表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/176

48話 悪に強ければ善にも強し

 雷が鳴る。私は、豪雨(ごうう)で激しくなった川にいた。されど足は奪われない。


 肺が痛い。鼻腔(びこう)(うず)く。


 そこにいたのは、醜悪(しゅうあく)な記憶そのものだった。


 まさに賎陋(せんろう)。おぞましく狂った記憶。


 どす黒い血のようなものが私の口から()い出る。


 その先にあった者は、光だった。


「……」


 朝日が目に入る。どうやら私は夢を見ていたようだ。


 背中にべったりと付いた服を気持ち悪く思い、私は服を脱いだ。一人部屋の特権だ。


 曖昧な記憶。どんな夢を見ていたのかすら覚えていない。


 私は脱いだ上半身の服を持って、風呂場へ向かった。ちなみに、この部屋のお風呂にはシャワーしかない。


 ふと、アリアに貰った宝石を見る。不思議と、輝いているように見えた。


「師匠」


 風呂に入り、着替え、自分の部屋で運ばれてきた料理を食べた私は、師匠の部屋に来ていた。


 私は()く。


「メイドさんに聞きました、ジーダさんが呼んでるって。何の用ですか?」


「はい」


 師匠は微笑んだ。


「もしかしたらユーナさんは喜ぶかもしれません」


「……?」


 私が首を傾げると同時に、師匠は言った。


「二日間ほど用事で城を抜けます」


「てことは……」


「はい。二日間ほど修行はナシです」


 私は頷いた。


「おや? あまり喜ばないのですな?」


「まあ……ちょっと退屈かなって思ってます」


「ふぉっふぉっふぉ。そんなユーナさんに朗報(ろうほう)です」


「……?」


 師匠は私に紙を渡した。なんだろう? と思い見てみると、凄いことが書いてあった。


「うげえ」


「おや? 不服(ふふく)ですかな?」


「い、いやー」


 私は再度、紙を見る。ランニング五キロ、素振(すぶ)り及び(かた)を数回復習する、腕立て()せ百回、スクワット百五十回、力魔法の特訓。


(お、多い)


「ちょっと多いかなーって」


「ふぉっふぉっふぉ。まあ、できたらでいいですよ。しかし、最低でもその中の三つはやっておいてください」


「了解です……」


(力魔法の特訓は必須だな)


 私は右手を腰に当てた。


「ふぉっふぉっふぉ。では、くれぐれもサボることはないよう」


善処(ぜんしょ)します」


 師匠は微笑む。その表情に(なご)んだ。


「さて、私はこれからアリア様と出かけます」


「アリアも行くんですか?」


「はい、アリア様の用事ですから」


「なるほど」


 私は納得し、師匠と一緒に馬車のもとまで向かう。そして二人に手を振った。


(アリアも忙しそうだ)


 どうやらアリアと師匠は隣国の王子に会いに行くらしい。アリアの悪い癖が出なければいいが……。


 わたしはそんなことを考えながら城を歩く。


(久しぶりにミリアさんの所に行こうかな)


 そう思い、出向(でむ)いてみたが、今日は用事があるそうで追い返された。ならばファニーちゃんの所に! と思い、出向くが、寝ていたのでメイドに入らせてもらえず、諦めた。


 考えてみると、私の友達は少なかったのかもしれない。もう話しかける人がいない。


 クルル、レテシーはメイド研修でどこかへ行ったし、アリアと師匠は隣国へ行った。


 ふむ、暇だ。


(バイトが始まるまで寝ていようかな)


 最近、ゆっくりしてなかったし。万葉木夕奈の個性を守るためにも、今日はだらけよう。


「ん?」


 とてもアリアに似ている女性がいる。


 しばらく見ていると、彼女はこちらに歩いてきた。


 私は端に()れる。それを見つめる彼女。


「ふーん」


 女性は、私とすれ違うと同時に、こう言った。


「上手くいっているね」


「……?」


 私は振り向いて女性を見た。黄色いドレスに赤い髪。そして赤い宝石を目立たせるブローチを()けていた。


(アリアと同じ髪の色。……まさかね)


 私はそんなことを考えながら部屋に戻る。


 そして寝ころんだ。


 ゴロゴロしながら、本を読んだり家具を眺めたり、妄想したりして時間をつぶしていると、ついに十一時になった。


「バイト行かなきゃ……」


 ぱさぱさした棒状の食べ物を口に入れ、簡単な準備をして部屋を出る。魔女のような格好だが、今日はローブと帽子は置いていくことにした。


 現在時刻十一時半。走らなくても間に合うだろう。もとより膝上までの長さしかないスカートで走ろうとは思わない。


「こんにちは」


「こんちゃ、ユーナ。今日も頑張ろうね」


「うん」


 私は数少ないバイト仲間に声をかける。


 ここで働いているのは私を含めて六名。同じ運び役である彼女とはリーダーの次に仲がいい。


 私は白黒の制服に着替え、トレイを持つ。この子は相棒だ。


 そしていつものように料理を運ぶ。


「げっ」


「あっ」


 私は料理を運びながら絶句(ぜっく)する。なにせ、彼がいたのだから。


 鍛丸匡一郎たんまるきょういちろう、その名を覚えているだろうか?


「べ、ベジタリアンハイカロリーです」


 私は肉と野菜が入った料理を彼に差し出す。


「あ、ありがとう」


 特に会話をせずに私は厨房(ちゅうぼう)に帰る。


(こういう曖昧な関係が一番気まずいのよ!)


 そう思う私に矛先を向ける運命様。彼女はリーダーを使って私にとどめを刺した。


「ユーナ、買い出し行ってきて」


 そう言われて渡されたのは、ドードン・カルナスさんの店への地図だった。


「これって……」


「今噂の鍛冶師(かじし)さんがね、包丁を作ってくれたの」


「なるほど」


 私は地図の右下に書かれてある『ドードン・カルナス』を見る。もしかしてこれ、貰ったやつなのかな?


 私は観念して「行ってきます」と言った。


 今ある仕事を終わらせて、店を出る。ここでも奇妙な偶然が起きた。


「げっ」


 目の前に現れたのは鍛丸(たんまる)さん。これが運命のいたずらというやつか。


「げっ、ておかしいでしょ、人にそれを言うのは」


「ごめん」


「ほいほい」


 鍛丸さんはそう言って振り向いた。そして道を歩く。


 当たり前だが、通る道は同じ。


(なんか、私がストーカーしてるみたいになってる)


 誓って、そんなことはない。


「……!」


 急に振り向く鍛丸さん。私はそれに合わせて目線を横にずらす。


「……」


 そして再び歩みだす。


 クルッと先ほどよりも勢いよく振り向く鍛丸さん。私も急いで首を動かした。急だったからか、ちょっと痛んだ。


「……」


 再び歩みだす。


 そしてまた鍛丸さんは振り向く。しかし私は、今までとは違い彼と目を合わせた。


「さっきから、なんなんですか!?」


「それはこっちのセリフ、なんでついてくるのさ?」


「それは……」


 私は事情を説明した。


「なんだ。そうならそうと言えばいいのに」


 私は生意気にも、意外と物分かり良いんだ、と思う。


「じゃあ一緒に行こう。オレの職場まで」


「はい……」


 とにかく、この気まずさが解決してよかった。


 私たちは歩く。


「あれ、なんなんですか?」


 私がそう聞くと、彼は優しく答えてくれた。


「あれは魔道具の店だよ」


「なるほど」


 いい店だ、と思う。外装は服屋みたいな感じだった。


 私は散歩がてらに周囲を見る。


 服屋に小道具屋、野菜を売っている店もあれば、肉を売っている店もあった。そして一番目立つのは、燃えている民家だ。


「……燃えている民家!?」


 一体何が? そう思い周辺に集まっていた人に()いた。


「何があったんですか!?」


「突然家が燃えたんだ!」


「ええ!?」


 私は民家を見る。だが鍛丸さんは、ほかの場所を見つめていた。


「あいつ……!」


 鍛丸さんはどこかへ走り去る。


「ええ!?」


(……ちっ。仕方ないか)


 私は鍛丸さんとは別方向に向かう。その先にあるのは……民家だ。


「おい! お嬢ちゃん危ねえぞ……ってユーナ!?」


 飲み会で見た人がいた。しかし話しかけている時間などない。私は『天眼(てんがん)』を使用して空から見てみるが、この火を消そうとしている人はいなかった。


「……!」


 私は、火に触れる。


「スキャニング完了。対象名を『炎』に変更。コピー可能です」


 私は、『偽装(フェイク)』を使用した。


 最初は小さな火だったが、民家を飲み込み大きくなる。


(このまま、移動できれば……!)


 足取りが、重い。だが(きし)む筋肉を震わせ、動く。


(ふんぐー!)


 一歩、まるで初めて乗る巨大ロボットを動かすように、ぎこちなく歩いた。


(最短距離で。民家に燃え移っても私が拾えばいい。懸念(けねん)すべきは人に当たらないこと……!)


 私は最大の注意を払い、近くの用水路に飛び込んだ。


「……!」


 燃えるような痛みが広がる。


(うぐう……!)


 あまりの痛さに、私は『偽装(フェイク)』を解いた。


「はあ、はあ……」


 体から熱が煙のようにして逃げる。


「あっつい」


 体が、熱い。のぼせている時のような、不快感が私を襲う。


 もしかしたら私は、とんでもなく危険なことをしたのかもしれない。


(熱いし、服が濡れて気持ち悪いし、最悪だ)


 万葉木夕奈は力を入れ、用水路から出る。そして民家のほうを見た。


(ここからじゃよく見えないな)


 ばたん、と彼女は倒れた。


 一方その頃、夕奈に「危ない」と言ったおじさんは目を丸くしていた。


「ユーナちゃんが、火になった。……でも、火を無くしてくれた。……っ! おいお前ら! 民家の中に人が残ってねえか調べるぞ!」


「おー!」


 と周囲の人々は民家へ向かった。


 再び、万葉木夕奈は力を入れる。


「……鍛丸さんを探そう」


 そう言いながら、彼女は歩いた。


 一方その頃、鍛丸匡一郎は顔を覆うようにフードのようなものを被った少年を追いかける。


(アイツ、足が速いな。……あれやってみるか)


 オレは靴底にあるスイッチを地面を()って入れる。風が、舞った。


(オレ制の風力シューズの実力を見よ)


 オレは速度を上げる。その刹那、空気の温度が上がった。


(熱い?)


 彼は火魔法を使いオレの風を動かす。


「マジかよ……!」


 オレはやむを得ず魔道具の電源を切る。


 またも、鬼ごっこが始まった。


 数分経っただろうか? お互い体力が底をつこうとしていた。


 場所は、果物(くだもの)や肉が売ってある市場。開けた場所だからか、日光が広がる。


 オレはにやりと笑った。そこには、彼女がいたのだから。


「ユーナ! 彼を捕まえてくれ!」


 夕奈はだるそうに走る。だがそれでは追いつけない。


 オレは平たい魔道具を投げる。それが地に着き、展開した。


 ボンっと空気が爆発するように射出(しゃしゅつ)される。


「うお!」


 夕奈はその爆発に巻き込まれ、勢いよく飛ぶ。


「な!」


 夕奈は、少年に乗っかるように落ちた。


「よし」


 とオレは呟く。


 一方その頃夕奈は、心の中で泣いていた。


(ううー。痛い、痛いよう……。こんなことになるくらいなら、休んでればよかった)


 私は鍛丸さんにどくように言われ、素直に動いた。


 鍛丸さんは少年の首元を掴む。


 そして怒った。


「なぜ家を燃やした!」


「……」


「なんとか言えよ!」


「なんとか……!」


「んな! 君はオウム返ししかできないのかい?」


「……」


 鍛丸さんはしんみりと、手を引いた。


 少年はそれを()に逃げようとするが、それは私が許さない。


 私は彼の手を取った。


 鍛丸さんは言う。


「君はなぜ、家を燃やしたんだい?」


 少年は突然キレる。まるで、痛いところを突かれたと言わんばかりに。


「うるせえんだよ。オレが何したって勝手だろ!」


「大した理由もなく……焼いたのか! 人を!」


「……っ! ちが……オレは家を」


 視線を鍛丸さんから()らす少年。


 私は『天眼』を使用する。


(兵士が数人来ている。この子はもう逃げられないだろう)


 私は目をつぶり、手を離した。


「……なあ、少年」


「……」


「遊び半分で犯罪を犯すって、どんな気持ちなんだ?」


 少年は(うつむ)き、体を震わせた。


「……オレだって、やりたくてやったわけじゃ」


 ポンっと、鍛丸さんは涙を流す少年の頭を触る。


「そうか」


 そして何かに気づいたかのように、きびすを返し始めた。


「え? 鍛丸さん?」


「行こう、ユーナちゃん。彼はもう、悪じゃない」


「……?」


 私は首を傾げる。でも、ほんの少しだけ、彼がかっこよく見えた気がした。


「ヒーローってのは、いつの時代も悪を倒すもんなんだよ」


 一人、少年から離れる鍛丸さん。私は少年の背中をそっと触りながら、「落ち着いて。じゃないと、もっと酷いことになっちゃうから」と言う。


 鍛丸さんと入れ替わるように現れる兵士たち。私の目に映る鍛丸さんの背中は、輝かしくも闇を感じた。


 私は兵士に押されるように少年から離れる。後から聞いた話だが、彼は友達にそそのかされて火をつけてしまったらしい。幸い死傷者は出なかったが、多額の賠償金を背負うことになった。


 彼はこれから罪を清算(せいさん)することだろう。それを背負いながら。


 私は鍛丸さんの前に立つ。


「彼、捕まりましたよ」


「だろうな」


「だろうなって……!」


 その冷徹さに、私は我慢できなかった。犯罪者だろうと、批判しだしたら終わりだ。彼は悪いことをしたが、好きに叩いていいわけじゃない。だって、それしちゃったら同じじゃん。身勝手なあいつらと。


 だからそう言ったのに、私の予想に反して、鍛丸さんはこんなことを言い出したのだ。


「あーあ、用事ができちまったよ」


 私は首を傾げる、しかしすぐに、その意図を理解した。


「なるほど」


 私は微笑む。


「かっこいいですね」


 鍛丸さんは歩みだす。ポケットに手を突っ込んで、下を見つめながら「一度関わった少年だからな、面倒は見るさ」と言った。


 私はそんな鍛丸さんについて行く。


 そしてドードン・カルナスさんの店に()いた。


 私は包丁を受け取るまでに、店に並べられている武器を見る。


「いっぱいありますね」


「師匠は今ノッてるからな」


「なるほど」


 鍛丸さんは笑う。


「どうせなら作ってやろうか? 無料で」


「いいの?」


「ああ、師匠じゃなくて、オレが作るけどな」


「全然いいよ。お願いする」


「了解」


 鍛丸さんは紙を私に渡してきた。


「これは?」


「必要な材料だ」


「ええー。私が集めるの?」


「おう」


「……りょーかい」


 私たちはお互い微笑んだ。


「お客様」


「あ、はい」


 私はドードン・カルナスさんから数本の包丁を受け取る。


「ありがとな」


「いえいえ、こちらこそ」


 私は店を立ち去ろうとドアノブを(ひね)った。


「それでは、さようなら」


「ああ」


 バタンと、私はドアを閉めた。


(……やはり、鍛丸さんは敵ではない)


 私はそんなことを考えながら、バイト先に戻る。


 カルナスの店の中で、鍛丸匡一郎は(あご)に手を置いて考えた。


(今回の騒動、本当に終わったのか? それに、彼女、ユーナ・イグドラシル。今回の事件は彼女の近くで起こった。もしこれが『X』の仕業だったら、許せないな。……もう少し、彼女のことを探ってみよう。うん、それがいい)


 匡一郎(きょういちろう)は剣を触る。


(でももし、彼女が白だったら……その時は仲よくしよう)


 剣が光る。その刹那、剣が凍った。


「『エフェクト』」


 これがオレの力。異能だ。


 匡一郎はポキッと折れる剣を見て肩を落とした。


「やっぱり、まだまだだな」


 一方その頃、万葉木夕奈(まんようぎゆうな)は、目を丸くした。


「ユーナ、明日来なくていいよ」


「へ……?」


 もしかして、クビ!? などと思っていると、リーダーが丁寧に説明してくれた。


「ほら、明日はあれじゃん」


「あれ……?」


「知らないの? あれだよ、あれ。……生樹祭(せいじゅさい)だよ」


「……成樹祭?」


 それ以上、リーダーは説明してくれなかった。


 よくわからないが、あしたは休みなのだろう。私は仕事を終わらせ、城に帰り、師匠に出された課題をし、ゆっくりした後、寝た。


「おやすみ」


『異世界日記 二十日目』


 剣を作ってもらえることになった。そのために材料を探さなきゃならなくなった。明日にでも行こうか? 暇だし、ファニーちゃんでも連れて。


 しかし今日は、波乱万丈だったな。

鍛丸回です! 彼には何か秘密が隠されている……。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 応援、評価、感想待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ