67話 下手があるので上手が知れる
今起きていること
・万葉木夕奈VSエリオス・バンダ
・ジーダ・オニュセントvsアイマスクをつけている少女&マスクをつけている少女&耳当てをつけている少女
・アーサー=アーツ・ホーガンvsその他大勢の魔族、魔獣&メモリープラット&カニマニ・アルル
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
・バルトス・シリカ&カナリアル・ボンダVS鍛丸匡一郎
・レテシー・アルノミカ&嘉村舞奈vsヴァルダニオ・ボンダ&ヒョウリー・クワンド
・クルルvsコジカ
後悔とは、文字通り後から悔やむことである。さすれば何をもって悔やむと定義するのか? 簡単である。
ただ、過去に戻れたらと考えてしまうような、避けたい結果のことを言うのだ。
しかし往々にして、生き物は皆矛盾を起こす。
それは未来を知れないから。だが腹を抱えて笑ってしまうほどに生き物は愚かなのかもしれない。
後悔しない未来を知っていても、死んでしまうと分かってしまうと足掻いてしまうのが、生きるという宿命の呪いなのだから。
だからこそ、バルトス・シリカは葛藤する。
(オレは……鍛丸さんと戦う)
そんな大きな的。それは大きな弱点となる。
だが彼は知らない。そんなバルトスに手を差し伸べる男が、二人いるということを。
「バルトス。集中しろ」
「バルトス君、オレは覚悟を決めた。だから、本気で来ないと死ぬぞ」
小枝が宙に舞う。
鍛丸匡一郎の手から離れた小枝はついに限界を迎え、バルトスの頭上で爆発した。
小規模だったが、カナリアルは何かをまとった槍で爆風からバルトスを守る。
「……っ!」
バルトスは舌打ちに似た音を鳴らす。
そして悔しそうに鍛丸を見た。
「オレは……」
その答えを聞くために、鍛丸とカナリアルは手を止める。
五秒は経っただろうか? ついに、彼の頭に答えが浮かぶ。
バルトスは深呼吸をして、口を開いた。
「鍛丸さん。オレはあなたを……信じてます」
バルトスの瞳に光が灯る。刹那、彼は跳び、鍛丸へ足を向けた。
男は、その意図を汲む。
(信じてる……か)
鍛丸は何度も、彼と話した。彼の本音を聴いた。
だからこそわかる。
(バルトス君はもう、人を殺さない)
バルトスの蹴りを鋼の効果を持った服で受け止める。
だが威力を殺せず、鍛丸は後ろへ飛んだ。
「……」
(バルトス君は、オレを信じたんだ。――死なないって)
「だったら、答えてやるよ」
オレ、鍛丸匡一郎は腰を落とす。
人数不利、攻撃の手段すらない。オレの力は、自分の体には使えない。絶体絶命、まともに戦ったら死んでしまうだろう。
(だがな)
オレは鋭い笑みを浮かべる。
(そんな逆境を己の力に変えるのが、オレの憧れたヒーローなんだよ!)
「……!」
自殺覚悟の突進。二人にはそう見えるだろう。
オレは武器も持たず、バルトス君めがけて走る。
「何を……?」
二人は困惑しているかのような顔をオレに向ける。
「それでこそ……」
だがバルトス君だけは、困惑した後に、何かに気づいたように笑った。
「オレのヒーローだよ!」
オレは靴底にあるスイッチを地面を擦って入れる。それを見たバルトス君は笑う。
「もう、逃げるなよ」
バルトス君は頷く。
風が舞った。超人的な跳躍力の正体は、風。一瞬輝いた靴と共に、鍛丸は天に舞った。
息が止まる。
その一瞬、オレは叫んだ。
「……師匠!」
遠くにいるオレの師匠は、オレに向けて袋を投擲した。
ドードン・カルナスは腕につけた魔道具を一瞥しながら呟く。
「死ぬなよ、匡一郎」
その袋は鍛丸匡一郎に前で破れ、中から奴が現れる。
鍛丸の腕に纏わりつくようにそれは装着される。
元祖にして本家。これが、ヒーローの躍進。
オレはそれを一瞥した後、バルトス君に一撃を加えた。
バルトス君は足でオレの拳を受け止めようとするが、虚しく無意味に終わった。
オレは着地し、吹き飛んだバルトス君にこう言い放つ。
「大丈夫、死にやしないさ」
腕力。それがオレのヒーロー像の根幹にある。
一に腕力、二に跳躍力。三に正義。
オレの腕についているのは、オレがこの世界に来て、師匠に遇って、初めて貰ったもの。
師匠からすれば修行途中で作った魔道具に過ぎないらしいが、オレにとっては違う。
これはオレにとってのパワーアップであり、基本装備でもある。
「鍛丸さん……流石です」
バルトス君は微笑んでそう言った。オレは「バルトス君もね」と返す。
それを見ていたカナリアルは言った。
「ん? なんだ? これは何やら熱い展開か? それとも吾らのピンチなのか!? よくわからんが、お前たちの覚悟は伝わった。吾も混ぜてくれよ」
キメ顔でそう言うカナリアル。それとは対照的に、空気は凍る。
これどこかで見たことあるぞ、とバルトスは思う。鍛丸も一瞬そう思ったが、どう返せばよいのかわからなかったため、同じように返した。
「お、おう。いいぜ!」
同時刻、城ではジーダ・オニュセントと三人の少女が話していた。
「ちゅぱちゅぱ。おいちい」
アイマスクを付けた少女はジーダの小指を口にくわえながらそう呟く。マスクをつけた少女は呆れたようにこう言った。
「きたない」
耳当てを付けた少女は黙っていた。
ジーダは静かに立ち上がる。そしてこう思った。
(不覚を取った。……いや、相手が一枚上手だった)
ジーダは少女たち見る。
まるで、日光東照宮の猿のように、彼女らはそれぞれ目を隠し、口を隠し、耳を隠している。
(彼女たちの魔法は、おそらく実態を持つ分身。心技体。それぞれがそれぞれの役割を持っている)
一瞬、ジーダの脳裏に勝てるのか? という言葉がよぎる。
だが、それはあり得ない。いくら私が老いたといっても、いくら彼女が研究を重ねたといっても、それは誰もが通る道なのだ。
「お嬢さん方」
「なーに?」
アイマスクを付けた少女はジーダの方を向く。
それを見たジーダは確信を得た。
(彼女が目を隠しているにも関わらず私の方を向けるのは、心の目で見ているから。耳がいいという可能性もありますが……)
推測に過ぎなかった心技体と言う考えは、しだいに現実味を帯びて行く。
ジーダはおおよその目星をつけた。
(目を隠している子は心。耳を隠している子は技。口を隠している子は体)
そんなことを考えながら、ジーダは地魔法で作った剣をもつ。
「リベンジと行きましょうか」
「んふふー、私たちを立ててくれるんだー。やっさしー」
「いえ、そういうわけではございません」
ジーダはそう言う。最初に動いたのは、耳当てを付けた少女だった。
その動きについていけたのはジーダのみ。
少女の刀を受け止め、ジーダは言った。
「お見事」
それを見た耳当てを付けた少女はこう思う。
(小指が切れて力が入らないはずなのに。……すごい)
双方、相手をたたえ合う。
そんな中、嫉妬する少女が一人。呆れる少女が一人。
「むー! おじさんは私の獲物なんだから!」
それを見ていたマスクをつけた少女は、腰に手を置いてこう言った。
「やれやれ」
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