93話 苦虫を噛み潰したよう
ポイロ。彼女は背中にあったはずの物を感じた。
「キョウヤ様」
「ああ、畳み掛けるぞ!」
斧を持つキョウヤが前に出る。そしてポイロは裏をかくように横から攻めた。
アンニはどちらから対応するか悩むが、即座に先ほど現れた両腕と尻尾をポイロへ差し出し、自分の体でキョウヤを止める。
「ふん!」
「まじか」
斧を振りかぶったキョウヤ。だがそれはアンニの両腕で受け止められた。
「ダリアフォース」
その一言と共に。
「たくっ。そんな危ない魔法使うなよ」
一歩引くキョウヤ。それを見たアンニは笑う。
「おれの体を乗っ取らない?」
「……」
キョウヤは思う。
(バレたか……。オレが他人の体を使ってる間は『ハイタッチジャック』が使用できないことに)
「作戦変更も視野に入れるか……?」
「なんか言った?」
「いいや……!」
キョウヤは斧を投げる。その斧は空中に浮く鎧の腕を狙った。
「……!」
ポイロの邪魔をしていた両腕が吹き飛ぶ。
「感謝します!」
アンニはその事実に冷や汗をかいた。
「キモイ! エルムン……」
「やめとけよ」
キョウヤはその呪文の詠唱に対し忠告する。
そう、これは彼女のためなのである。
「何度使おうとも、私はそれを奪いますよ」
アンニは舌打ちを我慢しながらこう吐き捨てた。
「なんなんだよ?……おまえは!」
「魔神」
全身の筋肉が強張る感触を覚えるアンニ。それはまさしく緊張と驚きが混じったものだった。
「あなたも魔族ならば知っているはずです」
ポイロとキョウヤは攻撃の手を止める。そしてアンニの返答を待った。
「……ああ知ってるよ、ロニイとおんなじ奴だろ!」
天から降ってくる鎧の両足。
「……!」
それはキョウヤとポイロを踏みつぶそうとした。だが二人に安易に防がれる。
「……まじか」
「悪いな。不意打ちはオレもよく知っている」
アンニ・トートンルー。彼女に、ポイロは言った。
「私は魔神の成りそこない。ただただ羽をもがれた魔族です」
「でも、強いんでしょ。ロニイから聞いた。へんに魔法の才能があったから羽が消えたって」
ポイロは微笑む。
「その通りです」
卓越した才能がもたらした悲劇。だが、彼女は後悔などしていない。そう言うように、ポイロはキョウヤを見た。
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
「そうか」
そんな光景を見せられたアンニは大声を出して宣戦布告した。
「うがー! うざい、うざい、うざいー! ぶっ殺してやる」
「やってみろよ」
キョウヤは斧を構え、こう述べた。
「返り討ちにしてやる」
三人はこの時、同時に動いた。刹那、それら全てをあざ笑うように、キョウヤの体を持った枯れ木のようなお爺さんが現れた。
「……ひょひょっ」
恐るべき不快感。嘔吐を催したアンニとポイロは膝を落とした。
一人、キョウヤだけはこう言う。
「んで、てめえがここにいる?」
「ひょひょ」
彼の名前は魔王軍幹部スウィートランボー。紅木葉に万葉木夕奈の捜索を命じた張本人。
そんな奴は、こんなことを述べ始めた。
「キョウヤ、手打ちといこうや」
「なんで?」
「ひょひょ。お前さんが全力を出してないことは知っている。だが、たとえ本気で来ようともわしは負けん。どうじゃ?」
「……」
キョウヤはポイロを一瞥し、こう返した。
「オレの家族にその力使うのやめろ」
「ひょひょ」
形勢逆転なのか、その真偽は分からない。ただ、この戦いは不本意ながら、幕を閉じた。ただただ不快感を残して。
アンニ・トートンルーは体を縛られスウィートランボーに押収された。
路地裏でうずくまるポイロを尻目に、キョウヤはハゲ頭の冒険者に体を返した。意識が元の体に戻る。キョウヤの体を持っていたスウィートランボーは笑った。
「ひょひょ」
キョウヤは呆れたように立ち、こう問う。
「で、なんでそこまでアンニを狙う?」
スウィートランボーは気絶しているアンニの頬を優しく触り言った。
「五年ぶりかのお……。おかえり、お団子」
アンニ・トートンルーを見つめながら、キョウヤは言う。
「反吐が出る。だからオレはお前が嫌いなんだ」
「ひょひょ。まあ、仲良くいこうや」
キョウヤは不快感を残したまま、この場を去った。言い訳を残して。
「いいのか? 逃げて」
「今のオレじゃあ、あんたに勝てねえ」
「ひょひょ。そうか」
キョウヤはポイロのもとへ向かう。そしてスウィートランボーとの会話をポイロにも伝えた。
ポイロはふつふつと怒りを込み上げる。
そしてキョウヤに言った。
「彼女がもう媚びなくてもいいように」
「ああ」
「私はスウィートランボー様のお屋敷に行きたいです」
「ああ」
「……キョウヤ様?」
魔王軍幹部キョウヤ。彼は、熟考していた。
「……ああ」
ここに一人、平和を重んじる男が一人。彼は知っている、魔王軍の恐ろしさを。
「作戦変更だ」
「はい」
キョウヤは、拳を自分の手の平に当て言った。
「中途半端は許さねえ。ランボーを潰す。そのためにXを呼ぶぞ」
ポイロは、静かに頷いた。
「はい」
今起きていること
・クルルvsギマリ・ガンガン
・アーサー=アーツ・ホーガンvsカニマニ・アルル&サーガ・ラントゥトーン
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
・バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダ&鍛丸匡一郎vsナイリー・ハニュ




