54話 蛇の道は蛇
「師匠、今日は修行しないんですか?」
「はい。その顔で修行はさせられません」
私は顔に手を当てる。
「バレましたか……」
「はい。今日はゆっくり休んでください」
「わかりました。でも、バイトが……」
「問題ありません。それは私が代行します」
「……」
私はしばらく考えた後、こう答えた。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
甘美な時間が始まる。私は踊りながら部屋に戻る。
そしてベッドに入った。
しかし寝れない。
「当たり前か……」
(だって一日も寝たんだもんね)
私は椅子に座ってアリアに借りた本を開く。
そして読んだ。
どうやらこの国のことについて書かれた本らしい。
(序文。この国の名はマルゴニカ王国。輸出で栄えた。……ふーん)
「すごいじゃん」
私は目線を下にずらす。
(この国は主に農業によって支えられており、こと農作物に関しては世界の四割を占めている。他にも、家畜を育てり……ああ、目が痛い)
活字を読むのは得意ではないが、苦手と言うわけでもない。それなのに、一ページすら読めずにリタイアとは……。
自分でも呆れる。
私は本を閉じ、片づけた。
「今日はゆっくりしよう」
そう言いながらも、机の引き出しから緑の宝石を取り出し机に置く。
「……でもまあ、これの正体を探る方が大切よね」
私は宝石のプロフェッショナルではない。だから見てもわからない。
「だったら、比較に限る」
私は宝石の中に何か入っているかも、と思い宝石に光を通す。緑の日光が私の目に入った。
おそらく何もない。そもそも本物の宝石すら見たことのない私に比較など無理だったのだ。
一瞬ハンマーでたたいてみようか、と思うがアリアの顔がそれを止める。
「……ホントになんなんだろう」
触ってみても、疲れたりはしなかった。波があるのだろうか?
何故、朝は触っただけでああなったのか。
「ふっ。まさかね」
ふと、脳裏によぎらす言葉。
(生き物。おなかがすいたと言わんばかりに私の何かを奪う宝石か……。もしそうならファンタジーね)
私は窓際へ移動する。
「ああ、そっか」
街を見た。そこはもう、日本ではない。
「ここは異世界なんだ」
スライムに魔族、なんというファンタジー。バーチャルリアリティもびっくりなリアルだ。
(……パパとママ、元気かな)
「……っ」
センチメンタルになるな。今はまず、大樹を探すんだろうが。
「すー、はー」
深呼吸をする。私は鏡に映る自分を見た。別人だった。
「……変な顔」
疲れたサラリーマンみたい。
「……はー」
(寝よう)
もとより寝れないが、私はベッドに入る。
(この姿を、過去の私が見たらどう思うだろう?)
小学生の時は拒絶するかもなあ。中学生の頃は、もしかしたら興味を示したのかもしれない。
「ははっ」
不思議と、笑いがこみあげてくる。
「ははっ。あははー。はあ……」
笑っていると、悲しくなった。
私は毛布にうずくまる。
「……寝よ」
しかし寝れない。私はベッドから出た。
「お姉ちゃん」
その刹那、声が聞こえた。
「お姉ちゃんに似てる、あなた。声とか、仕草とか」
「……え?」
振り返ると、全身を黒く染めた男がいた。
「誰?」
「それはこっちのセリフ。あなたは誰? 突然攻撃してきたけど」
「何を言って……?」
私は目を見開く。
それと同時に、光が私を包み込んだ。
目を覚ますと、私は机に突っ伏していた。
目の前にあるのは輝く緑の宝石。
「……え?」
私は恐怖に包まれた。
(うそでしょ、寝てたの? 一体いつから!?)
ガタンと大きな音を立てて立ち上がる。
「慌てないでください」
「……!」
急いで振り返る。そこにいたのは、リリアさんだった。
「アリアの、お姉さん」
「落ち着いて私の話を聞いてください」
「……何が起こってるのか、説明してく」
「あなたは」
私の話を聞こうともせず、話を続けるリリアさん。失礼だけど、一瞬だけロボットのようにも見えた。
「あなたは、その石のことを理解できていない」
「というと?」
「心を通わせる。そのために、肌身離さず持っておくこと」
私は頷く。
「そして、不用意に近づかないこと」
「なるほ……それってどういう!?」
「さようなら」
すたすたと定時で上がるかの如く部屋を出るリリアさん。私は急いでそれを追うが、すぐに見失ってしまった。
「まったく」
(肌身離さず持っていながら、不用意に近づかないって矛盾してるでしょ!)
それに、どんな準備すればいいのよ。
「ああもう!」
私は城の通路で地団駄を踏んだ。
(どいつもこいつも、自分勝手なことばかり言いやがって……!)
私は脳裏に三つの事柄を浮かべる。
一つめはカネ・マネーさん。二つめはリリアさん。そして三つめは……緑の宝石だ。
もしかしたら私は疲れているのかもしれない。今はとんでもなく、イライラしてしまう。
私は微笑んだ。
それを遠くから見ていたファニー・トロイポンは思う。
(にゃおえー!? ゆなっちの部屋に遊びに行こうと思ってたのに、なんなのあれ? なんであんなに怖いの!?)
ファニーはきびすを返す。
「うん」
(帰ろう)
一方その頃、夕奈の職場であるハピンチェボーレでは、ジーダ・オニュセントが暴れていた。
「ふぉっふぉっふぉー」
一人三役、いや、そんなもんじゃない。
接客、調理、店員のメンタルケア―まで、彼一人で賄っていたのだ。
それを遠くから見ているリーダーは夕奈と最も仲の良い従業員に言った。
「もうジーダさんだけでよくない? 明日から全員解雇して彼を雇おうかな?」
それを聞いていた女の子は青ざめる。
「いやいや、ブラックジョークがすぎますよ」
「うっはっは! ウソウソ、大丈夫だって」
「それならいいですけど……」
高笑いをかましながら歩くリーダー。
ジーダ・オニュセントは作業しながらこう思う。
(ユーナさん、とても疲れていました。……私の指導が厳しすぎるのか。それとも……)
遠い眼差しを向ける。その先にいるのは、鍛丸匡一郎だった。
一日遅れてすみません! ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




