80話 暴虎馮河の勇
今起きていること
・万葉木夕奈VSロニイ・ファーベント
・アーサー=アーツ・ホーガンvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット&カニマニ・アルル
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
・バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダVS鍛丸匡一郎
・レテシー・アルノミカ&嘉村舞奈vsヴァルダニオ・ボンダ&ヒョウリー・クワンド
少女は戦う。愛する者のために。
「本気で殺す気だん!?」
「もちろんです」
チェーンソーのように荒々しいレテシー蹴りが、クワンドの腹を狙う。それから身を守るためにクワンドは氷の盾を作り防ぐ。
「おお、そんなこともできるんですね」
「魔族の血を舐めるなだん」
クワンドがそう言うと同時に、爆発音に似た音が鳴った。
「……」
レテシーは嘉村舞奈を一瞥する。嘉村の顔を隠すように煙が滞在していた。それに呼応するようにヴァルダニオ・ボンダの槍が赤く光る。
だが、それごときでは……。
「驚きました」
嘉村舞奈の魔装は破れない。
「あちらも白熱しているようですね」
そう言いながら回し蹴りをクワンドに向けるレテシー。例にも漏れずクワンドはそれを氷の盾を生成し防ぐ。だが氷は砕け、レテシーはその隙をついて蹴りを再度向ける。
「こうなれば奥の手だん!」
「無駄口をたたく余裕がおありで?」
レテシーはいつも以上にクワンドに接近し、右足でクワンドの顎を蹴り上げた。
「ギルティ……」
魔法の詠唱を許さないレテシーは体を捻り再度右足でクワンドの腹を狙う。
だがこれも氷の盾で防がれる。
「ギル……」
レテシーは地に足をつけ、右手に魔素を纏う。
「ギル……って右手!? 初めてだんね!」
その無駄口が仇となり、クワンドの体にレテシーの拳が入った。
クワンドは後方へ飛ぶ。
レテシーはそれと自分の手を交互に見ながらこう思う。
(不意打ちは成功ですが、やはり足に纏う方が気を張らなくていいですね)
「……コンスルトローアー」
地を操る地魔法の基礎となる技。今回は床だが、レテシーは城の床を操りクワンドの両腕を掴む手を創る。
「それは食らわないだん」
「……」
一瞬だが、そのお気楽なクワンドを見て心を許しそうになるレテシー。すかさず冷酷さを取り戻すため、レテシーはクワンドに接近し、蹴りを入れようとする。
それは彼の心臓を狙う。
「……まったく、乱暴だんね」
その慈悲を含めた一言が、ギャップも相まってレテシーの心を揺さぶる。
だが無意味。それはことごとく胸の奥へと消えた。
「……! そう、引く気はないだんね」
「当たり前です!」
クワンドは冷気を操る。空腹で苦しむ弟を救うために、今この瞬間だけは、彼は少女の敵へと成る。
「おいどんは……」
クワンドの脳裏に弟の姿がよぎる。母は餓死、父は戦死。残す家族は弟のみ。そんな弟との記憶が、クワンドを鼓舞する。
それと同時だった。レテシーの体に異変が現れたのは。
「……うっ」
「お前を倒して王女を捕らえるだん!」
硬直したレテシーの体に、氷で作り出された拳が直撃する。後方へ吹き飛ぶレテシーは、己の体を床から出た両手で止める。
「……」
少女は思う。
(なんだ? 突然体が……。違うこの感じ……)
「体が硬い……?」
「おいどんは優しいから教えるだん。君の体の中にある水分を凍らせているだん。それが嫌なら降参するだん」
「……顔にそぐわずやることがえげつないですね」
レテシーはこの時初めて、苦笑いを浮かべた。
「しかし、お断りさせていただきます」
「本気だん……?」
「はい」
レテシー・アルノミカ。彼女は万葉木夕奈が会って来た人間の中で一番……愛に飢えている。
(ここで引くとアリア様が危険になる。それでアリア様が死ねば私も死ぬことになる。だったら簡単です)
「あ、あんまり動かない方がいいだんよ……」
「そうは言ってられません」
レテシーは足に魔素を纏う。体が硬くなり始めるが、そんなのお構いなしに動く。
「……割れても知らないだんよ」
「わたしより、自分の心配したらどうですか?」
レテシーの蹴りが、クワンドの氷の盾を砕いた。




