69話 花は桜木、人は武士
今起きていること
・万葉木夕奈VSエリオス・バンダ
・ジーダ・オニュセントvsアイマスクをつけている少女&マスクをつけている少女&耳当てをつけている少女
・アーサー=アーツ・ホーガンvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット&カニマニ・アルル
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
・バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダVS鍛丸匡一郎
・レテシー・アルノミカ&嘉村舞奈vsヴァルダニオ・ボンダ&ヒョウリー・クワンド
・クルルvsコジカ
「来いよ。ユーナ!」
万葉木夕奈はエリオスのその言葉を聞き、可愛らしい屈託のない笑みを浮かべる。
「ええ」
私、万葉木夕奈は『天眼』を使う。
この力、『天眼』は空からの視点で見れるちょっと癖のある力だ。
だがこれのおかげで、私の剣術は大幅に成長した。
自分の動き。客観的に見れるというその特性を使い、私は修行終わりや空いた時間に屋外で剣を振った。それを客観視し、修正する。
その繰り返しが、私を大きく成長させた。
だからこそ、心の底から信頼できる力なのだ。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
私は己の目からの視点と、天からの視点二つを同時に見る。そして間合いを詰めた。
『偽装』を不必要に使わせないためか、エリオスは空を飛ぼうとせずに地に足を付けていた。
「あら? 逃げないの?」
「ぶん殴るぞ」
エリオスは指を鳴らす。刹那、数個の青黒い球体が現れる。
私はそんなのお構いなしに剣を振る。
それらすべてを剣でたたき伏せ、故意に破損させる。それらの中から青い火が現れるが、エリオスは自分に飛び火がこないようにか、それを消した。
私は息を大きく吸った後、それを止める。
全身の筋肉に力がこもる。覚悟と共に。
(私じゃあ、どう頑張ってもエリオスに筋力では勝てない。だから……技術で勝つ!)
私は剣でエリオスの胴体を叩きながら、その勢いのまま移動する。
(まずは一発)
そして無意識のうちに手を地につけていた。
エリオスはそんな夕奈を見てこう思う。
(きた。こいつの変な構え)
四足歩行の動物のように、両手両足を地に着ける彼女。そんな夕奈に向けて、エリオスは青い球体を数発飛ばす。
だがそれはもう看破されている。夕奈はいとも簡単にそれを避け、エリオスの膝下ほどしかない姿勢で剣を振る。
それは夕奈の体の柔らかさがあってこその技だった。
弁慶の泣き所とも揶揄される脛。そこへ向かう剣。
そんな一瞬だった。
血が舞う。エリオスは片目をつぶるように痛がった。
「カチカチドン」
夕奈の耳に遅れてやってくるその声。それに呼応して、夕奈の脳に最悪の状況が思い浮かんだ。
「……やばい」
エリオスは痛がっていたが、夕奈はそんなそぶりを見せていない。だが、確実に、この血は彼女の物だった。
足をつたう冷たく赤い液体。私はそんな液体を一瞥しながら、エリオスの服に付着した赤い何かをまじまじと見た。
「乙女の足に傷をつけたな?」
「はっ」
私は膝上くらいのスカートを履いてきたことを後悔する。
だがそれ以上に、悔やんだことがあった。
(なんで、氷の刃が飛んでくることを読めなかった……! なんで、一瞬油断してしまったんだ……!)
その後悔は最悪へ。彼は、私が唯一恐れていた言葉を呟いた。
「オクヌマス」
私の腹部にレーザーポイントのような赤い円ができる。
前回の戦闘で私は、『偽装』を解くことでこれを解除していた。だが今回は定義が違う。今の私は、正真正銘万葉木夕奈だ。そこに偽りはなく、残念なことに改変はできない。
視界が曇る。
(ああ……ヤバイ)
「ドン」
「……っ!」
私は後ろに吹き飛ぶ。空気に押されて。
絶望に飲まれそうになる最中、私は自分の努力を思い出していた。
(集中しろ、私! 完璧なものなんてない。穴を、弱点を見つけるんだ)
前より、強くなってるんだろ。そう、自分に言い聞かせる。
「ドン」
「……!」
またも、空気の塊が腹部の赤い円に当たる。
「……、ふうー」
一度深呼吸を挟む。そして私は、エリオスを見た。
(あの攻撃は、おそらくこの赤い円を的にしている。服を脱げば何とかなりそうだが、それはもう負けなのでしない。ならば……?)
こうなったら使えるもん全部使って、何も考えずに攻撃し続けてやる。
「ドン」
「……!」
私は剣を腹部に押し当てる。
(やっぱり)
空気の塊はこの赤い円を狙っている。そのおかげで防ぐことができたが……、動くことはできなさそうだ。
ならば今すべきことは……。
(昔の自分を信じて、剣術で圧倒してやる)
夕奈の眼光がエリオスを捕らえる。一瞬の出来事だった。
エリオスは焦って「ドン」と言うが、夕奈はそれをレンガ作りの道にあったレンガで防ぐ。
(わかってみれば大したことない。焦らなければ……)
私は自分の間合いに入り、剣を振った。
(私の手は彼に届きうる)
私は無意識のうちに、こう呟いていた。赤い光の線が、私の右手に直結する。
繋がる。その線はコードのように、情報を私に送った。
「……キメ技」
十字型の光が剣から発せられる。私と剣は呼応し、俗に言う必殺技を放った。
鍛丸の趣味全開の魔道具。それは最高傑作の象徴である。
「必殺ー! はっ!」
音楽のように言う剣。一瞬ビクッと体を震わすエリオスと夕奈だったが、そんなことお構いなしに剣はこう続ける。
「第二の技! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ! 一撃、粉砕、吹き飛びなされ!」
それは音楽のように、周囲を賑やかに変える。
夕奈はそんな声を聞きながら、微笑みながら呆れていた。
(たく……。これは恥ずかしいよ、鍛丸さん)
「……」
夕奈はそんなことを思いながら、剣を強く握った。
「フェザーインパクト」
それは強い打撃を与え、同時に命を救うクッションにもなる。
その夕奈の一声と同時に、世界が揺れる。パキッと、ガレスが割れるような音が響いた。
彼女は、剣の赤い線が血管のように波打つのを見ながら、「うげえ」と言う。その後、赤い線は収まったように消え、元通りの黒い剣に戻る。
彼は、吹き飛ばされたにも関わらず、傷が少ないことに困惑していた。
「……でも節々が痛いな」
「そりゃあ、そうでしょ」
私、万葉木夕奈は腰に手を当て言った。
「この技は痛みだけを与える。なんだそれと思うなら、臆病だとでも言えばいいわ」
「はっ! 言わねえよ」
エリオスは立ち上がり、改めて夕奈を見る。
聞こえてくるのは、たくさんの人々の悲鳴。それに、魔族も人も違いはない。
エリオスは静かに笑い、それに呼応するように夕奈も笑う。
その奥に秘めた気持ちは、二人とも同じだった。
(ああ、すごいな)
(まだ、立ち上がれるんだ)
その瞳は、期待を込めたもの。凍っていたエリオスの心を、万葉木夕奈は戦いと言う手を用いて溶かす。
彼にはもう、彼女しか見えていない。
「ユーナ」
「なにかしら?」
エリオスは口角を上げる。そしてこう言った。
「受けてやる。お前のすべてを……! もう、逃げたりはしない」
「そう」
夕奈はその言葉の意志を、深く、汲み取った。
「……なら、お互いやりたいことを、全力でやりましょう」
「ああ。いいな、それ」
「でしょ」
「ああ、最高だ。最高の、アンコールだぜ」
夕奈の成長の成果を見せる回となりました! 残るはあと二つ……。




