4話 暖簾に腕押し
シュラは大人しく武器を捨てた。ナイフ六本、よくわからない機械数個、そして知らない言語で書かれた分厚い本。四次元のポケットかい! とツッコミを入れたくなる。
もう一人の男は武器を所有していないらしく、怯えたように正座した。
(……ほんとに勝ったんだ。正直、勝てるだなんて思ってなかった)
なんか……うれしい。何かを達成するって、こんな気持ちなのかな?
そんなことを考えていると、突然シュラが口を開いた。
「おい! オレ! 目的はなんだ」
「……目的?」
一瞬、噓をつこうと思ったが辞める。この人たちには弟のことを聞きたいし、今更だけど良い印象を与えておきたい。
「私の目的はスライムの保護。友達を助ける、それだけよ」
シュラは呆れたように言った。
「なんだそれ」
「……こ、これでも私は必死に――」
「はいはい分かった、お前、名前は?」
そんなことを言いながら立ち上がるシュラ。
「夕奈です。って、何立ってるの!? 仲間が殺されてもいいの?」
「殺してみろよ、ほら」
シュラは挑発を重ねる。
「オレの姿なのにそんなこともできねえのかよ」
「……ぐっ」
どうする、どうすれば。
「そもそも、スライムを助けたければオレ達を一人でも多く殺すべきだろ」
「……そうだけど」
シュラは笑った。
「大丈夫だ、安心しろ。オレたちもお前と同じだ」
「……同じ?」
「ああ、オレたちもお前と同様、スライムを救いに来た」
「……はあ!?」
(確かに、この人たちがスライムを殺したところなんて見ていない。……でも、それなら、私は何もしてない人を襲ったってこと?)
申し訳なさすぎる。……いや、そんな簡単に信用してもいいのか?
その時、今まで黙っていた男が口を開いた。
「私は、メイル、スライム搾りをやっています」
「スライム搾り……?」
スライム搾りって何? 牛乳みたいなもの?。
「というか、なんであなたまで動いてるんですか?」
(もうめちゃくちゃ)
そんなことを思っていると、女が口を開いた。
「私はマニュウ。私たちはここに消火とスライム保護のために来ました。その証拠に、スライムは一匹も殺していません」
私は自責の念に押し潰されながら思う。
(……思い当たる節が多すぎる。これは、私の負けかな)
もう、脅しも通用しなくなった。……しょうがない、相手が優しいうちに降参しておこう。
「すみませんでした」
私は変身を解いた。
その瞬間、笑いが飛び交った。
「ぶっはは、やっと戻ってくれた。わたしずっとシュラの声で女の子のしゃべり方聞いてたから、笑いをこらえるのに精一杯だったのよね」
「あはは、ぼくもですよ。もうおなかが痛くって痛くって……あ」
「おい、お前ら……ずいぶんな言い分じゃねえか、ああ!?」
「あはは、ごめん、ごめん」
「ひー、お許しをー!」
急にはしゃぎだす大人三名。
(……な、なんなの? この気の抜けよう)
私の刃じゃ怖くないってこと?
(……なんか、ムカつく)
「あの! なんでそんなに笑っていられるんですか? いま、死にかけてたんですよ」
わたしがそう言うと、マニュウさんは微笑んだ。
「あなた、優しすぎ。ナイフにまったく殺気籠ってなかったよ」
「まあ、そういうことだ」
と、シュラが言う。すかさずマニュウさんは「あんたは気づいてなかったでしょ」とツッコミを入れた。
私はもう意味が分からなくなり、ぼそっと一言呟いた。
「あはは……」
(なんなの? この人たち……)
ぶつぶつと、ノイズのような音が聞こえた。
わたしがそれに反応するよりも早く、天の声が知らせてくれた。
「救難信号をキャッチ。スキル、天眼の使用をお勧めします」
(救難信号……?――まさか!)
私は、空からズームするようにクルルの向かった先を見る。
スライムの、死体が見えた。
次回予告。
アクシデント発生……。クルルは生きているのか? 私はそんなことを思いながら森の中を駆け抜ける。そこで出会った一人の女。
彼女は一体……。
次回、『遠くの親類より近くの他人』。お楽しみに!