88話 怒れる拳、笑顔に当たらず
今回の話には、30話で出てきた人たちが登場します。ずっと昔に書いたものなので、忘れている人も多いと思いますし、この機会にぜひ読み返してみてください!
夕奈とロニイはぶつかり合った。そんな戦いとは全く関係ないところで、バカはバナナのことを考えていた。
(もぐもぐ)
そう、頭の中で考える。彼は今、この国の中心ともいえるホルルレクス城に避難していた。
なぜ彼は、こんなにも意味のないことを考えているのだろうか?
それはひとえに、恐怖心からの逃避である。
(もぐもぐ)
部屋中に広がる黄金のバナナ。ドアをノックし入ってくるのは魅惑のボディを持ったバナナ。彼の心を癒し、慰めてくれるのはバナナだけなのだ。
そんな彼のニヤニヤ顔を見て、同じように避難していた女はこんなことを考える。
(もしかして彼、バカなのかしら!?)
いかにも素朴な娘といった顔立ち。道を歩いているだけではだれからも声をかけられない、そんな彼女は、
己の恐怖心を紛らわすためにバカで妄想した。
(彼は一体、何を考えているのか? あの顔からして、女か……? いいや、違う。そんな低俗なことではない。それならば……もしや自分が戦っている妄想か!? あり得る、だって男の子だもん!)
女は焦ったように立ち上がる。それを不思議そうに見る人々。女は恥ずかしくなり赤面して頭を数度下げた。
(な、何やってるの私……。ああ、恥ずかしい!)
そんなことを考える女の目線の先にひっそりといる男は、同時にこんなことを考える。
(くっそー。ガジャックさんが見当たらない。それに、話を聞くと鍛丸なんかが戦っているようじゃないか。ボクも参加したかったよ。……本当だぞ。お腹さえ、お腹さえ痛くなければ、ボクだって戦場に出て戦っていたんだ!)
男は悔しそうに涙を浮かべる。ちなみに、彼のお腹に痛みはない。
そんな彼を微笑ましそうに見つめるジャンク品を扱う店の店長は、心の中でこんなことを考えていた。
(今日はいっぱい食べたなあ。パスタにハンバーグ、とろけるようなカレーにメリハリのあるシャキシャキなサラダ。……どうしよう、腹が痛い)
周りを見渡す店長。遠くに見つけたトイレには長蛇の列ができていた。
急遽作られた避難場所。城の地下と一階に人々を集めている。だからこそ、トイレの数も全て合わせて十二個しかない。
(終わりである)
脳内ではパーティータイムだ。交差する色とりどりな光の中で、店長は踊っている。男としての威厳を保ち、人としての尊厳を守るか、全てを捨てて快感を得るか。ここに、究極の二択が発生した。
(ふんばれ……)
刹那、店長の脳裏に二日前の出来事が過る。
(たしかあの日、魔女のような恰好をした女の子が歌うようにこう言っていた)
不思議と、今はその言葉に頼りたくなる。店長は、覚悟を込めて言った。
「慧眼……『暁』!」
店長がどうなったかは、誰も知らない。そんな彼をあざ笑うように、トイレの中にいる負傷した兵士はこんなことを考えた。
(独りぼっちは、さみしいな)
「おい、早く出てくれよ!」
ノック音が響く。彼は約五分ほど、トイレにこもっている。
「もう少し待ってくださいよ……」
「いいのか? お前のせいでオレはこの辺り一帯に茶色い」
「はいはい、分かりましたよ!」
兵士はトイレから出る。そして恋人に会いに行った。その子は踊り子。
「おかえり」
「ただいま」
二人は肩を触れ合わせながら、座った。
そんな二人を恨めしそうに見つめる女がいる。
「ふんぐー! あそこにいるの私の妹なの。で、あの隣にいるのがこの世で一番最悪な男よ」
「ふーん」
その女の隣にいる男はつまらなそうにそう言った。それに反応して、女は鬼のようにこう返す。
「ちょっと、聴いてるの!?」
そんな風に、避難場所は恐怖を抱く者たちばかりだが、案外楽しそうにしていた。
だが、それももう終わる。
ここはホルルレクス城一階。それをすべて終わらせたのは、ギマリ・ガンガンだった。
「ふんぎゃあ!」
そう叫びながら城の壁を壊し、避難所へ侵入する魔族の男。
彼は異形の姿でこう呟いた。
「ぎゃはは。つえー」
起き上がるギマリを見て、恐怖する兵士の男。
(ありえない。この城の壁は、強力な魔素で守られているんだぞ)
そんなことお構いなしに、ギマリは立ち上がる。そして近くの女にこう訊いた。
「……おい、ここはどこだ?」
素朴な娘は周囲を見渡す。それに呼応して、その周辺にいた人々は一斉に女から離れる。
(え、え?……え!?)
「わたしですか!?」
「おう、そうだ! 教えろ!」
「ひ、ひいー!」
涙を流しまくる素朴な娘。彼女は恐怖のあまり滑舌が悪くなる。
「じろ、じろでず。じろでちゅうー!」
「ああん!? 聞き取れねえよ!」
「ひいー!」
ギマリは何とか聞き出そうと素朴な娘に近づく。だが女は、恐怖のあまり下半身の力を抜いた。
社会的な死。それを察した店長は、自分の未来と類似した彼女を助けようと思う。だが、足が動かなかった。
この場にいるそれぞれの人間は、自分勝手な言い訳でその場を動こうとしない。仕方ないのだ、どうしても考えてしまう、死のビジョン。それがどうしても邪魔してしまう。
素朴な娘は、ただ、服を濡らした。
「あ、ああ……うう」
一方その頃、バカはバナナのことを考えていた。詠唱と共に。
「ブループラネット」
バカは素朴な娘に水の球体をぶつける。その影響で、彼女はびしょびしょに濡れた。
「ああ?」
困惑するギマリ。それとは対照的に、素朴な少女は涙を流し、こう懇願した。
「たすけて」
バカは水の球体を浮かし、こう発する。
「バナナ」
刹那、ギマリの右肩にとんでもない力が加わった。
「感謝します! この男は、私に任せてください!」
現れる青髪の少女。彼女はメイド服を着ていた。
「バナナ」
少女の名はクルル。彼女は、微笑んでバカにこう返した。
「私の先生も、バナナが好きです」
「バナナ」
(もぐもぐ)
バカがそう思うと同時に、クルルは尻尾でギマリを打つ。
それを見たギマリはこう言った。
「クルル、俺様はコジカのもとに戻りたいだけだ」
「コジカさんの所へですか?」
「ああ。心配だしな。そこで再戦と行こう」
クルルは少し考えた後、快諾した。
「……わかりました」
二人は横並びでどこかへ向かって歩く。
残された人々。素朴な娘は涙を流し、バカを抱きしめた。
「ありがどうございまずうー」
バカは、クルルとギマリを見つめながらこう思う。
(……バナナ)
バナナを食べることすら、この戦争が終わらなければ叶わない。
だからこそ、彼らは託す。戦士たちに、勝利を。
「統治力場」
万葉木夕奈は空を舞う。勝利は目前に。
彼女は、ロニイを狙った。
はい! ここまで読んでいただきありがとうございます! 今回はいわゆる筆休め回です。作者もモチベ下がってたので、これを機にあげて行こうと思います!




