52話 成るも成らぬも金次第
丸メガネをかけた男は言った。
「なんだあ? この数値は?」
「おや? クマ先生、なにしてはんの?」
白衣と高校の制服であろう服を着た少女はそう言った。
「あのなあ、オレをクマ先生って呼ぶなよな。だってそのクマって」
「はい」
白衣を着た女の後ろから現れる、紺色の肩まである丸い髪形を目立たたせる女はこう言った。
「それは動物の熊ではなく、目の下に、寝不足が原因で出来る隈のことですね。そう記憶しています」
「はー。駒衣はん、そういうのは説明せんのが乙なんよ」
「そうなのですか?」
「はいな」
「わかりました。記憶しておきます」
「おいおいお前ら、オレは作業中なんだぞ。静かにしててくれ」
「ええよ」
「了解しました」
オレは呆れる。
(そんな簡単に了承してくれるのかよ)
しかし彼女らは、二人でお喋りを始める。
「はー」
(結局こうなるのかよ)
オレはパソコンを見つめながら、そう思う。
朝日が昇る。
万葉木夕奈は目を覚ました。
「……清々しい朝だ」
私はカーテンを開け、朝日を浴びる。
「んー! 気持ちいい」
(ふう……)
今日から修行が再開する。正直面倒くさい。
寝たい、休みたい。でも、それはいつでもできる。今はできるだけ師匠の技術を盗もう。
もとより、すぐ切れてしまいそうな糸を繋げているだけなのだから。
「さて、頑張りますか」
私は朝の仕度を終え、師匠のもとへ向かう。
そこではいつもの変わらない基礎を鍛えた。
それが終わり、バイトの時間が始まる。
私はバイト先へ向かった。
「こんにちは」
「こんちゃ、ユーナ。朗報だよ」
「どったの?」
「今日は給料二倍」
「なんで!?」
コツンと、私の頭にトレイが当たる。振り返ると、リーダーがいた。
「今日は、このギルドを建てるための金を半分以上出したお偉いさんが来る。給料増やしてやるから、ヘマは無いように」
「……ありがとうございます」
「はいはい。がんばれ」
私はリーダーからトレイを受け取る。
そして頷いた。
リーダーがいなくなった後、料理を運ぶ係の子に言った。
「今日はいつも以上に気を付けて運ぼう」
「うん。がんばろうね」
私は相槌を打ち、こう言ってこの場を去った。
「ええ。それじゃあ、着替えてくる」
「おっけー」
私は更衣室へ行き、白黒の制服に着替えた。
ロッカーを開ける。
「……は?」
私のロッカーの中には、金銀財宝が入っていた。
(え? どういうこと?)
大きく息を吸う。その刹那、声が聞こえた。
「おや? その金……まさにミーが探していたものですね!」
「……だれですか!?」
「ミーの名前はカネ・マネー。そんな事よりも、ユーは泥棒ですか?」
「はあ?」
「その金は紛れもなくミーの物でーす!」
いちいちムカつくポーズを取りながら言う男。私は怒れる拳を抑えつけながら、彼を見る。
(まさか、この人……)
「金はお返しします」
「それは困る」
「なんで?」
「面白くないじゃないか」
当然のように言うマネーさん。
まったく、呆れるな。
私は金のアクセサリーをすべて持ち、彼に渡した。
「大事なのは金ではなく、それを得るまでの過程です」
「……どういうことだい?」
私は腰に手を当てて言った。
「確かに私は金欠です。でも、施しを受けようとは思わない。そういう事です」
「ほう。ミーはてっきり、綺麗ごとを言うかと思ったよ」
「ふっ。綺麗ごとにすぎませんよ」
「それもそうだな」
私はため息を吐く。
「まさに、金と同じく輝いていますから」
彼は黙る。
(おっと? 地雷を踏んだか?)
カネ・マネーさんは静かに怒っていた。
「綺麗ごとなんかと、金を同等に語るか」
「ええ。そんな事より、ここは女子更衣室ですよ。早く出て行ってください」
「ふん。出ていくのはお前さ」
カネ・マネーさんはこの部屋から出ていく。
私は絶望していた。
案の定、リーダーのもとへ行くと、怒られた。
どうやら彼は、噂の半分以上の金を出した人だったらしい。
でも反省はしない。だって私悪くないもん。
「うちのユーナが、迷惑かけました! ほら、あんたも謝る」
「……」
頭を下げるリーダーに免じて、私は頭を下げた。
カネ・マネーさんは「ふんっ」と言って厨房を出る。
どうやら相当怒っているらしい。
私はリーダーを見た。顔面蒼白だった。
申し訳なさを感じ、私は彼を追う。
「あの」
店を出てすぐのところで、声をかけれた。
「どうかしたのかい?」
「はい。謝らせてください」
「ほう、自分の非を認めたか」
正直、腹立つ。でも、私のわがままのせいでリーダーに迷惑がかかるのはもっと嫌だ。
「はい」
しかし彼は、こう言ったのだ。
「やだね。ユーはまだ挫けちゃいない。これでもミーは成り上がって来たんだ。人を見る目はある」
「だったら、金がすべてじゃないことくらいわかるでしょう? 何でもかんでも解決できる切符を手に入れちゃったら、人間はおかしくなりますよ」
「意味が分からない。金さえあれば……」
マネーさんは暗い表情を浮かべる。
「金さえあれば、家族を売ることもなくなる」
「でも、金は……」
なにも言えなかった。私は顔を下に向け、呟く。
「だったら金は救世主じゃなくて、悪魔そのものじゃないですか」
それを見たマネーさんは落ち着いた声で言った。そう、マネーは夕奈の知らないところで過去の自分と彼女を照らし合わせていたのだ。
「面白い。面白いじゃないか」
「……?」
「初めて会った君に過去を話したのは驚きだ。ほら、さっさと仕事に戻りたまえ」
「でも!」
「時は金だよ。気にすることはない、今日のことは忘れるさ」
マネーは夕奈に聞こえない声で呟く。
「君のこと以外はね」
夕奈は不審そうに頷いた。
「本当ですか?」
「ああ。私は嘘をつかない。信用は一番の仕事道具だからね」
「はあ……。そう言うなら、信じます」
「ありがとう」
私は踵を返す。
(もとより、私の手札は存在しない。ここで手を引こう)
帰ると、リーダーにこっぴどく怒られた。少し、リーダーが嫌いになった。でも、その後の言葉でリーダーのことが好きになった。
私の頭を触るリーダー。そんな彼女は言った。
「まあ、私も意味わかんないとは思う。よくやったね、ユーナ」
「はい。ありがとうございます」
私は、その嬉しさを原動力にして仕事を頑張った。そして城に帰り、修行をする。
「ふうー」
それが終わり、私は夕食をいただく。その後いつも通りの夜を過ごし、寝た。
『異世界日記 二十三日目』
今日は嫌味な男にあった。でもそんな彼にも、何か事情があるのだろう。大事にならなければいいが。
そんなことより、今日はアリアに会わなかった。一度も目にしなかったのは、今日が初かもしれない。
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