95話 足るを知る者は富む
「……」
カネ・マネー。彼は窓に映る自分の疲れた顔を見つめていた。
そこへ現れる九頭龍晴翔。彼はマネーに訊いた。
「マネー、四の五の言ってられない状況になった。オレがXだ」
「……ほう、突然のカミングアウトだね。もちろん、知っていたさ」
「……そうか。んじゃあオレからも」
九頭龍晴翔。彼は核心を突くかのようにこう言った。
「お前、地球人だったのか?」
九頭龍は己の能力でクルルにやる気を与えた人物に気づいていた。その正体はマネー。彼は多くは語らずに、ただこう言った。
「詮索はしないでくれ」
九頭龍は素直に頷く。マネーの能力を知っているから。
カネ・マネーの力は『契約』。
(あの青髪の女の子には勝ってもらわないと困るからねえ)
九頭龍はマネーを見つめてこう問う。
「一つ訊いてもいいか?」
「詮索は無しだと言っただろう?」
「……そうだったな」
彼らは、静かに次の行動に移った。
クルルはこんなことを思いながら再び立ち上がる。
(頭の中に響いた。契約という言葉)
クルルの頭の中に響いた声はこうだ。
「ミーの二日分の体力及びやる気を全て譲渡しよう。そのかわり必ず勝っておくれ。もし負けた場合は、君に与えた体力とやる気を二倍にして返してもらう」
押し売り。これがマネーの技の一つ。
だがクルルはそんなこと知らない。でも、素直に快諾した。
「もちろんです」
「あ? 何言って……」
純粋無垢な瞳を見たギマリは、黙った。横に倒れていたコジカは首だけを動かしクルルを見る。
その鼓動はどこからか……、コジカの胸は高鳴っていた。
対立する二人。あり得ないが、コジカの目には同じ背丈の二人が映った。
二人は、意図せず同時に動く。
呼応する眼光。もう、ギマリの拳はクルルに向かっていた。
「……まだっ、やれるな!」
「あなたが傷つかないように、死ぬわけにはいきませんから」
「そうかよ!」
一進一退の攻防。クルルは魔装を巧みに使いギマリの攻撃をいなす。ギマリは体のいたるところを武器に変えながら戦っていた。
ギマリは余裕そうにこう言う。
「ばてて来たか?」
「……」
クルルはどうやってギマリに全力を出させるかを考える。だが途中でどうでもよくなり笑った。
「……本当に、戦いは疲れるだけですね」
「ああ? 楽しいだろうが!」
クルルはこの時、今までで一番速い速度でギマリに近づいた。ここまでの戦いで学んだことすべてを生かし、勝機を見出す。
彼女はなぜか、笑っていた。
「だったら、私の攻撃を受け止めて見ろよ」
その答えに即答するギマリ。彼は、全身を鎧で覆った。
「おうっ!」
魔装。それは魔素で体を覆う技。本来、宙に浮いている見えない魔素を使用する技だが、彼女は魔獣であるため体内の魔素を使用し魔装を行使することができる。
それにより、脅威の柔らかさと滑らかさを得ることができた。
そしてレテシーと一緒に編み出した必殺技は、レテシーのようにわざと魔素を乱し、攻撃力を一時的に上げる技。だがこれは周りに被害を及ぼすため使用できない。
だから、極限まで柔らかくした魔素を使い、二段階の爆発する技を打ったクルル。
しかしそれでは倒しきれなかった。
ならば? どうするべきか。
賢いクルルは実に安直で最高の回答を出した。
(二つの技を合わせればいい)
もう、拳が入る間合いだ。
どうせこの戦いが終わると動けなくなるんだ。だったら、私のすべてをこの人にぶつける。
信じよう、みんなを。
レテシーを、ラリゴ先生を、嘉村さんを……、そして夕奈を。
だから私は、この戦いのことだけを考える。――だって、もう負けた身分なのだから。
「……!」
ドクンっと、クルル本体の生命機関が震える。それが伝わり、器である人形の瞳が赤い閃光を放つ。
右手に力が加わる。クルルはこの時、今までで一番の凶器を手にした。
「……!」
ギマリの額に汗が流れる。避けろと、本能が言った。
だが、彼は動かない。現在の魔族の長曰くウキウキするダンクを止めるのは骨が折れるそうだ。長、サーガ・ラントゥトーンは仲間のことをあだ名で呼ぶ。ダンクとは、ギマリのこと。
彼はまさしく、戦闘から解放してくれる女神を前にしていたのだ。
「ああ……。ははっ、来い!」
クルル。彼女のキメ技。
同時刻。別の場所で、万葉木夕奈は統治力場からのフェザーインパクトを繰り出した。それを追うように、クルルも技を放つ。
「行きます!」
魔王まがいの一撃。黒い稲妻が走った。
ギマリの腹にクルルの拳がめり込む。鎧はめりめりと剥がれ、遠くへ吹き飛んだ。
(これが、私の全力を超えた一撃)
魔帝拳パナケイア。それは確実に個人を狙い、破壊する技。
だがこんな気持ちがギマリの中に広がる。
(ああ……負けちまった)
立ち上がれないほどのダメージをくらうギマリ。だが、体の内部は無傷だった。
ぽかぽかとした温かい気持ちが広がる。
ギマリは、クルルに一言。
「ありがとう、楽しかった」
もう、彼に意識はない。彼の後を追うように、クルルも足の力を抜いた。
「……」
だが、あと少しの所で踏ん張った。
「……コジカさん、動けますか?」
「……無理かも」
「わかりました。なら私が二人をおぶります。早く安全なところへ行きましょう」
クルルは微笑む。
そこへ近寄る一つの人影。さすがにもう仲間だろうと思うクルルは、足音のする方向を見た。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今起きていること
・アーサー=アーツ・ホーガンvsカニマニ・アルル&サーガ・ラントゥトーン
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
・バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダ&鍛丸匡一郎vsナイリー・ハニュ




