97話 一斑を見て全豹を卜す
呆れたように男を見る万葉木夕奈。彼女は、余裕そうにこう言った。
「キラさん、ふざけたこと言ってないで早く逃げましょう」
「……ああん!? ふざけたこと? んなもん言ってねえよ。あぎゃ、あ、あぎゃぎゃぎゃぎゃ。ああ……今日の天候は頭がおかしくなるくらい快晴だなあ。あぎゃぎゃ」
「……先に病院か」
呆れる夕奈の横へロニイは向かう。
「夕奈さん」
「あ、ロニイさん」
ロニイは夕奈にこう願う。
「この方が言った勇者軍という言葉が気になります。私に少し話をさせてもらえませんか?」
「……うーん。私もそれは気になってた。でもたぶん虚言だよ。それでもいいの?」
「はい」
「そう。じゃあ任せるわ」
「ありがとうございます」
私はロニイさんに対面という席を譲り、一歩下がる。そしてこう思った。
(勇者軍。大樹がいる組織。だからこそ、そう簡単にたどり着けるとは思わない)
だからキラさんは、虚言癖のある一般人だと思う。
そう、思いたかった。
「夕奈さん」
話し終わったのか、ロニイさんは私の方を向く。
私は、大樹の友達にケチをつける気はない。でも、流石にキラさんが勇者軍なら、大樹にはもっと教育を頑張ってもらいたい。
そんな考えもあって、私はロニイさんが何もありませんでしたと言う事を待っていた。
「夕奈さん……。逃げてください」
助けて、と聞こえた気がした。
「……!」
刹那、私はただ敵を狙って飛び出した。武器を持ち、こう念じながら。
「エクス……」
「ぎっひゃっひゃ。フォー!」
熱風が私を押し返す。
「ぐえ!」
クルクルと転がりながら後ろへ転がり、ロニイさんにぶつかった。
「熱い」
「夕奈さん」
「ええ。わかってる……」
答えは聞かなくてもいい。ロニイさんの顔ですべてを察した。
私、万葉木夕奈は剣を持ち、ロニイさんの横に立つ。
「キラさん」
「なんだい!?」
何故、彼がこれほどまでにハイテンションなのかはわからないし、どうでもいい。だけど、私が目的だというのならそうはいかない。
飛び掛かる火の粉は払い除ける。
だから、こう伝えた。
「こっちは二人だけど、いいの?」
「いいっぞ! 太陽の加護のもとに、お前たちをねじ伏せてやる」
夕奈は落ち着いた様子で、ロニイさんにこう問う。
「動ける?」
「はい」
「よし」
夕奈は、地面を蹴った。
「いきなりか、いいな!」
低い位置を狙い飛び込んだ彼女は、理解を拒む。そんな出来事が起こった。
「……?」
困惑の中、万葉木夕奈の頬にキラの拳が入る。
「……!」
「ぎひゃー!」
そう、夕奈は今、世界の中心にいた。
キラ・濱田。彼の異能力は『気象観測』。天候によって変わるその力で、夕奈を襲った。
キラ自身を世界の中心、太陽と仮定し、それそのものになりえる力。
太陽の引力により、夕奈は引っ張られていたのだ。
だが彼女は、念じる。諦めない意思と共に、剣が歌うように言った。
「必殺! はっ!」
赤く腫れた頬がキラの目に入る。それと同時に、ロニイがこう詠唱した。
「バルクスオホーチュン」
無数の黒い手がキラの両手を地面へ引っ張る。
「……!」
不可避の攻撃が、準備を開始した。
「第二の技! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ!」
万葉木夕奈。彼女はもう、ただの少女ではない。引っ張られながら、剣を振った。
「フェザーインパクト」
そう、剣が言いながら。
「ほいっと!」
一方その頃、鍛丸匡一郎は地球人、ナイリー・ハニュに苦戦していた。
「ほいっと、じゃないよ!」
彼女はまだ異能力を使用していないにもかかわらず、鍛丸匡一郎、バルトス・シリカ、カナリアル・ボンダを圧倒していた。
鍛丸匡一郎は悔しそうに言う。
「オレの能力で強化した剣で無傷ってことは……魔装か」
「正解。オレは、一時期万葉木のもとを離れて一人で修行してたからな」
「それはまあ、ご立派で」
「だろ! にしし!」
一旦相手を褒めた後、鍛丸は倒れていたバルトスに手を差し伸べる。
「立てるか?」
「鍛丸さん、敵から目を離しちゃ……」
鍛丸はかぶりを振る。
「大丈夫だ。あいつは不意打ちしねえよ」
頷くハニュ。鍛丸の手を取るバルトス。そしてそれを見たボンダは一人で立ち上がった。
「……鍛丸匡一郎」
「なんですか? カナリアルさん」
「最高に好敵手だな」
鍛丸はナイリー・ハニュを見る。彼女は、鍛丸に拳を向けた。
「まあ、オレらは三人で卑怯なんだけど」
それを聞いたハニュは楽しそうに言った。
「オレは別に気にしねえぞ」
それに鍛丸は、笑って答えた。
「ありがとな!」
この場にいた四人は、体制を整える。
「んじゃあ、やろうか!」
ナイリー・ハニュのその一言をきっかけに、鍛丸は異能力をカナリアルの私物である剣に使用した。
「エフェクト!」
時を少し遡り、万葉木夕奈はフェザーインパクトをキラに当てていた。
「……!」
夕奈は着地する。だがそれと同時に、魔女のような服が風になびかれるように動く。
「……なるほど、流石勇者軍」
そう言いながらも、夕奈は引力によりキラに近づく。それを見たロニイは魔法を使用し、夕奈を手助けした。
「オクトメクス」
夕奈の足元からタコの触手のようなものが現れる。それは夕奈の腰を回るように彼女を掴む。
「ありがとう」
夕奈の感謝の言葉と同時に、キラは発狂するようにこう言う。
「あ、ああ……。やっぱり強かった! ぎひゃ、ひゃひゃひゃ!」
楽しそうに笑うキラ。それを見た夕奈は、こう言った。
「楽しそうでなにより。顎が外れないように気をつけなさいよ」
夕奈は、本格的に戦闘に腰を入れる。
「慧眼……」
それを聞いたロニイはそっと口角を上げる。夕奈は、詠唱した。
「『暁』」
攻撃の軌道が、可視化される。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今起きていること
・万葉木夕奈&ロニイ・ファーベントvsキラ・濱田
・クルルvsクイナ・イースター
・ギマリ・ガンガンvsコジカ
・鍛丸匡一郎&バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダvsナイリー・ハニュ
・アリア・ホーガンvsルリア・ホーガン
・アーサー=アーツ・ホーガンvsカニマニ・アルル&サーガ・ラントゥトーン
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ラリゴ先生vs名も無き魔族




