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45話 蓼食う虫も好き好き

 二人目。この世界に来て出会った二人目の召喚者。


「……」


 うずうずとした好奇心と共に、恐怖も襲ってきた。


 はたして話しかけても大丈夫なものか……。


(困る! とっても困る!)


 どうすればいいというのだ。この私に!


「……よし」


 決めた。


(話しかよう。ユーナ・イグドラシルとして)


 大樹のことを詮索(せんさく)されても困るし……。なにより、彼もまた私よりも早くこの世界に来た人なのだ。仮に敵だった場合、不利(ふり)になるのは私だ。


 だったら、こっちから詮索してやる。


「あの……」


 私が話しかけようとしたと同時に、首元に暖かい手が触れた。


「きゃう!」


「遅刻だぞ、ユーナ」


「あははー」と、気持ちの悪い汗を流しながら苦笑いする私。話しかけようとした努力も虚しく、わたし、万葉木夕奈は茶色のローブを引っ張られて厨房(ちゅうぼう)へ移動した。


 そして黒と白で(いろど)られた制服に着替える。


「よし!」


(接客の時に話しかけよう)


 私は木製の大きめのトレイを持ち、その上に料理が入ったお皿を置く。


 そして空いた部分に酒を乗せ、カウンターを横切(よこぎ)った。


(よくもまあ、白昼堂々(はくちゅうどうどう)と酒なんて飲めるな)


 と思う。これは私がアルコール飲料を飲んだことがないから言えることなのだろうか……?


「おまち」


 私は肉を焼いたものと酒を提供した。


「ありがとな、ユーナちゃん」


「はい」


 そして次のお客様へ酒を渡す。それを数回繰り返した。トレイを(わき)の下に挟めるようになった頃、私は日本人のお客の席まで移動した。


「ご注文はありますか?」


 日本人の少年は言う。


「何もいらないけど……」


「あははーですよねー」


 私は身をテーブルに乗せ、小声でこう言った。


「というのは建前(たてまえ)で。実は私、地球人のことを研究していて……」


 日本人の少年は呆れたように言う。


「地球人? また……? 君も差別が好きなの?」


「いえいえ、そういうわけでは……」


 ごそごそと肉を食いながら、ひげの長い太ったおじさんは言った。


「いいじゃないか。少しくらい教えても」


「ええー。マジっすか、師匠」


(師匠……?)


 私は視線を太ったおじさんに向ける。おじさんは言った。


「わしの名前はドードン・カルナス。この国一(くにいち)の鍛冶師だ」


鍛冶師(かじし)……!」


 私がそう言ったのを聞いた日本人は、ため息をついてこんなことを言ってきた。


「マルゴニカ(いち)って、師匠は最近人気になって来たばかりの底辺鍛冶職人でしょう? あと、オレの名前は鍛丸匡一郎たんまるきょういちろう。しがない特撮(とくさつ)オタクです」


「特撮……?」


(なんだっけ? どっかで聞いたことある気が……)


 カルナスさんは酒を飲んで言う。


「ばかやろう。この世界の人に特撮言ってもわかんないだろ」


「師匠は分かってるじゃない」


「わしは匡一郎(きょういちろう)に教えられたからわかるんだ」


「えへへー」


 と笑う二人。


(仲いいな!)


 ……それよりも、話してて敵って感じはしないな。杞憂(きゆう)に過ぎなかったか?


「おっと、そうだ。匡一郎(きょういちろう)、お嬢ちゃんに教えてあげな」


 鍛丸(たんまる)さんは頷き言った。


「特撮ってのは、ヒーローのことだよ。地球の日本って国には、亀面(かめめん)ライダーやウルトラ戦隊、ハイパーマンとか、色々いるんだ」


(ああ、それのことだったのか)


 私は相槌(あいづち)を打つ。


「なるほど、かっこよさそうです」


「だろう? とっても面白いからおすすめですよ」


「ははは、機会があれば見てみます」


 そう言ったと同時に、厨房(ちゅうぼう)の方から声が聞こえた。


「ユーナー。これちゃっちゃと運んじゃってー」


「あ、はい! わかりました!」


 私は立ち上がり、厨房へ向かった。


「呼ばれちゃったので戻ります。では」


「ああ、さよなら」


 そう言うカルナスさん。残念なことに、鍛丸(たんまる)さんの言葉は聞こえなかった。


 残念だと思いながら、私は料理を持つ。


 一方その頃、夕奈がいなくなった後の二人はこんな会話をしていた。


 ドードン・カルナスは言う。


「あの子、お前さんに気があるんじゃないか? 話しかけに来たし」


 ブツブツと、鍛丸匡一郎たんまるきょういちろうは呟く。


「なあ、聞いてるのか」


「ブツブツ……」


 呆れるドードン・カルナスはこう呟いた。


「またか」


 匡一郎(きょういちろう)はハッと何かに気づいたかように遠くの夕奈を見た。


「機会があれば見てみます……か」


 鍛丸匡一郎は思う。


(見てみます、なんて。まるで映像で見れると分かっているかのような口ぶり。勘違いならすみませんだが。……もしかして彼女は)


 匡一郎は口角を上げた。


(なぜ身分を隠す? もしかしたら、彼女はあの『X』と繋がっているのかもしれない)


「ちょっと、興味が()いてきたな」


 匡一郎は静かに、(あご)に手を持って行き笑った。


 それを遠くから見ていた夕奈は思う。


(ひえっ。なんか怖い……。やっぱり敵なのかな)


 ちょっとだけ、夕奈の匡一郎への好感度は下がった。


(てか、(あご)痛めたのかな? 痛そう)


 すりすりと顎を触る夕奈。


(……うん、痛そう)

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