98話 持ちつ持たれつ
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・クルルvsクイナ・イースター
・ギマリ・ガンガンvsコジカ
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・アリア・ホーガンvsルリア・ホーガン
・アーサー=アーツ・ホーガンvsサーガ・ラントゥトーン
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
本来見えない攻撃の軌道。
慧眼暦シリーズ。それは事前に力の動きから攻撃を自動で予測する魔法。自堕落な夕奈だからこそ思いついた、未来予知に匹敵する力である。
「慧眼……『暁』」
この時、夕奈の目に攻撃の軌道が映った。それは幸か不幸か、ありのままの予測を映し出す。
「……!?」
螺旋のように動く大きな力。それと同時に映る、殴るという攻撃の軌道。それにプラスして、ロニイさんが魔法を放とうとしているのが見えた。
(まっずい。流石に脳の処理が追い付かなくなる。……終わったらゆっくりしていいから、今は踏んばってね、わたし!)
夕奈はそう思いながら、腰を低くし、螺旋のように渦を巻く引力に乗って剣を振った。だがその瞬間、キラの体全体から炎が出るという予測が視界に入ってしまう。
「……!」
逃げようとする夕奈だが、引力のせいで後ろに引けなかった。
(まずい……!)
「メイジ……」
統治力場を使用し避けようとするが、同時にロニイが魔法で自分を救おうとしているのを知った夕奈は詠唱を止める。
それと同時に、彼女は『天眼』を使用した。
(周りに人はいない。今ならいける……!)
「ロニイさん! 火傷しない魔法をお願い!」
「……!」
突然のお願いに戸惑うロニイだが、一秒もかからずに詠唱する呪文を変更した。
「プロテクトスーツ」
「慧眼『東雲』」
魔素の動きが可視化される。夕奈は己の体を覆う膜を認識した。
頭痛と勘違いするような痛みが目に走る。それと同時に、いきなり『東雲』に上げてしまったことで体に力が入らなくなるが、夕奈は噛みちぎらないように加減して舌を噛み、難を逃れた。だが彼女はそんな自分の体に追い打ちをかけた。
下手すれば死んでしまう魔法を、万全の状態ではないのに使用したのだ。
「統治力場」
指先だけプロテクトスーツの効果が出ないように操作する。
「……!」
夕奈はきょとんとした顔になり、右手に剣が握られていないことに気づく。
(統治力場に集中してて気づかなかった……!)
引力で引っ張られる夕奈の後方に剣は落ちている。心なしか、剣が泣いているようにも見えた。
しかし夕奈は、そんなこと気にも留めないようにキラを見つめ、手を伸ばした。
ここまでプロテクトスーツを発動してから経過した時間は六秒ほど。その隙に、キラの準備は整っていた。
彼の体全体から炎が出る。
キラはその体で夕奈を待ち構えた。たどり着く彼女の体。
真っ先に燃えたのは、右手の指先だった。
「……!」
凄まじい痛みと同時に、夕奈の耳に声が届く。
「削除完了。スキャニングを開始、完了。対象名を『プロミネンス』に変更。コピー可能です」
刹那、夕奈の体は熱せられる。だが本人は、涼しいと感じていた。
燃える体。今までとは比較にならない程、彼女は温まっていた。キラは笑う。
「ぎひゃひゃ」
『偽装』、彼女の力が火を吹いた。燃える体でキラを殴ろうとする夕奈。それに呼応して、キラはたまらず後ろへ引いた。
この時、同時に引力が切れる。
事前に打ち合わせもしていないのに、万葉木夕奈とロニイ・ファーベントは完璧なタイミングで動いた。
「混合魔法。テンペスト」
嵐が生まれ、近隣の家は吹き飛ばされる。
(炎でもいい。でも、相手と同じ土俵じゃ、相手の方が格上だから……!)
夕奈はそう思いながら、嵐に飲み込まれた。
「削除完了。スキャニングを開始、完了。対象名を『大嵐』に変更。コピー可能です」
現れる二つの嵐。それは次第に合体し、一つの巨大な嵐が生まれた。
今まで見えてなかった者たちにもこれは伝わる。それは最悪の人物へ、行動を移させた。
「ユーナ・イグドラシルう! 止まらないとこの国燃やすぞ! ぎひゃ」
刹那、後方で大火事が起こる。
「……!」
夕奈は悔しそうに、人として着地した。
「止めなさい」
「ぎひゃひゃ。一発、いいか……?」
拳を私に見せるキラさん。私は振り返り燃えている街を見た。ここから二キロメートルは先の場所。向かう時間はない。そもそもキラさんが行かせてくれない。
私はさんざん悩んだ挙句、頷いた。
「はい」
キラさんは笑い、拳を振った。
本能的に統治力場で逃げようと思ってしまうが、ここで逃げても火は消えないので諦めた。
「……」
万葉木夕奈。彼女がここへ来た理由。それは弟を探しに来る意外にもう一つある。そう、父親を犠牲にさせない為に、自分が代わって行くという事。父親まで消えてしまったら、母親が悲しんでしまうから。そう思った彼女は、父親が差し伸べた救いの手を振りほどいてここに来た。
そんな彼女だからこそ、大勢の人が死ぬ可能性のある火事は避けるべきだと考えた。自分のせいで自分と同じように戦っている人の邪魔をしたくない。そう思いながら、覚悟を決めた。
「……!」
夕奈は腕を顔の前に持って行く。
「……は?」
腕の間から見える景色。そこに映っていたのは、血を流すロニイさんだった。
「ぎひゃ! ここにもつええ奴が一人」
「誰を……殴るかは、言っていない。さあ、今すぐ消しなさい!」
夕奈は自分の位置とロニイの位置が入れ替わっていることに気づく。
「ロニイさん……」
近寄る夕奈。そんな二人を見て、キラは言った。
「無理、無理、無理―! そもそもオレ達は燃やせの合図しか決めてないんだ……よ」
キラの目に映る夕奈は、とても大きかった。
「……! いつの間に」
剣を拾い、攻撃に移る夕奈。だが後ろから伝わる熱が大きくなったことに気を取られてしまった。
「今だ!」
キラの拳が、夕奈の頬に入る。
夕奈は飛ばされ、民家に直撃した。
「……」
服が、引っ張られるように動く。
「風が、吹いてきた……」
キラの性格は徐々に変わりつつあり、それは能力にも言えることだった。
勇者軍キラ・濱田。彼の傷は見る見るうちに治っていく。
夕奈は、静かに思考を巡らせた。
何をすれば勝てるのか。どうすれば負けないのか。どうやれば……。そうやって信号のない交差点のように入り乱れ合う思考。
結果。どの考えも戦うことが前提であると気づいた夕奈は重い腰を上げることに決めた。
それを見たロニイは、夕奈よりも重症であるにもかかわらず立ち上がる。
夕奈は一言。
「あんたの首をお仲間に見せてあげる」
ロニイは薬指にある指輪を触りながらキラを見つめる。
そんな中キラは、笑って言った。
「ひゃひゃ! オレを倒すと逆上してもっと燃えるぞ」
「……っ!」
夕奈は、動けずにいた。
出鼻をくじかれるとはこのこと。動かない今も町は燃え続ける。所詮、万葉木夕奈は十五歳の子どもなのだ。
そんな彼女を支えるべく、ロニイが夕奈の横へ立つ。
「大丈夫です。勝てば何とかなります」
その言葉にどれだけ励まされたか。私は責任というものを感じ、同時に仲間の大切さを感じた。
「わかりました。勝ちましょう!」
「敬語はいりませんよ」
「そう、なら行きましょう!」
キラは呆れたように言う。
「ひゃひゃ、もういいのか?」
夕奈は頷く。
「ええ。待っててくれてありがとう」
「不意打ちはできるだけしたくない」
刹那、夕奈の背中に木箱が当たる。
「……!?」
彼は微弱ながら風を操り始めた。風が火をこちらまで運び始める。
夕奈とロニイは力を合わせて戦うが、決定打は与えられず。近寄って戦って離れてをかろうじて繰り返していた。
「……」
自身の汗が服にしみる。炎がこちらへ寄っている影響で熱くなるだけではなく、キラの戦い方も変わっていた。
戦いづらい、そう、夕奈は思う。
「火の拳!」
人を煽るような口調で言いながら、キラは火で作られた拳を夕奈へ飛ばす。
「……!」
夕奈はそれを避けた。熱波による疲労は、夕奈を苦しめた。
(まずい……慧眼を止めるか? それとも、炎になって……)
「あ……」
渾身のミス。夕奈は今日一番のドジをやらかしてしまった。足元には何もないのに、転んでしまう。
「い……!」
夕奈の顔が地面にぶつかる。ロニイはそれをフォローしようと魔法を使おうとするが間に合わず。コンマ一秒、キラの炎の拳が速かった。
死を覚悟する余裕もないまま、夕奈は立ち上がろうと足に力を入れる。だが、間に合わなかった。
炎の拳はキラの手を離れる。
「……あ」
走馬灯が、夕奈の脳内を巡った。
刹那、三人は呆然とする。
「……」
「……」
「……」
炎が消えた。火事はない。その影響で、キラの能力は変化し、炎の拳は消えた。いや、吸収されたと言ってもいい。空に炎の球体が現れ、火のほとんどが吸収された。
これにいち早く気づいた夕奈は、剣に念じる。最大の隙、それを制したのは……。
「必殺! はっ! 第一の技! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ!」
キラは焦って炎で体を覆う。
夕奈は、剣を振った。
「エクスプロージョン」
爆発の魔法がキラを襲う。キラは後方へ吹き飛んだ。
夕奈は、しばらくなぜ炎が消えたかを考える。そして、願望と経験からこのような結論を出した。
「ははっ」
彼女は微笑みながら、ロニイに言う。
「私の仲間が、助けに来てくれた。ロニイさん、もう、火事は気にしなくても大丈夫です!」
ロニイは夕奈の微笑みにつられて口角を上げる。そしてこう言った。
「わかりました」
形勢逆転とは言わない。だが確実に、夕奈を縛っていた鎖は砕けていた。
「キラ・濱田!」
「……」
民家を作っていた木や石の中からキラは出る。そして笑った。
「ぎひゃひゃ」
夕奈は、そんな彼に言った。
「ぶっ殺してやる」
あくまで涼しい顔で、淡々と。
それは、キラの癪に障ったようで……。彼は不機嫌になる。
「もっと、楽しそうにしろよ」
笑って、笑いまくって、それはもう、彼は壊れているように、笑った。
「ぎっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
その後、突然大人しくなった彼は夕奈の興味を最も引く話題を出した。
「うちの大樹みてえだ」
「……!」
「でもアイツとは少し違う。趣味が合わなくても、好みが合わなくても合わしてくれるアイツとは違い……。お前はつまらないやつだなあ」
なにかが、起きた。
「影……?」
視界に入るものが暗くなる。何事かと思い、夕奈は空を見た。
「雷雲……」
「ほんと今日は……コロコロ天候が変わるよなあ」
顔に手を置き、目だけを見せるキラは、どす黒い声で言った。
「ぶっ殺してやるう? それは、こっちのセリフだよ、この陰気女が」
それは夕奈の癪に障ったようで……。彼女は不機嫌になる。
「いま、何て言った……?」
一度止まった戦いが、再び始まる合図がした。
誤字があったので書き直しました! ここまで読んで頂きありがとうございます!




