64話 下手な鉄砲も数撃てば当たる
今起きてること
・ジーダ・オニュセントvsアイマスクをつけている少女
・アーサー=アーツ・ホーガンvsその他大勢の戦士
・ラリゴ先生vs名も無き魔族
・バルトス&カナリアルVS鍛丸匡一郎
・万葉木夕奈は戦地へ赴く
「なんなんだ、この状況は!?」
いかにも疲れていそうな男は、隈が目立つ顔を少女たちに向ける。
「クマ先生、起きたんですね。おはようございます」
紺色の髪の少女はそう言った。そんな少女の背中側からぴょこッと顔を出す白衣を着た少女。彼女は言った。
「先生が寝てはる間に、なにやら魔族が攻めて来たらしいんよ」
「なんだよそれ、起こしてくれよ」
「すみません。起こせと言われていなかったもので」
隈の目立つ男は、丸メガネをかけ、立ち上がった。
「二人とも」
「はい」
「はいな」
男は言った。この選択は、この戦いを大きく動かす。
「駒衣千菜。君は今何が起こってるかを調べてくれ」
「承知しました」
紺色の髪の女は突然服を脱ぎだした。
「んな!? 何してる?」
「戦闘服に着替えます」
「よそでやれ! よそで!」
不思議そうな顔をする駒衣。そっぽを向く隈男。そんな二人を見て呆れる女が一人。
「それで、うちは何をするん?」
隈男は言う。
「いつも通りだ。環凪杏、君は好きなようにサンプルを集めてこい」
「はいな。……で、クマ先生はどうするん?」
隈男は笑う。彼の名前は九頭龍晴翔。彼はにやりと、なにかを企んでいそうな笑みを浮かべる。
「オレは根幹を止めに行く」
二人の女生徒は頷いた。
「久しぶりの戦いだが、くれぐれも羽目は外すなよ」
「はーい」
「わかりました」
三人は動き出す。彼は、彼女らは、戦地へ赴く。
一方その頃、万葉木夕奈は思わぬ足止めをくらっていた。
「やっと見つけた。久しぶりだな、ユーナ」
「あら? どこで私の名前を?……えーと、エリオスさん」
「忘れてたのか?」
「いいえ、覚えてたわよ。それにしても、雰囲気変わった? 暗くなった気がする」
「それもそうだ」
エリオスは赤黒い球体を浮かべる。それに呼応して、夕奈も剣を構える。
「お前のせいで、お前から逃げてしまったせいで、オレの仲間が捕まったからな。後悔しない方がおかしい」
お互い、睨み合う。先に動いたのはエリオスだった。
「エルムンダリア」
セカイが再構築される。これは、虚偽の世界への案内。
しかし夕奈は知っている。この魔法のことを。魔族特有のルールに縛られないインチキ能力。
夕奈は微笑み、言った。
「悪いけど、今度は逃げれないわよ」
「逃げねえよ。オレはお前を倒すために、急遽育成されたんだからな」
「なにそれ?」
彼女は、彼は、口角を上げた。それはまるで、久しぶりに会った幼馴染に見せる笑みのように、懐かしいという気持ちと共に二人はお互いを見た。
時を同じくして、アリア・ホーガン、リリア・ホーガンの前に魔族が現れる。
「魔族? なんでここに?」
「アリアは気にしなくてもいいよ」
リリアはそっと微笑む。
「いーぎしぎしー!」
「その気持ちの悪い笑いかた辞めろだん!」
「いーぎしぎし! あなたの語尾も十分気持ち悪いです」
身体中に包帯を乱暴にまいた魔族の男と、ぽっちゃりしてて羽の小さい魔族。二人は王女たちを見つめる。
「クワンドさん、行きますよ」
「了解だん。合わせるだんよ」
「はい」
クワンドは空中に氷柱を浮かべる。その横にいる包帯を巻いた男、ヴァルダニオ・ボンダは槍を持つ。
「嘘……。お姉さま、逃げないと殺され……うぐ!」
「動かないで、まだ体が拒絶反応を示しているから」
リリアは微笑む。それとは対照的に、アリアは青ざめていた。
アリアは思う。
(やっぱり、お姉さまの考えていることがわかりません)
恐怖とは、無知からくるものである。アリア・ホーガンは息を呑んだ。
ヴァルダニオは槍を投げる。
刹那、アリアは何かに気づいたかのように体を動かした。
「……っ!」
しかしそれをよしとしないリリアはアリアを抑える。
死。その一文字がアリアの脳裏をよぎった。
恐怖のあまり、アリアは瞼を閉じる。
それに呼応するかのように、音が聞こえたのだ。鉄製の物が、床に落ちた音。
アリアは恐る恐る知覚した。何が起こったのか、どうなったのか。
その結末は意外なものだった。
金髪がなびく。
目の前にいるはメイド服の少女。
彼女は参る。愛する人に逢うために。それが、心身ともに疲労していたアリアの心を溶かす。
ヒーロー? 英雄? 勇者?
否である。
彼女はただのメイドであり、この世でたった一人のアリア・ホーガンを、幼少期から支え続けた女。
「誰だん!?」
「名乗る必要はありません」
彼女はいつも冷静だ。人によっては、冷酷だとも取れるだろう。だが、今は違う。
鈍感なアリアも、それを理解した。
「これ以上近づくというのなら、私がお相手しましょう」
彼女は、敵を見つめる。
アリアはやっと、意識を取り戻した。そんな彼女は呟く。
「オハナちゃん」
レテシー・アルノミカ。彼女は今まさに、騎士と成る。
「遅れてすみません。アリア様」
安心からか、アリアは微笑む。そんな二人を見て、ヴァルダニオは笑って言った。
「いーぎしぎし! いいですねえ。友情というやつは!」
この場でヴァルダニオの動きを追えていたのは三人。彼は、一般人には視認できないような速さで動く。
クワンドはそれを見つめる。心の底から、レテシーは後ろにいる王女たちを守るだろうと誤解していたのだ。
レテシーはヴァルダニオとすれ違うように走る。
魔族二人は目を丸くしたが、もう遅い。
防御が遅れた二人の魔族の体に、打撃が入る。
クワンドの腹に蹴りを叩きこむレテシー。そして、走るヴァルダニオの脳天に踵落としを入れた女がいた。
「レテシー、よくやりました。今回ばかりは、独断専行を許します」
華麗に着地する長身の女。彼女は、メイド長であり、レテシーに体術を仕込んだ女。
嘉村舞奈。彼女は王女たちの前に立つ。
「言いましたよね、これ以上近づくなら私たちがお相手すると」
嘉村とレテシー。二人は敵を見つめる。
同じく、クワンドとヴァルダニオも彼女らを見た。
四人は一斉に動き出す。
そんな戦いとは別に、血を流している男がいた。アリアがいる場所よりも二つ上の階で、ジーダ・オニュセントは膝を落とす。
「まずは、一本」
小指をしゃぶるアイマスクを付けた少女。ジーダの左手の小指は消えていた。
「……」
耳当てを付けている少女は静かに頷く。
そんな二人の横で、口元にマスクをつけた少女が「まだあと九本もあるの?」と嘆いていた。
彼女ら三人の容姿は酷似している。
ジーダはそんな彼女らを見つめ、笑っていた。
それはピンチによるものなのか……。もう本人にしかわからない。
突然増えたドッペルゲンガーのような女たち。彼女らは、ジーダを見つめる。
恥辱的な思いを込めて。
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