60話 開け来る日々。
「……はあー」
修行を終えた私は、一人で図書館まで足を運んでいた。
しかしまあ、ご想像の通り、力魔法に関する本はほとんどない状態。
あったとしてもその貴重性や危険性を訴えているものばかり。指導書のようなものはなかった。
「でもまあ」
収穫がなかったわけではない。
私はバイト先へ向かいながら、空き時間にさらっと読んだ本の内容を振り返る。
(魔法はそもそも、同じ属性でも個人差が出るらしい。水の温かさや、火の見えかた、風の音や、地の強度も人それぞれ。だから私には、私だけの力魔法がある)
その確信は得れた。
元来魔法とは後天的に得るものではない。完全な才能性なのだ。
そしてもう一つ。魔法は魔素を介する。
わたしはどんな命令を、魔素に与えるのだろうか?
「……」
つまり何が言いたいのかと言うと……。
(ふりだしに戻った)
ということだ。
私は魔族寄りの魔法を使う。人間が使う魔法とは違い、魔族の使う魔法は自由だ。
他人を介さないから、思い思いの魔法を使える。
「……魔法も、これと同じように寄り添わなきゃな」
私は緑の宝石を見た。
それからしばらく歩き、バイト先に着く。白黒の制服に着替え、働いた。
「フィンナ。今日から私も、復活だよ」
私はトレイを持つ。どうやら私の代わりが休んだらしく、その代わりが私に回って来た。
フィンナは微笑む。
「やったぜ」
いつも通りの仕事を続け、終える。
そして修行が始まる。
私はそれに育む。
師匠は変わらない笑みを浮かべていた。
そんな風に過ぎる一日。
ふと、シャワーを浴びる前に鏡を見た。
「すごい筋肉ついてる」
流石に男ほどはないが、女子の中ではある方にまでは育っていた。
(複雑な気分だなあ)
そう思いながら、体を洗う。
それからはいつも通りの夜を過ごし、寝た。
『異世界日記 三十五日目』
何もない、満足な一日だった。
早く力魔法を使えるようになりたいな。
朝日が昇る。私は目を覚ました。
「始まる」
「……えー。また夢?」
「うん。気を付けてね」
私は頷く。それと同時に、目に光が入る。
しばらく経つと修行が始まった。そして私は剣を振る。
それが終わるとバイトが始まり、難なくこなした。
時刻は十九時。私は剣をもつ。
「師匠、今日も基礎ですか?」
「いえ、今日は実践です」
私は首を傾げる。
「もうですか?」
「はい」
私は困惑しつつも、剣を構える。
久しく、師匠と戦ってなかった。
私と師匠は間合いを取る。
そんなイベントを感じ取ったのか、突然ファニーちゃんとアーサーさんがこの部屋に入って来た。
「……?」
「私が呼びました」
師匠はそう言う。
私は察して、頷いた。
アーサー=アーツ・ホーガンはファニー・トロイポンに言う。
「お前も呼ばれたのか?」
「いえ、ゆなっちの活躍が見たくて勝手に来ました」
「はーっはっはー! そうか、そうか……」
刹那、轟音が響いた。アーサーは笑みを消す。その瞳は、二人を見つめていた。
ファニーも同様に、体を震わせながら二人を見つめる。
しかし当の本人たちは、相手のことなど見ていなかった。
夕奈は軌道を、ジーダは未来を見つめる。その先にあるのは互いに、勝利であった。
「ん!」
私は師匠の剣を捌きながら間合いを詰める。
これが私の剣技。師匠の技。
防御を捨てた攻撃の刃。攻撃は最大の防御を地で行く戦闘スタイル。
「ふぉっふぉっふぉー。強くなりましたな」
「戯言ですか……?」
私は一歩引く師匠を追うように剣を振り続ける。
(届いていたんだ。私の手は、そこへ)
その力を奪われないように、私は剣を振る。
師匠は私に言った。
「ユーナさん、『ギフト』の使用を許可します」
私は腰を落とす。
視線を極限まで下げ、剣をもちながら両こぶしを床に着ける。
「……!?」
ぶっつけ本番。私は足に力を籠め、師匠に近づく。
そして体を回転させ、脛に剣を当てた。
ジーダは思う。
(その奇抜な戦い方。それが、ユーナさんが編み出した戦い方ですか。長所である柔らかい体と反射神経を使った動き。……素晴らしいです)
「ならばこちらも、本気でお相手しよう」
夕奈の瞳は一瞬怯える。
ジーダは地魔法を使い、岩を飛ばす。
それを避ける夕奈だったが、飛火を同じ地魔法で相殺するアーサーとは違い、一度それを受けてしまった。
一瞬の隙だった。
ジーダは夕奈の懐に入る。
そして剣を振った。
「……」
私は息を呑む。気づかぬ間に、線を見ていた。
まるで、こうなると教えられているかのように、その線は動く。
(これ、知ってる)
私は剣の柄を回転させ、師匠の剣を受け止めた。
「お見事。しかし、私の勝ちです」
「……へ!?」
驚きながら剣を見た。私が受け止めたそれは、岩だった。
木製の剣は、私の反対側の脇腹に当たっている。
「……負けた?」
「はい」
悔しさが身体中に広がる。わたしは腰を落とした。
そして天井を見つめながらこう呟いた。
「負けたー」
「ふぉっふぉっふぉ。お強くなられましたな、ユーナさん」
私が「ありがとうございます」と言おうとしたのと同時に、高笑いが聞こえた。
「あーっはっはー!」
「ゆなっち」
二人はこちらに駆け寄る。
アーサーさんが先に口を開いた。
「ほうほうほう。強いな、お前は」
なぜか、とてもうれしかった。
「ゆなっちカッコいい!」
ファニーちゃんはぎゅっと私を抱きしめた。
アーサーさんは口を開く。
「しかし……変わったな、じいさん」
「ほう?」
「あーっはっはー。前までの迫力がないように見えたのでな」
「ふぉっふぉっふぉー。もうそんな元気はないのですよ」
「なるほどな」
そんな二人の会話を聞きながら、私はファニーちゃんを見た。
「ファニーちゃん」
「なに?」
私は彼女の瞳を見た。
「少しは、追いつけたかな?」
ファニーちゃんは首を傾げる。
「どうだろ? わかんない」
私は小声で笑う。
ファニーちゃんの中の私はどんな私なのだろうか? 多角的な視点から見た私。
それはもう、たくさんいる。
(少し、私の言っていたことが分かった気がする)
私はそんなことを考えながら師匠を見る。
それと同時に、アーサーさんは笑った。
「あーっはっはー。ユーナ、今日の修行はオレが相手してやる」
「え!? マジですか?」
「ああ!」
師匠はファニーちゃんに、「では、私はファニー様の相手を」と言った。
私とファニーちゃんは離れ、各々武器を持つ。ファニーちゃんは目を輝かせていたが、私は戦慄していた。
(これ私、死なないよね?)
そんなことを考えながら、アーサーさんの前に立つ。
「ところで、なぜこんな提案を?」
「お前は強い。だが未熟だ。だから、オレが引き出してやる」
「……」
刹那、ほんの少しの殺気を感じた。私は苦笑いを浮かべながら一歩下がる。
「悪いが、俺は教えるのは苦手だ。実戦形式で行くぞ」
「お願いですから、殺さないでくださいね……」
「ああ。約束する」
アーサーさんは師匠から受け取った木製の剣を振った。
「混合魔法。テンペスト」
悪寒が私を支配する。
『死』その一文字が、私を飲み込んだ。
ジーダは驚いたように地魔法を使う。万葉木夕奈を守るために。
だがその必要はなかった。
風魔法と水魔法の合わせ技。水を冷やし氷を作り、それをぶつかり合わせることで帯電させる。それを強い風と雨に乗せた魔法。
この部屋を壊す勢いでそれは暴れる。その証拠に、部屋の壁にひびが入る。
だが、彼女は無事だった。
魔法が意識を持つように、彼女を避ける。
アーサー=アーツ・ホーガンは笑う。ジーダ・オニュセントは呆れ、ファニー・トロイポンは青ざめていた。
「あーっはっはー! やはり、こと力魔法においては、お前は俺よりも強いらしい」
私、万葉木夕奈は気づいたように怒った。
「殺さないって約束したじゃないですかー! なのになんですか今の!?」
「あーはっは。すまない、すまない」
ふくれっ面で怒る夕奈。そんな彼女とこの部屋に入ったひびを交互に見ながら、ジーダはこう思った。
(魔法でコーティングされた部屋にひびを入れるとは……やはり才能はおぞましい)
そんなことを考える彼の瞳は、二人の人物を見つめていた。
一人は国王。もう一人は、スライムの王である。
そしていつも通りの夜が来る。私、万葉木夕奈は疲れ果てた体をベッドの預け、寝た。
『異世界日記 三十六日目』
アーサーさんは鬼。死んだかと思った。
しかし収穫もあった。私の力魔法に名前を付けれたのである。アーサーさんの助力のもと、私はそれに、命を与えた。
書いてて恥ずかしくなるな。まあいいや。今日も頑張った私! すごいね。
そして明日は念願の剣の受取日。どんなものができているのか、楽しみだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




