82話 類を以て集まる
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。では、始まり始まり~
戦争は新たな幕を開ける。そんなこと、当人たちは知らない。
ここにもまた、戦う女が一人いた。
「慧眼……『暁』」
魔素が呼応し、今まで朧気だった軌道が、鮮明に情報として表れる。
「複合魔法。キューペットプライム」
魔族が使う、一瞬の力を増幅させるプライムクロックと、人間が使う風魔法、風の性質を変化させるジェットペットの複合魔法が放たれた。
だがその軌道、軌跡が夕奈の体を突き動かす。
まさに未来予知。まだ覚束ない力だが、確かに感覚をつかんだ、と思う夕奈。
彼女は魔法を避け、剣を振るう。
「ギルティア」
静電気が走るように、夕奈の右半身に痛みが走る。ロニイはその隙を逃さなかった。
「エルムンダリア」
「キメ技」
だが夕奈もまた、その隙を逃さない。
「必殺! はっ! 第一の技! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ!」
このゲームの溜めに似た時間。その隙をロニイが逃すはずもなく、セカイを再構築しながら詠唱した。
「セーブインパクト」
収縮した力の塊が夕奈を襲う。だが、それもまた未来予知に似たもので避けられてしまう。
ロニイは再び詠唱しようとするが、その前に夕奈が剣を振った。
「エクスプロージョン」
セカイが崩壊する。だがそれと同時に、ロニイの詠唱が完了した。
「バルクスオホーチュン」
地から這い出る無数の黒い手がロニイを守るようにロニイを包んだ。
夕奈は地に足をつけ、ロニイに接近する。
「……!」
「混合魔法。テンペスト」
まさに大嵐。風と雨が混ざり合い、夕奈を襲う。
(……!)
夕奈は攻撃の軌道を読むが、避けきれなかった。
「なるほど」
微笑むロニイ・ファーベント。
そこに夕奈の姿はない。
「削除完了。スキャニングを開始、完了。対象名を『大嵐』に変更。コピー可能です」
そっくりそのままコピーした嵐が現れる。それはロニイが創り出した嵐と相殺しあった。
足音を立てて着地する万葉木夕奈。彼女は言った。
「明日絶対寝る」
「小言の絶えない女性ですね」
奇しくも同格。二人はお互いを見つめ合い、様々な気持ちを交差させた。なぜか、口角を上げる二人。先に動いたのはロニイ・ファーベントだった。
「ネップサマー」
「……熱い?」
夕奈は一歩引き、言った。
「ちょっと気になるんだけど、エリオスにとってあなたはなんなの?」
ロニイは深呼吸をし、冷静を取り戻す。
「師範です」
「そうですか。ならそれなりの敬意はいりますね」
夕奈の顔つきが変わる。
(まったく、師匠ならいち早く弟子を助けに行きなさいよ)
そんなことを思いながら。
時を同じくして、別の場所でも戦闘が続いていた。
「おいおい。アーサ=アーツ・ホーガン、本当にすばらしいな」
「あーっはっは! 御託はいい。それよりもいつまで耐えるつもりだ? こうしているうちにお前たちの仲間は減っているぞ」
アーサーと共に戦う冒険者たち。
時は、一時間ほど遡る。彼らはギルドと呼ばれる、依頼を受注できる建物の中にいた。
「……でもよ、どうする? 金は手に入るだろうが、命が無くなるかもしれねえんだぜ」
「そ、それもそうだよな」
口々に怯えた声を出す冒険者たち。そんな彼らを見つめながら、ハピンチェボーレを経営している皆にリーダーと呼ばれている女は言った。
「弱腰どもばかりね」
横にいる受付嬢はこう返す。
「仕方ないですよ。自分から死に行く人などいませんから」
「それはいいのよ。うちは、城からわざわざ来たのにここでうだうだ言ってる半端者が嫌いなだけ」
リーダは思う。
(そう言ってる私も、何にもできてないんだけど……)
受付嬢は相槌を打つ。
リーダは思い直し、自分に喝を入れた。
「ん! こうしちゃいられない! 戦闘前の腹ごしらえのために、膨れない程度の料理を作ってやるわよ!」
それでも冒険者たちの空気は沈んだまま。そんな時だった、彼女が現れたのは。
「リーダー!」
「ん? フィンナじゃないか」
フルート片手に、汗をだらだら流すフィンナ。彼女は深刻そうな顔で言った。
「リーダー……ユーナが、戦っています」
「……なんだって!?」
驚くリーダーと受付嬢。
それに呼応し、ざわざわしだす冒険者たち。
リーダーは焦ったようにフィンナの肩を持ち言った。
「フィンナ、それは本当のことなのかい!?」
「……はい。城へ避難する途中、ユーナが魔族の男と戦っているところが見えて、急いで引き返してきたんです」
リーダは苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。
そこへ、ハゲた冒険者が現れた。
「フィンナちゃん、それは本当か?」
「……はい」
奥歯を噛みしめる音が聞こえる。ハゲを輝かせる冒険者は、仲間たちにこう伝えた。
「おいお前ら」
彼ら彼女らの目つきが変わる。
「うちの看板娘の一人であるユーナちゃんの危機らしいぞ」
逼迫する空気。そんな中で、ハゲの冒険者は言った。
「てめえら! いつまでここでふんぞり返る気だ! もう始まってんだよ、戦いは! そんなところにユーナちゃんはいるんだぞ! なのにオレ達本業の者は何をしている!? おかしいだろ! なあ、もう一度言うぞ……お前らいつまでふんぞり返ってる気だ?」
ハゲは武器を取る。
「終わらせるぞ、こんなおかしな現実を!」
その言葉に感化されるものは、一人、二人と増えて行く。
どよめきは喝采に変わっていた。
「うおーっ!」
叫んだ冒険者たちは、それぞれ好きな言葉を放つ。
「ユーナちゃんも頑張ってるんだもん。あたしも頑張らないと」
「ユーナちゃんが頑張ってるんだ。僕も戦うよ」
「ユーナちゃんはうちの看板娘だ。これ以上、傷つけさせるわけにゃあいかないな」
「ユーナちゃん一人に、任せるわけにはいかないよね!」
がやがやとした声は次第に、戦う意思へと変貌する。そこへ、ドードン・カルナスが現れた。
「武器は持ってきた。好きなのもってけ……!」
大量の汗を流すカルナス。重い武器を急いで持ってきた証だろう。
カルナスの思惑通り、冒険者は武器を取る。そして戦場へと赴いた。
第一線へ向かう者たちは皆、強者ばかり。
時は戻りアーサー=アーツ・ホーガンはカニマニ・アルルこう伝える。
「これ以上続けるつもりか? 無駄だぞ」
アーサーはメモリープラットを吹き飛ばし、アルルを再度見た。
カニマニ・アルル。彼は、深刻な表情を浮かべながら言った。
「……拙者たちは、勝てないのか?」
この瞬間、アーサーはカニマニ・アルルではなく上を見た。
「誰だ?」
この場にいる魔族達とは格が違う。アーサーは、魔族とは違う生き物と言っていいほどのオーラを感じる。
「ほう。この距離で気づくのか」
瞬間移動のように突然現れる男。牡丹色の目に浅蘇芳色の髪。なによりガタイのいい魔族だった。
「……親玉か?」
「まあ、そんなところだ」
魔族の男はカニマニ・アルルを尻目に言う。
「カニマニ・アルル。問題ない、我々は勝つ」
カニマニ・アルルは口角を上げ、言った。
「はい……!」
アーサーはそんな彼に言った。
「あーっはっはっはー! 気に入ったぞ! お前、名前は?」
「……サーガ・ラントゥトーン。貴様には知ってもらいたかったからな、訊いてくれて助かる」
「そうか! オレの名は……」
「言わなくていい。『戦場の道化師』アーサ=アーツ・ホーガンだ。俺は知っている」
アーサーは間を置いてこう言う。
「なんだ? オレのファンか?」
「こんな形で出会ったことを、俺は後悔しているさ」
「あーっはっは! そうか、ならファンサービスだ」
アーサーは地面を操る。高さ約十メートル程の柱を作るため、地面を刳り貫き、それを地上へと上げた。数十本の半径約二メートルほどの柱が戦場をかき乱す。
だがそれら全ては、時を戻したように地中へ帰る。
それを見たアーサーは笑みを浮かべながら言った。
「なるほど、すごいな」
「驚くのはこれからだ」
サーガは、手の平に球体を創り出す。
一方その頃、クルルの前にも新たな魔族が現れていた。
「なっはは! コジカ、随分と立派に負けたな」
「……すみません」
クルルは首を傾げ言う。
「コジカさんのお友達ですか?」
「違います。彼は僕の、育ての親です」
クルルはその男を観察する。
たくまし過ぎる肉体に、獣のような瞳、刈り上げた髪型など、とにかくいかつい男だった。
(似てない……)
そう思うクルルだが、もう一人のコジカを思い出して妙に納得する。
「あ! す、すみません! 私、コジカさんを殴ってしまいました。また後日改めて菓子折りでも……」
クルルの横を通り過ぎる弾丸。それが何を意味するか、少女は察した。
「またですか……?」
大柄な男は悪い笑みを浮かべる。
「借りなら、今ここで返してくれよ。俺様は、たぎってるんだぜ……こんな女が現れるなんて思ってなかったからな」
「そうですか……」
ギマリ・ガンガン。それが彼の名前。ギマリの額から大砲が現れる。それは両手にまで伝わり、大砲へと姿を変えた。
両手と額が大砲に変わったギマリ大砲モードは、クルルを狙う。
「……」
「行くぜ、女」
大砲の音が響く。その音を聞いていた男もまた、魔族の王を支える四人のうちの一人と遇っていた。
「魔王軍幹部キョウヤ。裏切者が」
「だから、オレ達は裏切ってないって」
「ああ? オレ達をまとめていたのは魔王軍だろ。なのに、急に援助しなくなってよ。……お前らのせいで、オレたちはうまい飯を食えない状態なんだぞ」
「……こっちにも、いろいろあるんだよ」
青髪でお団子ヘアな魔族の女は、小柄な体からは想像もつかないような荒々しい口調でこう言った。
「お前が日本人だから……オレ達を裏切ったんだろ!? この勇者様がよ」
「確か、アンニちゃんだったよな。今は召喚者のことを勇者って呼ばないらしいぞ」
「オレを下の名前で呼ぶな。あと、そんなことどうでもいいんだよ。オレが言いたいのはお前ら魔王軍が裏切ったって事実」
「……だから、トートンルーちゃんは勘違いをしている」
「オレをその名前で呼ぶな」
「んじゃあどう呼べばいいんだよ!」
アンニ・トートンルー。彼女は反吐を吐き捨てるように言った。
「呼ぶな!」
「へいへい」
キョウヤは呆れたように返す。
「それじゃあ、オレは失礼するよ。嫌われてるようだしな」
「それはダメ」
「なんで?」
ナイフのように鋭利な尻尾がアンニから生える。それがキョウヤを脅した。
「逃げるのなら刺す」
「……」
キョウヤは青ざめ、大声でこう言った。
「あ! あんなところに肉がある!」
「え! どこー?」
アンニは数秒探し、騙されたことに気づく。見えるのは遠くにいるキョウヤの背中。
「ぐぬぬ……逃がすかー!」
キョウヤは内心焦っていた。
(や、やべえ。オレは戦闘が苦手なんだ。せめて強い体を探さないと)
必死に逃げるキョウヤ。それを追いかけるアンニ。ここに、鬼ごっこが始まった。もちろん捕まれば死ぬ。
そんな風に加速する戦争。それは確実に終戦へと向かっていた。
この戦いのカギを握るのは、勝者のみ。
万葉木夕奈もまた、知らず知らずのうちに争いに巻き込まれていた。
この戦争の勝者は、神のみぞ知る。魔族と人間。争い合うのか、はたまた手を取り合うのか。
神が結果を知るのなら、彼女もまた、神なのだろう。
今夜何が起きるのか、リリア・ホーガンは知っている。
「アリア」
「お姉ちゃ……お姉様」
アリアを見て、リリアは微笑む。
「ここが、踏ん張りどころだよ」
彼女の瞳は、相変わらず死んでいた。
今起きていること
・万葉木夕奈VSロニイ・ファーベント
・クルルvsギマリ・ガンガン
・キョウヤvsアンニ・トートンルー
・アーサー=アーツ・ホーガンvsカニマニ・アルル&サーガ・ラントゥトーン
・冒険者たちvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
・バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダ&鍛丸匡一郎vs謎の女




