5話 遠くの親類より近くの他人
「なんで?」
言葉にならない嘔吐を催す。
(失敗した? じゃあ本当にこの人たちは、私の味方ってこと?)
ヤバい。四の五の考えてる場合じゃない。このままじゃ、クルルは死んじゃう。何者かに襲われたのだろうが、私一人では絶対に勝てない。
もう、一か八か、この人たちを信じてやる。
「あの」
「ん?」
私は、説明した。
それからほんの少し時間が経った頃、私たちは焼けた森の中を走っていた。
「嗚呼くそ! それマジかよ!」
「はい!」
足が遅い私とぽっちゃりなメイルさんに合わせてか、遅く走ってくれる二人。私は申し訳なさを感じつつも、続けて説明する。
「友達の傷ついた体を、私の力で見ました」
「……ちっ。それが虚言だったらいいのにな」
シュラは思う。
(だがあいにく、こいつに不思議な力があるのは証明されている。マニュウでもわからない魔法以外の何か。まったく、才能ってやつは恐ろしいな)
「……!」
私は空から森を見る。
「皆さん、もうすぐです!」
「おう!」
「ブループラネット」
マニュウさんが水の魔法で道を開けてくれた。
その隙に全員渡る。その刹那、私の目に映ったのは、たった一人で戦うクルルだった。
そしてもう一人、空に浮かんでいる赤い服に身を包んだ女。その女の手は赤く光っており、炎が噴射されていた。
直感で理解した。クルルはみんなを逃がすために戦っている。
私は空から森を見る。スライムの群れが動いているのが見えた。それも、先ほどまで私たちがいたところに向かって。
(入れ違いか。……でも、さっきはそんなの見えなかったはず)
どういうこと?……いや、今はそんなことどうでもいい。
私はクルルの後ろにいるスライムの死体を見た。
女は叫ぶ。
「この、鬱陶しいのよ!」
「――鬱陶しいのは、お前だろ!」
自分でも驚くほどの低い声が出た。
私の声に呼応して姿を消すシュラと仲間たち。さすがプロだと思う一方、同時にやらかした、とも思う。
不意打ちを仕掛けるべきだったかもしれない。だけど。
「それでも」
(我慢できなかったんだ)
「……クルルから目を放せ」
私は、空から三人の動きを見た。シュラとマニュウさんは、各々の準備を進めていた。
「……?」
私は首をかしげる女に言い放つ。
「ここからは、私が相手だ」
女はにやりと笑う。
「へえ」
ガラパゴス携帯、いわゆるガラケーが、ちらりと見えた。
(……あれって)
なんであの女が、日本の物を?
(いや、今は戦闘に集中だ!)
私は炎を消すために、マニュウさんになる。
「ブループラネット」
ぷしゅー、っと気体が出た気がした。
(……なんで!? 水が出ない!……能力まではコピーできないの!?)
ヤバイ、これは完全に、作戦が崩壊した。
炎が、目の前にまで迫った。
「ブループラネット!」
マニュウさんの声とともに、シュラさんは私を抱いて助けてくれた。
「ありがとうございます」
「礼は後だ」
シュラさんはにやりと笑った。
「くらえ、水と熱魔法の応用。水蒸気爆発だ」
ポチっと、シュラさんは筒状のボタンを押した。
その刹那、すさまじい音と共に、木も地面も吹き飛んだ。
「……わたし、生きてるの?」
「ああ、盾を展開する魔道具のおかげでな」
「……魔道具」
わたしは変身を解いた。
シュラさんは照れたように言った。
「オレみたいな魔法の才能がねえ奴は、こんなもんを使わなねえと生きていけねえんだ。お前も――」
シュラさんは顔をしかめる。
「まじかよ。十個も使ったんだぞ……」
まさか、と思い、私も立ち上がって見る。
「これって水のアーティファクト? にしてもこの威力って、百均かよ」
絶望するシュラさんを見た私はこの状況の悪さを感じ、いち早くクルルのもとへ向かった。
幸い水蒸気で視界が悪くなっている今では、クルルが動いてなかったのも相まって楽に行けた。
(クルル!)
わたしはクルルに触れた。
「対象名『スライム』をリロード」
わたしはスライムになろうと念じた。だがその時、声が聞こえた。
「そこに、誰かいるのですか?」
ぽっちゃりなメイルさんの声だ。
「メイルさん、夕奈がいます」
「ユーナちゃんか……。いやこの際だ。ユーナちゃん」
なんなの? と思いながら返事をする。
「はい」
すると思いもよらぬ答えが返ってきた。
「このスライム達は生きている。僕が応急処置をする間、何とかあの女の気をそらしてくれ」
(言われるまでもない)
「わかりました、そっちはよろしくお願いします」
私はスライムを念じた。
「クルル」
「夕奈……何があったの?」
「説明は後、今は早く逃げて」
クルルはかぶりを振る。
「私も戦う、女王だもの」
「でも、そんな体じゃ」
私は、ある種の威圧感を感じた。
「――大丈夫、スライムは火に強いから」
(……なに、この覇気?)
……いや、そんなことどうでもいい。それよりも、それならなんでクルルはこんなにも傷を負っているのか、ということの方が大切だ。
(まさか、あの女も私と同じ……)
いや、どちらにしてもだ。
この勝負、スライムが勝利のカギになる。
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