90話 今泣いた鳥がもう笑う
万葉木夕奈の勝利から時は遡り、場面は戦争の最前線に移る。
(いったい何が起きている?)
アーサー=アーツ・ホーガン。彼は減っていく魔族を尻目に、彼らがここへ攻めて来た理由を模索していた。
カニマニ・アルル、サーガ・ラントゥトーンの攻撃を避けつつ、アーサーは冒険者たちを心配の目で一瞥する。どうやらメモリープラットに押されているようだが、一部の冒険者たちが死者を出さないように立ちまわっていた。
(……心配だな)
「アーサー、よそ見は厳禁だぞ」
サーガは手の平の球体に魔力を籠め、回転させる。それに呼応し、アーサの衣服は時を戻すように移動した。
服に引っ張られるアーサー。彼は一言。
「意思のないものを支配下に置いて、楽しいか?」
サーガは落ち着いてこう答える。
「勝つためだ。カニマニ・アルル、血力の使用を許可する!」
血力、それは古き言葉。魔族のおじさん、おばさん世代が学校で習う。魔族特有の血統による得意魔法のことをそう呼ぶ。
カニマニ・アルルは口角を上げ言った。
「おいおい、滾るじゃないですか」
カニマニ・アルル。彼の力はアニマル。
アルルはアーサー向けて走り、こう叫んだ。
「獅子乱舞」
アルルの体が変化し、人型のライオンへと変貌した。
「あーっはっはー!」
アーサーはその姿を見つめ、こう思う。
(アイツの攻撃には魔力が乗っている。魔法を使えば防げるが、親玉に操られる可能性があるからな、仕方ない)
「ふんぐ!」
アーサーは笑いながら筋力で服を破った。
裸の王様。破られた服はバラバラな布のまま時を戻したように動いていた。
「なに……?」
常識のあるサーガ・ラントゥトーンはアーサーの行動に辟易する。
「憧れの男が公衆の面前で服を脱いだ……だと?」
「あーっはっは!」
サーガは怒りこう叫ぶ。
「アーサ=アーツ・ホーガン。光の魔法は操らない。だからその股間を隠せ! いや、隠してください!」
「なんだ、なんだ? オレの方が大きかったか?」
「ふざけるのも大概にしろー!」
「あーっはっはー! わかった。お前を信じてみるさ」
アーサーの股間に謎の光が現れる。サーガはその姿を見てこう言った。
「……まさか俺が驚かされるとはな。流石だ」
「おう!」
話す二人。そんな二人を見つめるアニマル……、いいやカニマニ・アルルはボソッとこう呟いた。
「……拙者の力、制限時間があるのですが……もう戦闘再開してもいいですかね?」
サーガとアーサーは同時にアルルを見る。そしてこう、合図もなしに同時に言った。
「ああ、再開しよう」
「だな、再開しよう」
アーサーは剣を捨て、己の肉体のみでサーガと戦う。
「これでお前は何も操れない。オレは、ステゴロでも強いぞ」
「残念だが、貴様が強い所以は魔法にある」
アーサーは地面を操られないか心配するが、それはなかった。
「カニマニ・アルル!」
アルルはアーサーの前に出る。
(なるほど、なんでも操れるわけではないのか)
アーサーはそんなことを思いながら、アルルに向けてこう発した。
「肉弾戦か、いいな!」
「おいおい、怖すぎんだろ」
アルルの腹にアーサーの拳が入る。
「あーっ」
笑うように口角を上げるアーサー。だが、同時にその口を閉じなければならなくなる。
「大蛇廻怪」
アルルの体は大きな蛇に変わる。そしてアーサーの体に巻き付いた。
「ひひっ。媚びへつらうチャンスだぜ!」
まるで忍者のように、草で作られたズボンを履いている小柄な褐色少年が突然現れる。
アーサーでさえ、これは予想外だった。
(誰だ?)
少年はアーサーの頭に触れた。
刹那、フラッシュバックする若き頃の記憶。
「なんで?」
アーサーの前にある親友の死体。
「オレが悪いの……?」
アーサーは、戦火の中で親友を抱いた。女である親友が手に持つ緑の宝石が、砂のように消える。
「オレが、戦わなかったから?……あ、あはは、あは、あははははは」
世界が崩壊する。少年は驚いた。
「はあ!?」
「あーっはっはー! オレに精神攻撃は効かないぞ!」
アーサーはアルルを引きちぎり、少年の首に一撃を加える。
倒れる少年。うめき声をあげるアルル。
アーサーは、サーガを見る。サーガは魔法を使いアルルを石化させた。
「サウザントスネーク」
石化したアルルに意思は、命はない。だからこそ、サーガの力で操れる。サーガは時を戻し、アルルの体をくっつけた。
そしてサウザントスネークを解除する。
「……あれ? 治っている?」
「カニマニ・アルル。戦闘を続けるぞ」
その一連の行動を見て、アーサーは確信する。
(なるほど、こいつの力は指定した物、もしくは力を操る能力。地面を操れないのは範囲が大きすぎるからか)
「一つ訊きたい。こいつは魔族ではない。なぜおまえたちの味方をしている?」
アーサーは気絶している少年を親指で指した。サーガはこう返す。
「お前たちだって似ているものを作っているだろ」
アーサーは静かに頷く。
(アリアの友達の友達、クルル。彼女のことか)
そう思いながら、話す。
「あーっはっは! そうか」
長二人は、仲間を守るために戦う。
「かかってこい、オレのファン。そして色々と教えろ、お前らが攻めて来た理由を」
「そのためにはまず、我々が勝たなければならない」
「そうか、じゃあやろう!」
アーサーはサーガ向けて走る。だがそれをアルルが阻止した。
「おいおい、長話すぎだろ」
「その喋り方流行ってるのか?」
「拙者のコミュニティでは、気持ち良すぎだろってほど流行ってる」
「あーっはっは! 面白いな」
アーサーは変貌するアルルを殴る。
アルルは痛みを我慢するように小声でこう言った。
「亀海鱗状」
アーサーの前に、巨大な甲羅を持った亀が立ちふさがる。




