68話 言うは易く行うは難し
誰が言ったかバーサーカー。ならばその弟子は?
エリオス・バンダは彼女のことをこう称した。
(この荒々しいウサギめ)
どうやら彼の感性は一般人と乖離しているらしい。
「……!」
彼女はうっすらと笑みを浮かべながら剣を振る。研いでいない、鈍器と何ら変わらない武器を。
オレはそれに答える。
だって、なんだか面白そうだからな。
エリオスはそんなことを考えながら、青黒い球体を万葉木夕奈に放つ。
それは地に着き、発火する。
消えない火。
「これでも、お前は力を使わないのか?」
「あー……。考え直す必要がありそうね」
夕奈は一歩引く。それに呼応してエリオスはうっすらと笑った。
「ふっ。おまけにこれも見せてやる」
エリオスは右手を天に向け、詠唱した。
「かはなじまにますにまにはまじーんほならねぶっちばばばん!」
無音がこの場を支配する。夕奈は苦笑いを浮かべ、エリオスは何かを察した。
「え、えーと」
エリオスは静かに手を下ろし、こう思う。
(曖昧な呪文は言うべきではなかった)
刹那、石っころがエリオスを襲う。
夕奈は小さな石を数個手で弄びながら、こう言い放った。
「詰めが甘いのよ」
「同感だ」
夕奈は空を飛ぶエリオスへの攻撃手段を持ち合わせていない。
「……仕方ないか」
そう、夕奈は……。ならば他の者なら?
夕奈は思う。
(久しぶりに、助けてもらうわ。お姉さん!)
夕奈は右手に神経を集中させる。そしてエリオスを煽った。
「来なよ」
エリオスは青黒い球体を投げる。それは儀式の準備のように淡々と、何かの期待を込めたようなものだった。
夕奈はその球体が割れる瞬間に『偽装』を使う。
(勝負は私の負け。でも、試合には勝たせてもらう)
消えない青い火が現れる。私はそれに向かって瓦礫と共にあった木材を投げる。
当然のように燃え上がり、煙が発生した。
「スキャニング完了。対象名を『煙』に変更。コピー可能です」
どうやらこの青い火は特別なものらしく、異常に木材が燃えた。運のいいことに、予想以上の風が吹く。
私は念じた。煙を。
それと同時に体の構造が変化する。私は宙に舞った。
エリオスを超えて、私は空で『偽装』を解く。そして剣を振った。
脳天直撃。なのにエリオスは……。
「……やっぱり」
彼は無傷だった。
夕奈の脳裏に記憶がよぎる。
(前に戦った時も、無傷で私の攻撃を受けていた時があった。やっぱりあれも……)
私、万葉木夕奈は微笑んだ。
「やっぱり、そういう事なのね」
師匠から教えられた事実。もう一つの使い方。
彼の異常な耐久力。その正体は……。
「ほう。君はそれが使えるのか」
別の場所で、クルルにそう言うコジカ。
「メイドのたしなみというやつです」
クルルは口角を上げる。
音の塊を受けて無傷。
その事実はコジカを震わせた。
「ですから……ん?」
クルルの言葉を聞いている途中で、コジカは突然頭を押さえる。
「やめてよ。僕一人で出来るから……。頼むから出てこないでくれ」
首を四方八方に振るコジカ。
「だから……!」
それは突然に。コジカは気絶するかのように体の力を抜いた。
「ふう」
人が変わったように、コジカはクルルを見た。その瞳は、同一人物とは思えない程、冷たいものだった。
「……!」
総毛立つ。クルルは初めてその感覚を味わった。
「お嬢ちゃん。……暴れるなよ。バルクスオホーチュン」
コジカは人差し指を手の平を上に向けながら天に向けた。
それに呼応して、黒い無数の手が現れる。
さすがのクルルもこれからは逃げた。
「暴れるなと言ったのに……」
音の塊がクルルの目の前に現れる。
「お仕置きだ」
「……っ!」
顔面に音エネルギーが直撃する。
だが、彼女は止まらなかった。
「素晴らしい! 相当努力したんだろうなあ!」
クルルは数発の音の塊を避け、コジカに接近する。
そして拳を作りこう言った。
「ちょっとだけです」
「ははっ! いいぜ、こいよ。肉体戦闘は得意だ!」
クルルはコジカの拳を腹に受けながら、己の右手をコジカの頬に直撃させた。
男は後ろへ吹き飛ぶ。
違う場所でも、同じことが起きていた。
「……あ?」
エリオスは鼻血を流す。
夕奈は頬に付いた血を手で拭き取る。違う場所のクルルは、腹をさすりながら殴った男を見つめる。
夕奈とコジカは同時に呟くように相手に伝えた。
「その異常な防御力」
「その根源には魔素が関わっている」
「間違ってないわよね?」
「間違えてはいなよな?」
クルルとエリオスは頷く。
「そうだ」
「これは、ニッコウに伝わる力」
「オレは里のおっさんに」
「私は嘉村さんに」
「教えてもらったんだ」
「ご教授いただきました」
夕奈は腰に手を当て、もう片方の手で赤い閃光を放つ剣をもつ。
「その力は、師匠に教わった。私は不器用だったからできなかったけど、知識は得れた。その力は魔装と呼ばれるもの」
違う場所にいるクルルは、夕奈と同じ場所にいるかのように会話を引き継ぐ。
「大気中に浮かぶ魔素。あるいは体内で生成された魔素を体を覆うように纏う技術」
クルルと夕奈は同時に笑う。
「ま、その魔素ごとえぐればダメージは与えれるんだけどね」
「纏う魔素の強さは人それぞれ。私は少し繊細だったようで……、ほんの少しだけ硬いんです」
別々の場所にいるコジカとエリオスは同時に口角を上げた。
「そうかよ」
「そうかい」
そして同時に立ち上がる。
クルルはそんな彼を見て、残念に思った。
夕奈はそんな彼を見て、「さすが」と苦笑いに似たものを浮かべながら呟いた。
エリオスはため息をつきながら夕奈の持つ鈍器を見る。
(さっきの一撃。一発目の攻撃は防げた。なのに落ちるアイツが放ったあの斬撃。なぜかあれはオレの顔面を打ち抜いた。……魔装を貫通できるのは魔素だけ。つまりあれは、魔道具か……!)
「随分と良いおもちゃを持ってるじゃねえか」
「特注品なの。まさかこんな効果があったなんて、知らなかったけど」
私、万葉木夕奈は鍛丸さんの言葉を思い出していた。
(最高傑作。つまりあれは、こういう意味だった)
赤い光の線のようなものが、黒い剣に流れる。
私が放ったあの飛ぶ斬撃……いや、斬撃ではない。感覚的には殴っている感触に近い。
あれの発動条件は分からない。説明書を貰うべきだった。
そんなことを考えながら、私はエリオスを見る。
彼の顔が変わる。ようやく本気になったようだ。
(この世界のカラクリは分からない。でも経験から言って、おそらくエリオスに大きなダメージを与えると崩壊する)
そっちに集中を割けないくらいの、大技を。
「おいおい。なに笑ってやがる?」
「別に? 笑ってないけど」
そう、夕奈は口角を上げながら言った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
追記。
少し気になったのですが、僕の小説、フリガナ多いですか? 多ければへします! 反応がなかったらこのまま行きます!




