44話 一葉落ちて天下の秋を知る
阿吽の呼吸。まさに長き時間を共にした友のように、私と師匠は同時に踏み込んだ。
そう、私は初めて目にしたのだ。
師匠の本気を。
「うげ……!」
(見えなかった……)
「ふぉっふぉっふぉ」
私の首根っこをつかんで高らかに笑う師匠。視界の端に、剣が落ちているのが見えた。
利き手である右手を動かす。
(そうか……私は負けたのか)
「うがあー!」
私は地団駄を踏むように悔しんだ。
(なんでなんで? なんで、勝てないの?)
師匠は笑う。
「ふぉっふぉっふぉ。悔しく思うのは良いことです」
「……どういう意味ですか?」
師匠は私から手を放し言った。
「合格です」
ジーダ・オニュセントはしんみりとこう思う。
(ようやく、心の整理がつきました。……彼女は、勇者の姉であるが前に、万葉木夕奈なのですね)
ジーダは剣を拾い、夕奈に持ち手を向ける。
(そして私は、夕奈さんの師匠。私の持つ技術を受け継がせるもの。……弟子を持つのは、久しいですな)
「師匠……」
「はい。続けましょう、修行を」
私、万葉木夕奈は微笑んだ。感情は、伝播するものなのだ。
「はい。――よろしく、お願いいたします」
それからのことは説明するまでもないだろう。
(うがー! 休みたい、逃げたい。……地獄だー!)
その後、私はさらに辛くなった修行に励んだのだった。
「痛い……」
これからバイトが始まるというのに、筋肉痛のような痛みが引く気配はない。歩いて自分の部屋へ向かう私に、ファニーちゃんは言った。
「ゆなっち、強いんだね」
「……まさか」
私はかぶりを振る。
「私は強くないよ、師匠にも勝てなかったし」
「それは……しょうがないよ! うん!」
「しょうがなくなんかない」
「……」
ファニーちゃんは黙ってこちらを見た。私はまっすぐ前を見つめて口を開く。
「私は師匠に勝つくらい強くなる。そのためにここにいる。だから、学ぶんだ、その方法を」
ゴクリと、その言葉を飲み込むかのような音が聞こえた。ファニーちゃんは満面の笑顔を浮かべて言う。
「やっぱり、ゆなっちは強いね!」
私は、そんなことないよ、と言おうとしたが止める。なにせ、ファニーちゃんの体は震えていたのだから。
そこに微塵も、嘲笑は存在しない。
「ゆなっち」
「なに?」
「ちょっと用事できた。ばいばい!」
ファニーちゃんの顔は、好奇心に踊らされたかのように震えていた。
「そう。いってらっしゃい」
「うん!」
ファニーちゃんは私のもとを去った。
それから動きやすい服から魔女のような服に着替え、ポーチを持ち、バイトに行こうとしたとき、ふと『天眼』を使用してみた。
「ふふ」
微笑ましいな。
ファニーちゃんは特訓していた。苦しそうな面持ちを浮かべながら、されど楽しそうに、走りながら。
「がんばれ」
私はそう呟き、部屋を出る。
そして何事もなくバイト先に着く。そこで大きな声を聞いた。
「ノーウ! だから言ってるだろ!? オレは未成年なんだから酒は飲めねえって!」
「何を言っている。お前はもう十五歳、立派な成人だろう!」
「だからオレの国では二十にならないと飲めねえんだよ! 何度言えばわかるんだよ、この酔っ払いが!」
(オレの国では二十から……?)
私は扉を開けて職場に入る。冒険者御用達のギルドだ。
そこで聞いてしまった。目を丸くするような言葉を。
「オレの国ではねえ……それで、一体お前はどこ出身なんだ?」
白く長い髭を生やした肉付きのよいおじさんはそう言い、「あとわしのこと酔っ払いって言うな」と続けた。
その男の前の席にいた小柄な男は言う。その平凡な容姿からは想像もつかないような、驚きの言葉を。
「はあ。何度言わせれば分かるんですか……。もう起こる気も失せたよう。……あと、オレの出身は日本ですよ。オレの使う不思議な力を知っているでしょう?」
「おう!」
少年は呆れる。それと同時に、私は息をのんだ。
(日本出身……?)
戸惑ったのか、喜んだのか、私の顔から笑みがこぼれる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! そして昨日は投稿できずに申し訳ない。ワクチンの副反応で(なんたらかんたら)……はい、言い訳はしません。
明日も投稿できるので、見限らずに応援していただけると幸いです。
感想、評価くれたらうれしいな!(強要はしないよ)




