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59話 将を射んと欲すればまず馬を射よ

 バイト途中、私は皿を洗いながらこう呟いた。


「力魔法……か」


 悲しいことに、お客様に出す料理を(あやま)って捨ててしまい、みなに新しいものを作らせた一件のせいで私は皿洗いに降格(こうかく)してしまったのだ。おかげで一番仲の良かったバイト仲間であるフィンナともあまり話せていない。


(それにしても、力魔法か……。考えてもわからない)


 私は魔法のことを考えながら、ずっと「力魔法」と呟いていた。すると突然現れたリーダーにこう言われた。


「何が力魔法よ。ほら、ウチを見なさい。」


 リーダーは重そうな袋を二つ持って「力魔法」と言った。


「……ははは」


「苦笑いね。まあいいわ。それよりも手を止めさせて悪かったわね」


「いえ」


 リーダーは笑って言った。


「あんたねえ、何に悩んでんのよ。あなたくらいの年の子は、当たって砕けろでしょう? うじうじ考えてないで、バカなことしなさいよ。いつもみたいに」


「リーダー」


 私は微笑(ほほえ)んだ。それを見たリーダーは満足(まんぞく)そうにこの場を()る。


「頑張りなさいよ」


「はい」


 初めて、リーダーのことを大人だと感じた。そんなリーダーは鋭い目つきでこう続ける。


「仕事もね」


「はい……」


 肩を落とす。でも、私の顔は笑っていた。


「ははは。うおー、力魔法―! なんつって」


 そう呟きながら皿をスポンジで(こす)る。はたから見ればおかしな光景(こうけい)だろう。でも、これでいいのだ。


 私は心の底からそう思う。


 それからしばらく()った後、私は制服から魔女のような服に着替える。宝石は盗まれたくなかったので隠した。そして帰路(きろ)()く。


「んー。バイト疲れたー」


 気分転換に、寄り道をしてみる。普段は通らない道だ。


「……!」


 そこで驚きの人物に()った。私は意識よりも先に声を出していた。


「アリア!」


 活気(かっき)あふれるいつもとは違い、(めずら)しく人気(ひとけ)のない道のうえで、驚いたような顔を浮かべるアリア。


 私はそんな彼女の手を取り、言った。


「久しぶり! 今までどこにいたの?」


「え、ああ。はい、ちょっと用事で……。それよりも、ユーナさんは何用(なによう)でここへ?」


「あはは、寄り道。てか、前に会った時もだけど、なんで私のことユーナって呼ぶの?」


 アリアは今まで、私のことを夕奈(ゆうな)と呼んでいた。でも今は、ユーナと、ウを発音していない。


 何か気でも変わったのだろうか? と思う私とは裏腹に、アリアはこんなことを言ったのだ。


「え……? なんでって、ユーナさんはユーナって名前だから、そう呼んでいるのですよ」


「……はえ?」


「そんな事よりも、すみませんが今はお話ししている余裕(よゆう)はないのです。ユーナさんは先に帰っていてください」


「え……うん」


 ほんの少しの不信感を()いたが、しかしどこか不気味(ぶきみ)だとも思い、これ以上言及(げんきゅう)できなかった。


 素直に帰ることにする。私は再び帰路に()いた。


「……アリア、なんか変わったなー」


 二週間くらい会ってなかった気がする。だからだろうか? にしても、説明なしで帰れは少しひどい気がする。


 ふと、こんなことを思い私は肩を落とした。


(……もしかして、仕事の邪魔してたのかな?)


 そしたらごめんだ。


 私は手を合わせる。


 そんな風に帰っていると、突然音が聞こえた。


「……?」


 耳を()ませる。いい曲だった。


(フルートかな?)


 私は音楽に詳しいわけではない。だから聞いただけではわからない。なので、そちらに向かって歩いた。()せられるように。


 私は目を見開く。なにせ、音の中心にいたのは私がよく知る人物だったのだから。


「フィンナ」


「……ユーナ」


 民家から離れた人気(ひとけ)のない草原の上に、彼女はいた。時間はもう六時すぎ。少しずつ落ちていく太陽で隠れた彼女の顔は、私の視線を(さえぎ)るように威嚇(いかく)した。しかしすぐに目を丸くする。


「……って! ユーナ!?」


 恥ずかしそうにフルートを隠すフィンナ。


 私は微笑(ほほえ)んで言った。


「上手だね」


 フィンナは赤面する。


「そんなことないよ」


 働く彼女からは感じられないような、恥ずかしい雰囲気を感じた。


 私はそんな彼女の横へ向かう。


「上手いんだね。フルート吹くの」


「そんなことないよ。私よりうまい人はいっぱいいるから」


「でも、私の中ではフィンナが一番だよ」


 フィンナは笑った。まるで、私を受け入れたかのように。


「ありがと」


 私はそんなフィンナを見て、こう()いた。


「ところで、なんでこんなところで練習しているの?」


「……思い出の場所なんだ、ここ」


「そっか」


 私とフィンナは、草原の中を舗装(ほそう)するかのようにある綺麗に切られたシームレスな岩の上に座る。


 会話の内容が思いつかないので、私はふと思いついたことを()いてみた。


「コツとかあるの? フルート」


 フィンナは困ったように言った。


「うーん。決まりかな?」


「決まり?」


「うん。こうなればこう。これをすればこうなるって、あらかじめ決めておくの」


「なるほどね」


 私は頷いた。刹那(せつな)、もう一人の私の言葉が頭をよぎる。


偉力(いりょく)(まなこ)


 あれも一種の決まりなのかもしれない。いいかげんな『力魔法』ではなく、はっきりとしたビジョンを持つ『力魔法』。


 私に足りてなかったのはそれなのかもしれない。


「フィンナ」


「なに?」


「ありがとう」


 驚いたように、フィンナは私にこう返した。


「よくわかんないけど、お役に立てて何より」


 私はお礼を言った後に、こう続けた。


「ちなみにさ、フィンナの演奏聞くのって有料だったりする?」


「ははっ。そんなわけ」


「ふーん。じゃあ聞かせてもらおうかな!」


「恥ずかしいけど、私のプロ魂がうずうずしてるよ」


 フィンナはフルートを構える。


 私は胡坐(あぐら)をかき、頬杖(ほほづえ)をつく。そして温かい気持ちで、フィンナの演奏を()いた。


 それからしばらく()ち、いつも通りの修行が始まる。


 基礎(きそ)をやった後、私は力魔法の特訓をした。


(イメージする。はっきりと、強く)


「……力魔法」


 ……されど何も起こらず。


「……これでもダメか」


 私は力で目の前の木製の剣を浮かすことを思い(えが)いた。しかし何も起こらない。


(……イメージが足りないのか? そもそも、力魔法とは何なのか……?)


 私は知らぬ間に口角(こうかく)を上げていた。


(なぜ今まで気づかなかったのだろう)


 希少な力と言えど類を見ないわけではない。過去には一人くらいいたはずだ。文章を書ける、力魔法の使い手が。


「師匠」


「はい、なんでしょうか?」


「……図書館って、この辺にありますか?」


 師匠は微笑んだ。


「はいありますよ。しかし、なんのようで?」


「力魔法に関する書物を探そうと思いまして」


 師匠はどこか気まずそうな表情を浮かべた。


「……なるほど。頑張ってください」


「はい……。教えていただきありがとうございます」


 なんか嫌な予感がするぞ。


(で、でも、探せばあるよね。きっと)


 私は力魔法の修行を続けた。(ほの)かに頭を(よぎ)る、もしかしたらないのかも、という言葉と共に。


「うおー! 力魔法!」


 それにしても……いいかげん、私だけの呪文を考えるべきかもしれない。いつまでも力魔法だと恰好(かっこう)つかないしね。


 私はそんなことを思いながら時を過ごす。


 いつも通りの夜を過ごした後に、寝た。


『異世界日記 三十四日目』


 ファニーちゃんに先を越されたけど、何とか巻き返せそう。頑張れ私。頑張れ夕奈! そしてありがとう、フィンナ。


 アリアにも会えたし、今日は良い日だった。


 そして剣の完成まであとあと二日。非常に楽しみだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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