サイバーパンク世界へ向かう途中の片隅で
作品中に、下ネタやセクハラと感じさせかねない表現があります。
それがおイヤな方は、回避をお願い致します。
――――202X年。
全人類は唐突に異能に目覚めた。
何がきっかけになったのかは、どれだけ経っても解明はされないだろう。
だが事実として、全人類ひとりひとりに異能としか言えない、今まで人類が蓄えてきた知識や常識では計れない超常の力が出せるようになったのだ。
その超常の力に法則性は見付かっておらず、得られる力の種類すら無軌道である。
いわゆる超能力と呼ばれる能力だったり、魔法と呼ばれる何でも有りなモノだったり、カロリーを消費して手の平からお菓子を生み出す様なモノだったり。
異能の強ささえランダムで、それ故に能力の差が生まれて、新たな偏見や差別やいじめの種となる事は当然とも言えるかもしれない。
まあそんな世界が混乱する中でも日本は例外で、むしろ能力が弱いとされている者に気を使う人も結構いる。
その理由は人道とか言う優しいものではなく、創作の物語の影響だろうと言われている。
落ちこぼれの主人公が強い力を得て成り上がる物語が溢れ過ぎている為に、この訳の分からない異能をそれと同一視してしまうからだろう。
その成り上がりの途中で、今まで主人公をいじめていた者達は踏み台にされてしまうモノなのだから。
その異能による混乱も落ち着きを見せると、待っているのは異能の有効利用。
目の前に非科学的な実例が沢山溢れたなら、それを科学的に解明して科学として再現できれば、今まで技術発展の壁と言われていた事項も解決出来るだろう。
特に魔法は魔力と言う未知の要素が満載なのだ。 それを科学に取り入れられれば、どれだけ有益だろうか。
もちろん超能力だって、なぜそんな事が出来るのか理解できない。
体から雷を生み出す奴を上手く解析出来れば、より低コストの発電機が作れそうで、真っ先に調べたいよね!
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人類が異能を得てから、およそ20年後
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「…………で、それを断る為に国と取引して、半公務員状態で何でも屋になったってね」
いまの俺は、とある研究所へ忍び込んでいる。
裏からの情報でヤバいことをしていると聞きつけ、国家権力が表から査察をしても何も見付からなかったらしい。
それで俺の異能を使って潜入して、証拠を見つけて欲しいって“国から”の依頼だ。
「俺がいくら【情報転身】で電線やネット回線を使って移動出来るからって、便利に使いすぎだよなぁ」
潜入任務に適性が有りすぎて、俺はもしや国から諜報員として見られているんじゃなかろうか?
身分は一般市民だから不法侵入で捕まったとしても、国は個人の責任として俺を切り捨てられる。
でも依頼したのは国という。
なんて使い勝手の良い駒なんだよ、俺。
あ、能力の悪用はしてないぞ?
国からの依頼で「使え」と指示がない限りは住居侵入とか絶対にしてないから、安心してほしい。
普段は公道から公道へとか、そう言った移動しかしないよう法律に気を付けている。
「いや、今は仕事だ仕事」
世の理不尽さを感じてしまい、それを振り払うために頭を横に大きく振る。
ちょっと振りすぎて眩暈が起きたので、そこで止めて辺りを落ち着いて見回す。
「それで転身中に施設マップを見て怪しい箇所に来てみたが…………これは酷いなんてモンじゃ無さそうだ」
部屋の内装はいかにも研究所って感じで、掃除の行き届いた清潔な白い部屋。
だがその部屋には巨大な、“ヒト”を収容して液体詰めにして浮かせて(むしろ沈めているのか?)いるガラスの円柱が並んでいた。
その円柱の傍には観測装置があり、その装置のモニターもしっかり稼働している。
「…………おいおいおいおい【魔女】の異能持ちのクローンを多数培養して、ついでに寿命も正常な、完璧なクローンを作る研究かよ。 人道に反してるじゃねえか」
モニターから読み取った情報からの推測だが、多分合っているだろう。
なにせ魔力とテロメアの観測データを映すウィンドウがメインになっているから。
なぜ見て分かるか? それはそれだけ沢山の仕事をしてきた経験だ。
「しかもこの研究は、恐らく最終段階だな。 睡眠学習みたいな要領で色んな情報を、一番良いデータの奴へ流し込んでいやがる」
部分的に【情報転身】して、装置がクローンと直接やり取りしているデータを感じた結果、こう断じる。
これはアレだ。
【魔女】本人ではない、誰かの記憶を入れるための準備段階。
人間として生きて動くための、基本動作プログラムみたいなやつをインストール中。
コレはマズい事だ。
病気の自分の体から、培養した新しい元気な自分の体へ脳や自我と言う情報を移し換えるだけなら、まあ理解できる。
でもここにズラっと並ぶ同じ体を見れば、そうでないのは分かるだろう。
絶対に碌な事にはなるまい。
ただ、俺は――――
「ただのいち市民がどうこうできる話じゃない。 ここは依頼通りに情報を得るだけ。 写真やデータを……っと」
俺には関係無い。
いやむしろ、触ってはいけない。
下手に触って痕跡を残すと、依頼主に怒られる。
それ以前にデータの動きを止めて、どうする。
独断で中断させて、もしそのクローンが半端な状態で目覚めてしまったら、誰が責任をとるのか。
俺ではそんな責任を背負いきれない。
だったら最初から依頼主へ全て押し付ける。
そんな訳で、情報収集にいそしむ。
マップ情報、施設の設備、研究内容、データ。
目につくモノを片っ端から写真におさめ、持ってきたデータ情報記録媒体へ俺の【情報転身】を接続コード替わりにしてデータをコピーして行く。
そのついでに、クローンの体を観ても構わんだろう。
なにせクローンだ。 クローンに人権は今のところ無い。
無いなら液体詰めになった魔“女”の裸体をいくら舐め回すように観ても問題になるまい。
だって魔女だけあって、見事なスタイルだぞ?
体のメリハリがしっかりあって、まさに美女!
顔も歪みが少なくて、理想の美人顔!
こんなの男だったら見惚れるだろ!
「……………………あん?」
よそ見をしながら吸出している途中で、もうひとつ別のこっそり隠れていた研究データを見つける。
こっそりしすぎて、もしかしたら破棄した研究テーマだけかも知れないが。
「人工強化人間案?」
強化人間と言うと、ご長寿ロボットアニメに出てくるアレだが、それは元々新しい人類を人工的に生み出す研究の副産物みたいなモノだ。
で、これはそれと違う。
「人間の機能を強化する機械と肉体を入れ替えた、サイボーグ計画だよな? どうみても」
つまりそう言うことだ。
人間の神経と上手く接続させて、機械が生の肉体からの拒否反応を起こさせないように調整する研究みたいだ。
「その研究に必要な、機械を体に取り込める異能か、自身の一部を情報体に変えて機械を自身の体の一部にできる素体が必要だが、見つからずに研究が難航…………進展が期待されるまで予算は削減」
うん。
後者は俺の事だな!
ヤベー。
国と取引出来なかったなら、俺はコイツらに実験体として弄ばれていたかも知れないのか。
うん、ヤベー。
「良い予感がしないし、ここらで帰ろうか」
背筋にうすら寒さを感じて撤収を決めた瞬間。
“この部屋”以外の施設内にけたたましい音の警報と警告が轟いた。
《研究室に侵入者を確認。 機密保持のために施設を30分後に爆破します。 職員は作業を直ちに中止し、避難してください。 繰り返します――――》
「見つかったか。 でも証拠もろとも爆破するなら、訴えられないな。 ……よし、念の為に俺が研究室で動いていたデータを悪用されないよう完全消去してから、脱出しよ」
データでコラを作って、爆弾を仕掛ける映像とか作られたらシャレにならんしな。
…………なんて消去作業をすませた後、ちょっとイタズラ心が涌いてしまった。
さっきは責任がーとか思ったが、国が確保する前に爆破されてしまうなら……なんて考えてしまう。
「この魔女クローン。 一体くらい持っていけば、決定的な証拠になりそうじゃないか?」
言ってみたが、実際はちょっと違う。
「国へ引き渡す前に、ちょっと体を“使って”も洗えばバレないだろ」
うん。
下心だ。
いや、仕方ないだろ!
こんな美人が、裸でズラっと並んでるんだぞ?
ムラムラしない方がおかしいって!!
「ってな訳で【情報転身】でガラスの中に入って、連れて行きますか♪」
運べるのかって? この魔女は人権が無い物だ。
物として認識しているなら、一緒に【情報転身】が可能だ。
じゃないと服とか情報記録媒体とかを持って潜入出来なかったからな。
…………つーわけで。
うっひょう!
俺はヤるぜ!俺はヤるぜ!
脱出先は自宅。
【情報転身】だぞ? 外へ出ずに、自力でネット回線とかに乗って移動できるんだから、どこへでも行ける。
逃げるのも簡単で、しかも端末から出入りするでも無いから、データ移動で後を追うのも不可能。
便利でしょうがねぇ異能。
……まあ、だからこそ国に目をつけられて、国が用意した首輪が無いと何を言っても信用されない悲しさも有るが。
それでだ。
なんか体がおかしいな~なんて大変な思いして動いて、鏡を見たらな?
「あの【魔女】と融合しちまったっ!!!?」
男らしかった俺の体つきが女寄りになった。
「女のおっ○いを触りたいとは思ったが、俺に両手から少し零れる位のがくっついても嬉しくねぇっ!!」
顔は美人が混ざり野性味がある女傑にしか見えない。
「俺の元の顔より良くなったのは嬉しいけど、命に関わる修羅場を何度も潜ってきた猛女に見えて、格好良くてもキレイじゃねえ!!…………いや、俺は男だし格好良いなら良いのか」
ここで「はっ!?」として、股間を確認すると……。
「凸と凹の両方付いてる!? 融合したから、ふたつの性……ふた○りってか!!!」
俺はどうやら【情報転身】で魔女を自分と混ぜちまった様だ。
この姿から分離する方法が見つからないまま依頼主へ報告しに行ったら、面白い研究材料として1季節は病院へ入院させられた事は、ここに残しておく。
ついでに魔女と融合した結果、魔女の異能も使える様になったのは誤算だ。
あと、研究と言って切り刻まれたりとかされなくて、ほんっっっとうに助かった…………。