94話 失敗は成功の母
今起きていること
・クルルvsギマリ・ガンガン
・アーサー=アーツ・ホーガンvsカニマニ・アルル&サーガ・ラントゥトーン
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
・バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダ&鍛丸匡一郎vsナイリー・ハニュ
「ぎひゃあ!」
「……」
ギマリ・ガンガンはクルルを驚かそうと大声を出す。だがクルルは冷静に尻尾でギマリをぶった。
「……」
「ふ、ふざけてますか?」
プルプルと震えるギマリ。彼は笑った。
「にゃはははは! なわけ」
そして機関銃を放った。
「むず痒い攻撃……」
クルルはその弾丸を避けるように動き、ギマリに近づく。
「おんな! 楽しいな!」
コジカの前でそう言うギマリ。彼は、いったい何を考えているのだろうか……?
一週間ほど前、ギマリは母親とこんなことを話していた。
「母上。私は戦争に行きとうありません」
「行きなさい」
「なぜ!」
ギマリの母は右手をレイピアに変え、ギマリの喉へ向けた。
「は、母上?」
「ガンガン家の誇りを忘れたか。代々戦場に立つことで仲間を守って来た。それが我々なのです。そこに男も女も関係ない。あるのは強き者と弱き者です。ギマリ! あなたはどちらですか?」
「私は……つ、弱きものであります」
ギマリの母親は、ギマリを抱きしめた。
「あなたは優しい。でも、敵は違うかもしれない」
何も答えないギマリを案じてか、ギマリの母親はこう続けた。
「もしあなたが敵を殺すことすらためらってしまうというのなら、強き者を見つけなさい。そしたらあなたは、戦えるから」
「母上……」
俺様は知っている。弱いやつは死んじまうが、強いやつは死なねえ。だから、俺様は全力で戦える。そしたらその分、強いやつを好きにさせなくできる。
だからお前に遇えて、俺様は感謝してるんだぜ。
「クルルー!」
「……っ!」
「気づいてるぜ、お前もう魔素少ねえだろ」
「……」
クルルは何も言わない。それは図星だからだ。
コジカとの戦闘で突如開花した謎の力。そのせいで内に秘めていた魔素が一気に放出されてしまった。だから今のクルルは、残りかすのような体内魔素で戦っている。
「でも……だから何ですか?」
彼女は、その程度で止まる女ではない。
「さっさと諦めてください」
「やだね。民衆の命が大切なら俺様を倒してみな! おらあ、まずはその辺のガキでも」
「ふざけるのも……」
怒りが伝わる。クルルの体内の魔素が異常なほど回復する。またも肉体が裂けるが、スライム特有の回復力で補った。だが同時に体力を失う。
なにかが変わる。彼女は獣のような瞳でギマリを睨んだ。
「大概にしろ!」
魔装。クルルの魔装の長所は、滑らかさにある。
「ここまで近づいてきやがったか!」
ギマリは右手を機関銃からメリケンサックのようなものに変え、クルルを殴った。だが、滑るようにしてギマリの攻撃は無効化される。
「……!」
恐るべき程の魔装の柔らかさ。それに驚いたギマリは言った。
「器用だな!」
「器用になったんです!」
クルルの脳裏にレテシーとの思い出が過る。
「クルル、器用にやって」
「……レテシーがそれを言うの?」
「う……! で、でも、私は特例だから」
「ししし。だね」
私は、レテシーのような魔装は一時的にしかできない。だから、頑張って普通を求めた。
もう、レテシーのような魔装の使い方はできない。コジカさんに打ったやつは別の世界だからこそ打てた技。
正直、体中が痛いし怠い。魔素がなくなりかけた瞬間、身体中に痛みが走りなぜか勝手に魔素が回復してしまう。これは私では止められない。
体が動かなくなる前に、勝負を決めたいから。
(夕奈が前に使っていた技。それが今、何故か頭に残っている)
木葉さんと戦っていた時に夕奈は、魔素を爆弾に変えていた。私もあれをやる。
魔素をまとめて、爆発させるイメージ。
彼は、頑丈だ。これくらいしないと止まらない。なにより、もう広範囲な技は使えない。
だからこそ、この技で決める。一点集中のこの技で……!
「……!」
クルルはギマリへ近づく。一方、ギマリはこんなことを考えていた。
(何か企んでやがんな……おもしれえ。受けて立ってやる)
呼応する二人。彼と彼女は同時に言った。
「こいや!」
「行きます」
一進一退の攻防の末、ついにクルルの拳がギマリの腹に当たった。
「……!」
クルルは思う。
(やっといいのが入った!)
その拳は、鎧を砕く。精密な魔素の操作。クルルは、爆発的な攻撃を繰り出した。
「うが!」
吹き飛ぶギマリ。だが彼もただやられるだけの男ではない。
「……?」
じわじわと広がる痛み。クルルが己の足を見ると、深い切り傷があった。だがそれも見る見るうちに治る。
「……やばい」
自動的に治ってしまう影響か、体力が底をつきそうになる。クルルは自分の体に活を入れ、ギマリを吹き飛ばした方を見た。
「……」
彼は、上半身裸で立っていた。
「……いいじゃねえか」
「諦めてください」
クルルはただ一言、律するようにこう吐露する。
「訂正します。もう倒れてください」
ギマリは笑う。
「嫌だね!」
鎧が再びギマリの体を覆おうとする。だが、クルルはそれを見て悲しそうな顔をした。
「なんで、戦いなんかで楽しんでしまうんですか?」
「それが、俺様だから」
「残念です」
「……あ?」
ギマリは腹部に違和感を感じる。その正体は、魔素。今まではあまりの柔らかさに気づくことのできなかった力。
クルルは言った。
「まだ動くのなら、少々手荒に行きます」
その魔素の塊は膨張し、爆ぜた。
だが、ギマリは立ち上がる。それが彼なりの戦いだから。
「こんなので……!」
ギマリはクルルを狙おうと彼女を探す。だがクルルは、どこにもいなかった。
「ああ!?」
クルルは思う。
(この人は強い。本来私なんかが戦うような相手じゃない。だから、精一杯、足止めだけでもする)
ここで倒れる覚悟で、クルルは最後の力を振り絞る。勝手に回復する魔素を纏い、戦う。
一進一退の攻防。この勝負を制したのは……。
「わりいな」
クルルのか弱い拳をギマリは手の平で受け止める。
この時クルルは、体力を失った。
「……」
動けず倒れるクルルを抱え、コジカの横に寝かせる。そしてギマリは、満足そうに彼女らの横に座った。
だが、彼女の体はまだ動く。意思が諦めようとも、魔素を回復し続けた。クルルの指が、ピクリと動く。
「あ……う」
彼女の腰辺りから尻尾が現れた。身体の崩壊に呼応してスライムの特性が発動し体が治癒される。
回復に必要な体力はそれなりにかかる。もうクルルの心は折れかかっていた。
寝たい、休みたい。そんな甘えに似た感情を持つが、クルルは、なおも指を動かす。
「……」
クルルの瞳が、獣のようなものから元の屈託のないものに戻る。
「……」
覚醒前の力であったため、その本領は発揮されなかった。だが、彼女の背を押してくれていたことは確かなのだ。
「負け……ない」
「あ?」
クルル。彼女は立ち上がる。幸いなことに、魔素の供給は止まっていた。
祝福のような贈り物の中にあったのは、やる気と体力。
誰からの物なのかはわからない。
クルルは再び、ギマリの前に立つ。
そしてこう言った。
「紳士なんですね」
「うるせえ。紳士なのはロニイだけで十分なんだよ」
呆れたようにそう言うギマリ。だが心の中では確かに興奮していた。
「その目、好きだぜ。俺様を見てるからな」
「私は一度負けました。格上相手に、四の五の考えてる余裕はありませんので」
クルル。彼女は再戦を挑む。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! クルルにはもう一つ上のステージへ進んでもらいます! そして送り主は誰なのか……。次回を待っててね!




