63話 犬も歩けば棒に当たる
ジーダ・オニュセントの前に現れるは、目元を隠すように、特徴的な、悪魔らしい、禍々しいアイマスクを付けた少女だった。
「みーつーけーたー」
「お嬢さん。その羽……、あなたはここへ避難しに来たのですか?」
「ううん。あなたを倒しに来たの」
空気が凍る。コンマ一秒、ジーダとアイマスクを付けた少女はお互いの手の届く位置まで移動していた。
「……!」
ファニー・トロイポンは辟易する。
ジーダは地魔法を使い、岩石で剣を作る。それでアイマスクを付けた少女の手を受け止めた。
ジーダはふと思う。
(なんだ……? 体がうまく動かない?)
「にゃーはっはー。あちしの毒効いたねえ―」
「毒……?」
ジーダは後ろへ跳ぶ。
「んふふー」
ニヤニヤと、少女の口元は笑う。ファニーは言った。
「ジーダさん、大丈夫ですか?」
「はい。おかげで彼女の得意魔法が知れました。……ファニーさんは後ろへ」
「はい……」
アイマスクを付けた少女は笑う。
「んー。それはダメー」
少女は驚きの身体能力でファニーの後ろに回る。そして拳を振った。
しかしそう上手くはいかない。
「……勘ー!?」
「はい。経験に元ずく勘です」
ジーダは岩のようなものを床から出し、ファニーへ向けられた拳を防いだ。
「ファニーさん」
ジーダは剣を振り、アイマスクを付けた少女を引きはがす。
「逃げてください」
ファニーは足手まといになることを嫌い、素直に頷いた。
「んふふー。おじさん、いいの? 仲間を逃がして」
「はい。心置きなく戦えますから」
「あははー、生意気。これでもあちしはおじさんを倒すために育てられ……!」
刹那、勝負は決まった。油断大敵。どうぞ卑怯だと罵るがいい。勝負とは、一瞬の油断で決まるのだ。
まして雑談など、するべきではない。
「にゃーはっはー」
それが、ジーダの見解だった。もしここに観客がいたら、全員が決まってこう言うだろう。
ジーダ・オニュセントの勝ちだ、と。
しかし、事実は時に小説よりも奇になる。
一瞬の油断。ジーダは一瞬だが、勝利を確信してしまった。
「……がは!」
血しぶきが舞う。
「んふふー」
「……」
もふもふなピンク色の耳当てを付けた少女が現れる。少女は、静かにジーダを見つめる。彼女の手には、日本刀のようなものが握られていた。
そんな彼女の容姿は、アイマスクをした少女と酷似する。
ジーダは悔やむ。
(……慢心してしまった。何をしているのだジーダ・オニュセント! 久しぶりの戦闘だからと言い訳をしている場合ではないぞ)
「……」
アイマスクをした少女は笑い、言った。
「にゃっははー! だから言ったじゃん、あちしはおじさんを倒すために育てられたの。慢心してふんぞり返っている人間を引きずり落とすためにね。もちろん、あなたのように強い人間を殺す準備はできてるんだよ」
「ごほん! 言い過ぎ……」
耳当てをした少女は呆れたように言う。
ジーダは剣を握る手に、今まで以上に力を入れた。
一方その頃、クルルはエリオスと対峙していた。
クルルは拳を握り、エリオスは赤い球体を操作する。
「肉体派だな。しかもそれ……」
「私語は禁止です!」
クルルは走りながら赤い球体を避ける。そして拳を振るが、当たらない。
相性が悪かった。相手は空を飛ぶが、クルルは地に足をつけることしかできない。
攻撃が届かない現状。クルルも内心、どうしようかと悩んでいた。
そんな時だった。彼は何かに気づいたかのように別の場所へ向かう。
クルルはそれを追おうとするが、諦めた。
「……こんなんでも、守れたのかな」
クルルは急いで仲間のもとへ向かう。
そんな戦いの裏側で、非常事態をうまく使った男がいた。
「今だ、逃げるぞ」
魔族の男は少年にそう声をかけた。少年は立ち上がる。彼は、放火の容疑でここにいた。
「ねえ、オレ達は何のために戦うの?」
少年は問う。己の内に秘めたヒーローを思いながら。
そんな少年の背中から、羽が生える。
魔族の男は言った。
「生き残るためだ。吾らの子孫が生きられるかは、この戦いで決まる」
「そうか」
魔族の男は、牢屋の中で目を伏せる少年を見て言った。
「なにか、言いたいことでもあるのか?」
「いいや。ただ、遊び半分で罪を犯したくないだけだ」
少年は男に感謝し、外へ出る。
もう後悔はしない。そう、誓っていた。
「……なのに、なんで!」
だが、運命は時に我々に牙をむく。
「行くのか?」
人間の男は言った。
「行くのなら、オレはお前を止める」
「……行きたいよ。でも、許してくれやしないんだろう? ヒーロー」
毎日のように、自分のためにここまで足を運んでくれた男。自分のために、本気で叱ってくれた男。そんな恩人に、少年は視線を向ける。
魔族の男は困ったように、言った。
「もしかして、知り合いなのか?」
人間の男は言う。
「ああ、ちょっとね」
「そうか」
魔族の男はそっと目を伏せた。
人間の男は言う。
「こんな状況なんだ。逃げたくなるのは分かる。もしそれだけなら俺はお前を見逃すよ。でも、もしこの戦争に参加するっていうのなら……容赦はしないぞ、バルトス君」
「オレは……、オレは……家族のために進みます――鍛丸さん!」
鍛丸匡一郎。彼は、覚悟を決めた。
魔族の男は言う。
「ん? なんだ? これは自己紹介をする流れか? おうおう、なら言ってやるぜ。吾の名前はカナリアル・ボンダ。アーサーを追い出すミッションを失敗した男だぜ」
きらりとキメ顔を取るボンダ。それとは対照的に、空気は凍った。
「……」
「……」
鍛丸は言う。
「お、おう。よろしくな!」




