表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/176

53話 月夜に釜を抜かれる

「行くよ」


「はい」


 長髪の女は剣を握る。


 その(ひとみ)は、オレを見つめていた。


(ああ、ぞくぞくするぜ)


「剣を知らねえ女の実力。楽しみだなあ」


 悪寒(おかん)が私を支配する。目を覚ますとそこは、ベッドの上だった。


 わたし、万葉木夕奈は汗を流すためにそれから()りた。ふと、アリアに貰った宝石を見る。


 (かがや)いているように見えた。


「……これ、何の石なんだろう?」


 私はネックレスを(さわ)る。


 メイド、レテシーが不在(ふざい)の今、この廊下を掃除するのは私の役目です。


 そんな私、フリナ・ポーンは大きな音を聞きました。まるで、人が倒れたような。


 私は音が聞こえた部屋を(おとず)れる。しかし返事はない。申し訳なさを感じつつ、(とびら)を開けた。


「……!」


 鳥肌(とりはだ)が立つ。私は急いで人を呼び、女性の肩に触れた。


「大丈夫ですか!?」


(確かこの部屋にいるのは、ユーナ・イグドラシルさん)


「イグドラシルさん、意識はありますか?」


 返事はない。だが(みゃく)はあった。


(なんでこんなことに……? どうして(たお)れた?)


 様々な疑問が私の頭の中をかき(みだ)す。そんな時、イグドラシルさんが持つ宝石が目に入った。


「これは……」


 魅惑(みわく)引力(いんりょく)が、私の手を(さそ)う。外への意識が消えかけていたと同時に、私を呼ぶ声が聞こえた。


「フリナ、ダメ」


「……!」


 私は急いで振り向く。そこにいたのは……黄色のドレスを身にまとった女性だった。その名も、第二王女リリア・ホーガン。彼女は胸に特徴的な赤い宝石のついたブローチをつけていた。大きな丸メガネの先にある目が、私を射抜(いぬ)く。


「す、すみません」


「いいえ、謝罪はいりません。フリナは仕事に戻りなさい」


 ロボットのようにブレない声色が私を動かす。


 気づくともう、私は部屋を出ていた。扉の閉まる音が私の耳に届く。


 リリア・ホーガンはベッドに座る。そして倒れている万葉木夕奈を見ようともせず、ただ窓の外を見つめていた。


 それからしばらくして、修行に来ない夕奈を心配してジーダ・オニュセントが訪問(ほうもん)に来る。だが、リリアが首を振るだけで帰ってしまった。倒れている万葉木夕奈を見たにもかかわらず。


 昼頃、リリアは立ち上がりメイドに(めい)じた。


「このお(かた)の名前はユーナ・イグドラシル。ギルドの中にあるハピンチェボーレという店で働いています。今日は行けないと、わたし名義で伝えておいてください」


「わかりました」


 リリアは扉を閉め、部屋に戻る。そして本を読みだした。


 時は過ぎる。リリアは本を置いた。


 そして机に向かう。いまだに、万葉木夕奈は倒れていた。


『異世界日記 二十四日目』


 ユーナさんの代わりに私、リリアが執筆いたします。どうせ明日書くのなら、今書いたって同じでしょう。


 今日、ユーナさんはずっと寝てました。


「ふう」


 リリアは体を洗った後、夕奈のベッドに入る。そして寝た。


 私、万葉木夕奈はそんな彼女を眺めながら、窓の外を見る。


 そこには、何もなかった。


 悪寒が私を支配する。目を覚ますとそこは、床の上だった。


「……ここは?」


「あなた自身の部屋です」


「……?」


 私は体を起こす。そこにいたのは、アリアが隣国へ行った日にすれ違った女の人だった。


「おはようございます。私の名前はリリア・ホーガン。アリアの姉です」


「……姉。あ! やっぱりそうだったんで……っ!」


 私は頭を押さえる。


「どうかしましたか?」


「いえ、少し頭痛が」


「それはそうでしょう。あなたは丸一日寝ていたのですから」


 リリアさんは椅子に座る。


「どういうことですか……?」


「私から言う事はありません。ただ、夢の世界に現実を持ち込むのは、どうかと思いますけどね」


「……? すみません、さっぱり意味が分からないんですけど」


 リリアさんは私の手の中にある宝石を(ゆび)さした。


「それは、アリアがあなたに渡したもの」


「……そうですね」


「そして、私があなたに渡せと命じたもの」


「……え?」


 リリアさんは作業のようにこう続ける。


「いや違うか、(めい)じたというより、宿命(しゅくめい)と言った方がいいか」


 彼女の目は、死んでいた。私は怖くなり、宝石を机の中にしまう。そしてリリアさんに言った。


「あの、私にもわかるように」


「……」


 リリアさんは何も言わずに立ち上がり、部屋を出て行った。私はそれを追おうとするが、足がうまく動かずに倒れてしまう。


「……ほんと、意味わからないわよ」


 ただ、ひたすらに時が過ぎる。私が一日過ぎていることに気が付いたのは、師匠に言われた時だった。


 今はただ、アリアに会いたい。でも何故か、彼女の姿は見えなかった。


 ただただ、イライラが溜まる。


 そんなユーナを見ていたジーダ。彼は目を見張る。


 彼を見つめる夕奈の(ひとみ)が、一瞬、緑に輝く。


「おそろしいですなあ」


(リリア様。勇者を殺すためにここまでしますか……)


 万葉木夕奈な瞳は、いつも通り黒かった。


 遠くの一室で、赤い宝石が呼応する。リリアは遠くを見つめながら、こう思う。


(大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫。しっかりなぞった。だから絶対、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ