってクスクスと笑う母と、ハハハと乾いた笑いをあげる父がいた。でも彼は私の事が嫌いじゃないんだ、良かった。
「じゃあ私も、もっともっと強くなる!」
「あらあら、これはシューベルト君が大変そうね」
母のそんな独り言はもう耳には届かない。目標ができたことで、何をすればいいかが分かりやすくなった。
もっともっと強くなって、彼を守ってあげるんだから!
そうして彼が求める理想の女の子から、ドンドン遠ざかっていくのだった。