57話 言いたいことは明日言え
鬱陶しいくらい、私のスマホのアラームが鳴る。
「ふんぐ!」
私は怒り顔で起き上がった。
スマホが使えるのは嬉しい。太陽のようなものの光で充電できるスマートフォンの充電器を持ってきたことは私の偉業の一つだろう。
しかし今だけは、殺意を覚えた。
「……でも、こんなことに怒れるのも、なんだかいいものだな」
自分でも知らぬ間に、笑みがこぼれる。思えば、王都に来てから二転三転する毎日だった。
体が慣れたから、何も感じてないのだと思ってたけど、実際は壊れてたから何も感じなかったのかもしれない。
私はスマホのメモを見た。
(十九日……三週間くらい王都にいる)
「長いなあ」
(クルルと別れてもう十日。久しぶりに会いたい)
そう、しんみりと思う。
私は胸のあたりにある宝石に目をやりながら、ベッドから降りる。
そして洗顔をし、顔のマッサージし、その他もろもろの朝の準備をしたうえで、魔女のような恰好に着替えた。
そして修行を始める。
私は妙に上機嫌な師匠に訊いた。
「ご機嫌ですね。何かあったんですか?」
「はい。実は先日、鍛丸匡一郎という人物に会いましてね」
「げっ……!」
「どうかしましたかな?」
「いえ。話を続けてください」
私は師匠の話を聞こうと頑張るが、どうしても疑問が勝ってしまい話が頭に入ってこなかった。
(え……? なんで師匠が鍛丸さんのこと知ってるの? どこで出会ったの!?)
「その人物がまさかの今有名なドードン・カルナスさんのお弟子さんだということで、予約制のあの店に、特別に、剣を予約なしで作っていただくことになましてねえ。わたくしは今、上機嫌だというわけです。……ユーナさん? 聞いていますか?」
「ふえ? あ、ああ。聞いていますよ」
「ふぉっふぉっふぉ。ありがとうございます。では、修行を始めましょうか」
私は木刀を取り、言った。
「また基本ですか?」
「はい。まずは基礎です。……それよりも、今日はしないのですかな?」
「何をですか?」
「私に一撃でも加えられたら修行は無しというあれです」
私は微笑みながら肩をすくめた。
「基本ができていない私が、師匠に勝つのは不可能です」
「ふぉっふぉっふぉ。そうですか。なら始めましょうか、私に勝つために、修行を」
「はい。誠心誠意、頑張らせていただきます」
気づくと、私は汗だくで倒れていた。
「ユーナさん、よく頑張りましたね。今日の朝の修行は終了です」
「はい」
師匠は微笑み、私と自分の木刀を片付け始めた。私は立ち上がり、修行で使った道具を片付け始める。
(なんで今、笑ったんだろう)
「ははっ」
(なんかおじいちゃんの目に似てた気がする)
私は手を動かしながら、ふと思ったので訊いてみる。
「師匠、最近ダリン君元気ですか?」
「はい。ダリンは妻と一緒に毎日楽しく遊んでいますよ」
「はははっ。安易に想像できました」
「ふぉっふぉっふぉー。これもユーナさんのおかげです」
「そんなことないですよ」
私の頬に、自分でも制御できない赤みが出た。
それと同時に脳裏をよぎる疑問。でもそれを訊くのはダメな気がした。
私は、こう思ったのだ。
(ダリン君の母親って、今何してるんだろう?)
「師匠、こっち終わりました」
「こちらも終わりました。片づけまで手伝っていただき、いつもありがとうございます」
「いえ! お礼を言うのはこっちですよ。師匠、いつもありがとうございます」
私はお辞儀をした。
笑いが飛ぶ。私たちは、笑った。
それからはシャワーを浴び、ご飯を食べ、バイト先に行き、制服に着替える、という呆れるほど退屈ないつも通りの時間を過ごした。
「おはよ、ユーナ」
「おはよう」
私は一番仲の良い仲間に言った。
「昨日は来れなくてごめん」
「いいよいいよ。それよりも昨日の人凄かったね」
「昨日の人……?」
突然、後ろから声がかかる。
「なんだ、今日はユーナか。ジーダさんがよかったよ」
瞬時に昨日の人、イコール師匠だと結び付けた私は、リーダーにこう言った。
「リーダー、それはあまりにもひどいと思います」
「ははは! ごめん、ごめん。さっ! 今日は頑張るよ、みんな!」
リーダーは手で音を鳴らす。私は懐かしさと共に、微笑みながら呟いた。
「はい、頑張りますよ」
私はトレイを持ち、料理を運ぶ。もう一人前の看板娘だ。
「ん-。ユーナちゃんもいいけど、フィンナちゃんもいいよなあ」
私の一番仲の良いバイト仲間の胸を凝視する客。
(結局そこかい!)
「どうぞ!」
私はキレ気味に料理を置いた。
「いや、もちろんユーナちゃんのことも好きだよ」
「すみませんが、ここはそういう店じゃないので」
「そういうとこも好きだぜ」
キメ顔で親指立てる中年オヤジ。私は呆れながらも、「いつもありがとうございます」と言って厨房に戻る。
「ユーナ―、あそこの客にセクハラされたー」
「はははっ」
「笑い事じゃないってば」
ふくれっ面でそう言うフィンナ。私は腕をまくりながらにやりと笑う。
「よし! いっちょぶちのめしてくるか!」
「ユーナちゃん、それはダメだよ!」
そう言って私の肩を触る彼女。
「うそだよ。冗談」
「はー。驚かせないでよ……」
私は笑う。刹那、トレイが私の頭に当たった。
「ユーナ」
「リ、リーダ……」
「仕事、しなさい」
「すみませんでした」
謝る私を見てニヤニヤと笑うフィンナ。
後で覚えてろよ、と思う私。
トレイをリーダーから渡された後に、「もうセクハラから助けてあげない」と言ってフィンナに仕返ししてやった。
そんな風に過ぎるバイトの時間。それが終わり、修行の時間が始まる。
師匠に基礎を叩きこまれた後は、日課の力魔法の研究をする。
「うおー! 力魔法―!」
拳を前に振るが何も起きず。師匠は何か作業をしていたので、話しかけずに拳を振る。
ふと疑問に思う。
(ほんとに、私には力魔法の才能があるのだろうか?)
ない気がする。
否である。
それを認めたら、悔しいじゃないか。私の努力が否定された気がして。
だから頑張るんだ。もし才能がなくても、人に誇れるように。
「うおー! 力魔法―!」
されど何も起きず。私は諦めに似た笑みを浮かべつつも、発し続けた。
「うおー、力魔法!」
それからはいつもの夜を過ごした。
一つ、今日はいつもと違う点がある。それは、緑の宝石を持ち続けていたということだ。
私はそれを見つめ、呟いた。
「……多角的な視点かー。ふふっ。これも、ただの宝石として見たら、とっても誇れるものなんだろうな」
ベッドに横たわりながら、宝石を再度見た。
「ほんとに、なんで私なんだろ?」
疑問に思うが、眠かったので寝た。
『異世界日記 二十六日目』
今日は平凡な一日を過ごせた。お疲れ様、わたし。




