46話 山椒は小粒でもぴりりと辛い
私、万葉木夕奈は料金を支払う鍛丸匡一郎とドードン・カルナスを見ながら思う。
(もう帰るんだ……)
コツンと音を立てて木製のトレイを置く。そして浮かぶ時計を見た。
現在時刻四時三分。
最近知ったことだが、この世界でも時間の概念、すなわち一日は二十四時間だという。だが曜日の概念はない。されど日付の概念はある。
しかも一か月三十日。嬉しいことに、この世界には三十一日とうるう年は存在しない。つまりずっと三十日で終わるというわけだ。
覚えやすいし良いと思う。
(でも……十二月三十一日が消えたのはちょっとショックかも)
「ユーナ」
「はい」
私はリーダーが作った料理を運ぶ。扉が閉まる音を聞きながら。
(鍛冶師か……なんの鍛冶師なんだろう? 剣なら、作ってもらいたいかも)
「ははっ」
不思議とハマってしまったようだ、剣術というやつに。
「なに笑ってるんだ? ユーナちゃん」
「むっ」と頬を赤らめながら言った。
「見ないでください」
私はそう言って酒を差し出す。
「へいへい」
軽くなったトレイを持ちながら腰に手を当てる。そしてお客たちを見つめた。
(まったく……これだから酔っ払いは)
「ふふっ」と笑みがこぼれた気がした。
案外、悪くないかも。何かをするってのは。
そして日は沈む。日課の修行が始まった。
今日はいつもと違う形式のようだ。
私は椅子に座り、師匠の横に鎮座している板を見る。
「今日は何を……?」
「今日は体を休めましょう。頭を鍛えます」
「あたま……?」
師匠は、ドライヤーのように熱が出るものを持って説明を始めた。
「これは魔道具です」
私は戸惑いながらも相槌を打つ。師匠は木製の剣を取り出した。
「そしてこれは、木の剣です」
「は、はあ」
「これらは何かが違います。さて、なんでしょう?」
私は右手を上げて言った。
「はい! 魔法の有無です」
「正解です」
ジーダさんはおもむろに板を指さす。
「そしてこれも魔道具」
「おお!」
今まで何も書かれてなかった板に文字が浮かび上がる。
そこにはいろいろなことが書かれてあった。
「師匠、ノート忘れてきました」
「ノートはいりません。覚えて帰ってください」
「了解です」
私は神妙に話を聴いた。
「元来、魔法は才能ある選ばれた者にしか使えません。全生命体で見た時の約五割と言ったところでしょうか」
師匠は歩き、棒を取り出して板を指した。
「そしてその大半は、得意魔法を一つだけ使うことができます。それは二つ、三つ、四つと増えていくごとに、才能がものを言うようになるのです」
師匠は私を棒で指した。
「魔法には四つの元素、火、水、地、風があります。人はそれを魔素と呼ばれるエネルギーを介して操るのです。ちなみに、アーサー殿はこの四つすべてを操れます」
師匠はそう言い、にやりと笑った。
「しかしごくたまにいるのです。例外というものが」
ごわっとした寒気と共に、周囲が闇に包まれた。
(何が起こった……!?)
私は驚いたように立つ。それに呼応して光が戻る。
「師匠、今のは……?」
「闇魔法です」
「闇……」
「はい、私は地魔法を得意としますが、闇の才能もあったようで、使えるのです。……ごほん。このように、基本四元素以外にも、闇魔法と光魔法があります」
「なるほど」
「――しかし」
(まだあるの……?)
師匠は私に再度棒を向ける。
「触ってみてください」
私は言われるがまま、それを触った。
「……っ!?」
金属音を奏でながら、棒が折れ曲がる。
「あの……ごめんなさい」
謝る私を無視して、師匠は話を続ける。まるで、話を聞かない子どものように。
「ユーナさんは、魔族の魔法を見ましたか?」
「……はい」
「魔族は、体内にある魔素を使うことで人には真似できない魔法を使うのです。あまりにも自由な、ルールに縛られない魔法を」
「何が言いたいんですか……?」
師匠は笑い、私の肩をがっしりと掴んだ。その顔は、嬉しさを噛み殺さないと爆発してしまいそうなほどに歓喜していた。
(ちょっと怖い。でも、暖かい)
話の先が読めた。私は、自制できない笑みを浮かべた。
「ですので、夕奈さんはかなり、かなーり珍しい、魔族寄りの魔法を使えるという事です」
ドクンッドクンッ、と鼓動が聞こえる。
「つまり、わたしは……」
「はい、噂に聞く力魔法の……才能があるというわけです」
道が、開けた気がした。私だけの力、私の戦い方。
その、一本道が。
「……!」
嬉しさが顔に出てしまう。
(私にも、魔法の才能はあったんだ)
「やったっ」
思わずガッツポーズをとってしまう。私は改めて、師匠に言った。
「師匠、魔法の修行も、よろしくお願いします!」
頭を下げたまましばらく待ってみたが、返事はない。
「……ん?」
ゆっくり顔を上げると同時に、師匠はこんなことを言ったのだ。
「すみません、ユーナさん。力魔法はあまりにも使用者が少ないので、わたしにもどう教えたらいいのか……」
「……へ?」
(……まじ?)
どうやら、前途多難なようだ。私は肩を落としつつも、心の中では喜んでいた。
「師匠。私の力、私自身で使いこなして見せます。なんせ私は、スライムの王ですから」
にっしし、と柄にもない笑い声をあげてみる。
『異世界日記 十八日目』
私にも魔法の才能はあった。力魔法だけだったけど……。それでも、ないよりはましだ。我流でも何でもいい、私なりに磨いてやる。魔法ってやつを!
ついに道ができました! ここまで読んでいただき、ありがとうございます




