84話 同じ穴の狢
「……騒がしいな」
九頭龍晴翔はそう呟きながら、城から街を見つめる。そんな彼の横に立つ男。彼の名前はカネ・マネー。
「マネー」
「なんだい?」
「オレに考えがある」
カネ・マネーは笑って答えた。
「聞こうじゃないか」
一方その頃、クルルとギマリは死闘を繰り広げていた。
「行くぜ、行くぜ、行くぜー!」
百二十ミリの砲弾がクルルを襲う。クルルは尻尾を動かして防御しようとするが、それは失敗に終わる。
なぜか、そこに尻尾は存在しなかったのだ。
(……! 尻尾が、消えた?)
膨大な魔素の放出。当然、蓋をしなければすぐに底をつく。
クルルは普段魔法を使わないがゆえに、魔素の枯渇に気づかなかったのだ。
魔装はかろうじて宙に含まれる魔素を纏う事で使用できる。だが今まで己の魔素を利用して魔装を使用していたクルルにとっては、それは確かに弱体化と言えるものだった。
「……」
「おいおい。拍子抜けだな!」
止まらぬ砲撃がクルルを襲う。だがこの時、一瞬のうちだがそれは止まった。
ギマリの両腕が変化する。
「俺様の血は、体は、あらゆる武器に変化する」
右手は大剣に、左手は機関銃に、そして額には相変わらず大砲が。
「行くぜ」
「……!」
クルルに向けて機関銃を撃つギマリ。だがそれはあまりにもお粗末なものだった。
クルルはそれを全弾避ける。そう、まるで誘導されているように。
「……!」
「近寄って来たな、女!」
ギマリは腹から声を出し、その後右手の大剣を振った。
「……!」
クルルはそれを右の手首で受け止めた。いや、受け止めるはずだった。
「そんな……なんで?」
かろうじて首だけは動かせたコジカは、クルルを見つめながら絶句する。
なぜか、大剣を振ったギマリまで唖然とした。
「おいおい」
何が起こったか。それはあまりにも単純で、道理にかなうものだった。
クルルの右腕が飛ぶ。
「……っ!」
そう、ギマリの大剣はクルルの手首と肩を切断したのだ。……だがここまでじゃ、ギマリ本人が驚くのはあまりにもおかしい。
何故、彼は手を止めたのか。
クルルは思う。
(やっぱり、自分の魔素じゃないと上手く煉れない……)
「おいおい」
乾いた笑いと共に来る呆れ。クルルはそんなギマリを見ながら、切断部分に触れた。
魔装をえぐり、放たれた攻撃。それはクルルの腕を吹き飛ばした。だが……。
「おいおい、なんでそんなに血が少ねえ?」
クルルの肩から垂れる血。それは雫だった。
「……私は、人形なんです。だから、血も少ない」
人形。人という器に入れられたクルルは、その器の神経に己の肉体を通してその体を操っている。
変幻自在なスライムだからこそできる芸当。
そんなクルルは、獣のような瞳を向けてこう言った。
「引きましたか?」
彼女に心臓はない。だから人形。クルルはそう、自分のことを評価している。
ギマリは笑って答えた。
「ぎひゃひゃ。どうでもいいな」
クルルは微笑む。その裏で、クルルの魔素は常軌を逸するほど回復していた。その副作用か、スライムの肉体が裂け始める。だがそれはスライム特有の回復力で補った。
クルルの腰あたりから尻尾のようなものが生える。
「これ以上壊したら、ジーダさんに怒られてしまいます」
クルルは取れた腕をくっつける。
それを見たギマリはコジカにこう伝えた。
「コジカ、勝てなかったことを責めるなよ。お前は弱くない」
クルルの瞳が二人を狙う。本能というべきだろうか。彼女は肉体を手に入れ、人間として暮らすという夢をかなえた故に、獣へと変貌しかける。
ギマリはこう続ける。
「あれは兵器だ。この国に伝わる国宝、始鉱石、緑の輝きを放つ『生命』の石から作られた物」
ギマリの体は一旦人型へ戻り、その後化け物へと変わった。
右手に機関銃を、左手には盾を、両肘には剣を。頭からは刀が生え、背中には十数本の槍が生える。つま先は鎌へと変わり、脛は斧に、踝はナイフへと変貌する。そして最後に全身を覆う薄汚れた鎧のようなものに、皮膚が変化した。
「初めて戦う相手だ! 楽しみだな!」
咆哮のようにそう言い放つギマリ。一方クルルは冷静にこう返した。
「私はクルル。スライムの女王です」
「そうか! なんで自己紹介したかわからねえが、まあいい! 俺様はギマリ・ガンガン、愛する母上のためにお前を倒す」
そう宣言し攻撃に転じるギマリ、クルルはそれを受け止め、こう言った。
「……卑怯ですよ」
頬を膨らませながら、クルルはギマリを見た。刹那、尻尾がギマリを薙ぎ払う。
化け物と人形。中身と上辺の違いはあれど、彼と彼女はお互いを受け入れていた。だがそれも……。
「すみませんが、私に戦う意思はありません。諦めてくれないというのなら、いち早く無力化させてもらいます!」
「俺様の性格知ってんだろ!」
だがそれも、彼女達には関係ない。
それもそのはず、彼女と彼は、敵同士なのだから。
クルルは拳を振るう。それと同時に、鉄の音が響いた。
「……ほう、始まったようですね」
「もう一度訊くわ。エリオスのもとへは行かないの?」
「おや? 敬語ではなくなりましたね」
「ええ。考えてみたけど、あなた敵だし、必要ないかなって」
肩をすくめる夕奈。ロニイは微笑み言った。
「それもそうですね」
その微笑みに呼応して、夕奈も嘘の笑みを浮かべる。
万葉木夕奈とロニイ・ファーベント。お互い敵意があるのかどうかすら怪しい関係。そんな中、夕奈は言った。
「その指輪、左手の薬指につけてるけど、奥さんがいるの?」
言ってすぐ、夕奈はこう思った。
(そもそも人間の文化と同じなのかしら?)
それは杞憂に終わる。ロニイは一瞬しかめっ面になり、こう答えた。
「はい」
たった二文字、だが夕奈はそれが忘れられなかった。
(まったく、この人なんかほっとけないのよね)
夕奈は、呆れたように剣を持つ。
「休憩は終わりですか?」
「ええ」
どこか気が乗らない私は、相手に向かって走ることしかできなかった。




