72話 遅れてもやらないよりはまし
「ゲートが……閉じた?」
信じれないような表情を浮かべるエリオス。そんな彼を慰めようと、夕奈はこう言った。
「終電逃した感覚だよね。わかる」
「意味わかんねえよ」
ふっ、と鼻で笑うエリオス。そんな彼を見て、夕奈は安心した。
「大丈夫。明日があるよ」
「どういう意味だそれ?」
「だから……泊めてやるって言ってんの」
夕奈は剣を握る。
一方その頃、城の中にいる魔族達はそれを知ることなく戦っていた。
場所は二つ。一つは王女を狙った者たちがいる所。そしてもう一つは、ジーダ・オニュセントを狙う女がいる所である。
だがその目的は崩れようとしていた。
「ん……、手ごわい」
「んふふー。勝手に突っ込むなよ」
「はー。喧嘩しないで」
禍々しいアイマスクを付けた少女、無難でシンプルなマスクをつけた少女、可愛らしいピンクで、もふもふな耳当てを付けた少女、彼女らの容姿は酷似している。
アイマスクを付けた少女は鼻腔をくすぐりジーダを睨む。
「このままじゃ勝てない。プランBで行こう」
耳当てを付けた少女は刀を鞘に納めこう言った。
「殺す気? 私たちの目的は捕獲だよ……」
マスクをつけた少女はこう言う。
「死体でもいいって言ってたし。それに、このままじゃ私たちは勝てない」
うんたらかんたらと話し出す少女らを見つめながら、ジーダはスライムから摘出して作った薬を傷口に塗る。
痛みは増幅するが、完治が早まることに越したことはない。ジーダはそう思う。
しかし小指だけは取れた先がないと治せない。
そんなことを考えているうちに、少女たちは覚悟が決まったようにジーダを見つめた。
アイマスクを付けた少女は言う。
「んじゃあ、行くね。おじさん」
音を響かしジーダとの距離を詰めるアイマスクを付けた少女。彼女は城の壁、床にぶつかるように動く。
「……」
そして蹴りを、拳を、ジーダに叩き込んだ。しかしそれらすべては岩で作った剣で防がれる。
延々と続くその攻防。それに一石を投じるため、耳当てを付けた少女は分かりやすく空いたスペースに潜り込み、刀を振った。
それはあまりにもわかりやすいものだった。ジーダは罠かどうかを瞬時に考え、この答えを導き出した。
(唯一こちらに来ていない少女が気になる。だが、このチャンスを逃すことは惜しい。二人を抑えるチャンスなのだぞ)
若き頃の血がたぎる。
久しぶりの戦闘、それによる気分の高揚。もう、ジーダの狂喜を抑えられるものはない。
彼はバーサーカー。雀百まで踊り忘れず。
忘れかけていたそのスタイルを、彼は思い出した。
「キャストアイズ」
バチンと、配線を切られたようにアイマスクを付けた少女、耳当てを付けた少女の視界は消える。
刹那、耳当てを付けた少女の左腕に鈍い痛みが走った。
「エルコヒュート」
大地の力をわが身に。魔法の種類は希少なものを除いて六つある。火、水、風、地、闇、光。
文明の進化により最も変化してきた魔法。それは地魔法。
建築の発展に大きく献上し、同時に進化した力。
ジーダは城の床の物質を分子にまで分解する。
「……!?」
それに最も早く気づいたのはアイマスクを付けた少女だった。
(この感覚……。これって、魔法オタクな学者レベルにならないと使えないような魔法じゃん)
少女の口元が、変化する。
笑み。それはジーダを挑発するように、鋭い声を発した。
「ぶっひゃはやははうううう!!!!! 凄い! かっこいいね!」
ジーダは知っていた。彼女に盲目の魔法が効かないことを。
だからこその、この魔法。エルコヒュート、最高峰の地魔法が、炸裂した。
分子まで分解された物体は新たな形へ再構築される。まさに錬金術。
C、H、O、他にも様々な床の素材となっていたものたちが交差し、そこにスパイスを加えるようにこの世界特有の魔素が入る。
本来ならあり得ないはずの錬成を、奇跡を、成し遂げるために。
「創作獣……プリンちゃん」
怒号を鳴らし、君臨するはキメラのような生物。全体は猫のように、そこに付け加えられた龍の鱗と虎の目。そして最も輝く、金の鎧である。
吐血するジーダ。それを見つめ興奮するアイマスクを付けた少女。耳当てを付けた少女は岩の剣で殴られた左腕を抑え、それを見つめる。
だが一人、準備していたと言わんばかりに右手を胸に持って行った女がいた。
マスクをつけた少女の瞳が、黄色に輝く。
「コネクト」
この場にいた五人の心が繋がる。
「な……」
唖然とするジーダ・オニュセント。その横で、魔法を妨害されその姿を崩す獣がいた。
マスクをつけた少女、アイマスクを付けた少女、耳当てを付けた少女、三人は一斉に動き、溶け始めた獣を狙う。
(心は繋げた。これでジーダ・オニュセントの魔法は私が止め……)
また一人、唖然とするマスクをつけた少女。彼女は五人を繋げた親機であるため、その違和感に気づくことができた。
そう、気づいてしまったのだ。
「あ……?」
そよ風が吹いた。
(私たちは三人、敵は一人……なのになんで、五人なんだ?)
パスワードをつけなかった失敗は、マスクをつけた少女を蝕む。一度繋げてしまった者からあふれるウイルスのようなもの。異物を交えたしまった魔法は崩壊する。
相互作用とでもいえばいいのだろうか? あちらもまた、マスクをつけた少女の魔法を妨害した。
「私は……みんなを守る女になるんだ!」
完全な不意打ち。彼女、ファニー・トロイポンの鉄製の剣がマスクをつけた少女を襲う。
壊れる魔法。風で吹き飛ぶ女。ジーダ・オニュセントはその光景に驚きつつも、プリンちゃんを再構築した。
風と共に床に足をつけるファニー。
「ゆなっちなら、絶対こうするから。ここで逃げたって、それは後回しにしかならないから」
城の中をぐるっと一周し、敵の背面側から現れ戦う作戦。まだ覚束ない作戦だが、まぎれもなく成功した。
マスクをつけた少女は呆れたように思う。
(確かに私の力は、かけられた側も干渉できるガバガバな力だ。でも、それはあくまで私の感性があってこそだ)
「たく……どんな共感性してんのよ。最近の若者は怖いね」
マスクをつけた少女は立ち上がり、仲間の二人を一瞥する。
(……この子ちょっと厄介かも。私一人で足止めしないと)
「ねえ」
その声を聞いたファニーは真剣な眼差しでマスクをつけた少女を見る。
「私の名前はオメガ。あなたも自己紹介くらいはしてよ」
ファニーは笑みを浮かべた。
「こんちゃー! 私の名前はファニー・トロイポン。オシャレとマカロンが好きな十四歳でーす! 最近は憧れの先輩の影響もあってか、自分磨きにハマってます! オメガさん、よろぴく! チョワー!」
「……」
そんな妄想が脳裏をよぎる。これはさすがにヤバいと思った私は、礼儀正しく、頭を下げた。
「私はファニー・トロイポン。まだまだ未熟な淑女でございます」
「淑女ねえ」
オメガは、鉄製の剣で叩かれた頬をさする。マスクで笑っているかの判断はできない。だが彼女の肩は震えていた。
「淑女、いいね。……もし私がその身分だったら、大人しく隠れてるのに」
「あなたはあなた、私は私ですよ?」
ファニーは夕奈にアドバイスをもらい創り上げた呪文を発する。
「鎌鼬」
風に乗って、塵や床の破片、埃が舞う。それらはオメガを狙うが、途中で分散してしまった。
「あ、あちゃー」
それを見たオメガは呆れたようにこう言った。
「ふっ。たしかに未熟だな」
「他人に言われるとなんかムカつく」
「それが大人になるってことさ……」
「オメガさんも大人じゃないでしょ」
オメガは仲間の二人を一瞥する。
(……押されている? 足止めはやめて手助けに行った方が賢明か?)
「……悪いけど、私は実験で成長しなくなってるだけ。あんたと違って三百は超えてるから」
腰からナイフを取り出すオメガ。ファニーは突然の戦闘に気圧されながらも、武器庫から拝借した鉄製の剣を握る。
「すごい……おばちゃん?」
「はー……。これだから最近の若者は」
ファニーの再登場です! 作者的にはめっちゃ熱い展開!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




