96話 漁夫の利
第3幕始まりました!
とりあえず、二人を抱えてここを離れよう。そう、クルルは思っていた。
「ひひっ。こ、こここ、こんにちわあ」
おどおどしながら手を振る低身長の女。クルルは微笑んで、女に手を差し出した。
「ここは危険です。一緒に逃げましょう」
「ダメだ」
ビクッと、肩を震わすクルル。そんな彼女は呆れたような、恐れているようにこう言った。
「嘘ですよね? ギマリさんまだ動けるんですか?」
「……いや、まだ体は痺れてる」
「だったら……」
「無理だな。俺様の体をめぐる高揚感がそれを抑えられそうにねえ」
「……?」
クルルは首を傾げる。それを見た低身長の女はおどおどしながらこう言った。
「あっ、その、聞いてます?」
ギマリはそんなことを言う女を無視してクルルにこう言った。
「気持ちよかったぜ」
悪寒がクルルを支配する。クルルは逃げるように低身長の女に言った。
「あ、はい聞いてますよ。どうかしたんですか?」
低身長の女は笑ってこう答えた。
「ひひっ。あ、アリア・ホーガンの居場所を知っていますか?」
「アリア様? それなら……」
ギマリはクルルの顔の前に手を持って行く。
「ギマリさん……?」
「言うんじゃねえ。この女は危険だ」
「……?」
ギマリは淡々とこう続ける。
「俺様の意識は確かに途切れた。だがな、この女の気配がそれを許さなかった」
「ギマリさん?」
「クルル、てめえちょっと休め」
ギマリは冷や汗を垂らす。
(クルルの攻撃をくらう前ならまだ勝てたが……。クルルもこの女の気配に気づけない程消耗している。……俺様だけなら、まだ何とかなるか?)
「……クルル、コジカを連れて逃げろ」
「嫌です」
クルルは、ギマリの横に立つ。そしてこう言った。
「私はギマリさんが悪さをしないように、見張る義務がありますから」
「……んでだよ」
「だって私、勝ちましたから」
「……確かにそうだな!」
クルルは微笑みながらギマリを見て、こう思う。
(それにこれ以上、ギマリさんに戦ってほしくありません)
「よし、ならやるか!」
嬉々としてそう言うギマリを見て、クルルは考えを改めた。
(ギマリさんが何を考えているのかわかりません……)
遠くを見つめるようにそう思いながら、クルルは女にこう言う。
「私はクルル、あなたは……」
この時、クルルはやっとギマリと同じ土俵に立てた。
「……ギマリさん」
構えを取るクルル。それに呼応して、コジカは足を震わせながら立ち上がる。
「おいコジカ。無茶するなよ」
一秒ほどの沈黙の後、クルルは返事がないことに対しこう言った。
「……コジカさん?」
しかし返事はない。クルルとギマリは同時にコジカを見た。
刹那、その異変に気付く。それに対し一番先に怒りをあらわにしたのはギマリだった。
「……女!」
コジカは魔法を使用し身体能力を強化する。そしてギマリを蹴り飛ばし、追いかけた。
「まさか……!」
「あ、はい」
低身長の女は震えた声でこう言った。
「なかなか話が進まないので、ちょっと強引な手を使わせてもらいました。あ、あはは……」
クルルは分断されたことに対し、心配の念を抱く。
「なんで、こんなことを?」
「なんで?……あ、あなた達が、私たちを殺そうとしてるから……」
「何を言って……?」
一瞬、ふらっと意識が薄れる。だがクルルは奥歯を強く噛み、女を見た。女は突然吠える。
「私たちを殺そうとしているからーっ!」
二人の冒険者たちが、女とクルルの背後から現れる。
勇者軍三番隊隊員、クイナ・イースター。彼女は、異能力を使用した。
「どうすれば……」
残念ながら、クルルは拳を握れない。
一方その頃、アリア・ホーガンは久しい人物に逢っていた。
「久しぶりアリア。やっぱりわたしが一番だった」
アリアを抱きしめていたリリアは落ち着いた顔つきで女を見る。
そんなリリアは、こんなことを言うアリアを見つめた。
「ルリアお姉さま。お久しぶりです」
「うん、久しぶり。早速で悪いけど……アリア、私たちの大志のために人質になっていただけませんか?」
アリアと同じ赤髪のルリア。そんな彼女の髪型は、背中まであるアリアとは違い、どちらかというと肩まであるリリアの髪型のほうが近い。ルリアの髪は顎辺りまであり、ホーガン家の遺伝子に刻まれたくせ毛を隠すように、内側に巻いていた。
そんな彼女の言葉に、アリアは驚いたように小声でボソッとこう言う。
「……はえ?」
勇者軍二番隊隊長、ルリア・ホーガンは、仲間を強引に振り切り三番隊についてここまで来た。
そんな彼女は、アリアの反応にこう返す。
「……え、分からなかった?」
「……はい」
微妙な空気が流れる。パンっと、リリアは空気を直すように手を叩いた。
「私を人質にするという手は?」
「あなたは操作不能だから」
「そうですか。ならアリアに説明してあげて。お姉さまが何をしようとしているのかを」
ルリアはしばらく考えた後、こう答えた。
「今、大樹くんは……、勇者様は賞金を懸けられている。それを撤廃してほしいの」
リリアは下を向いて、やれやれと呆れたように言う。
「恋は盲目ですね」
「……」
城の内部に張りつめた空気が広がる。アリアは、ルリアに言った。
「お姉さま?」
ルリアは、リリアを上から見下ろしながら宣戦布告する。
「交渉決裂ね」
「……アリア、頑張れ」
親指を立てて、微笑むリリアは、そう言った後、走ってこの場を去った。そんなリリアにルリアは手を向けてこう言った。
「あ、ちょっと!……まったく、何を考えているのでしょうか」
「お姉さま」
アリアは立ち上がり、ルリアを見てこう伝える。
「協力はします。でも、人質にはなりたくありません」
「そう」
ルリア。彼女は微笑んで詠唱準備をした。
「ごめん、アリアにはできるだけ何も考えてほしくないの」
空気が動き、温度が上がる。
「大丈夫、手加減は得意。……混合魔法、寒冷熱波」
まさに異常気象。冷気と熱気が混ざり合った風が吹く。それはアリアの体調を崩すに値した。
「これは、大樹君と一緒に作った魔法。いいでしょう?」
そう問うルリア。だが、そこに聴き手はいなかった。
「……!」
ルリアの横に氷の盾が現れる。なぜ、そんな行動をしたのか。
理由は単純である。
「アリア……すごいね」
アリア・ホーガン。彼女は笑いながら肘でルリアを狙っていた。
「あははっははっ!」
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