43話 負うた子に教えられて浅瀬を渡る
早朝ランニング。いろんな光が私の顔に当たって眩しい。
ふわりと横を通るせせらぎ。それと同時に走る私の横を男が通り過ぎた。
ぼさぼさな髪に丸メガネ。タオルを肩に乗せて走り去った男を私は一瞥した。
(顔ほっそ。それにすごいイケメン。……でも、目の下にクマあったし、人生苦労してるんだろうな)
美顔でも苦労するんだ、と思う今日この頃。
そんな風に、朝の時間は過ぎていく。
そして私は城に帰り、久しぶりの人物に遇った。
「いたー! はっけーん!」
きらきらきらー! と言いながら回って私の目の前に現れる女の子。私は目を輝かせて言った。
「ファニーちゃん、久しぶり!」
ファニー・トロイポン。クッソスメルの領主であるジ・トロイポンの娘である。
ファニーちゃんは相変わらず元気なようだ。
「……って! 私のことわかるの?」
「ぶー。わかんなかったよー。アリア様に抱きついて恥かいちゃったし。……でも、そのおかげでユーナさんのことを知れた。改めて、よろしくと挨拶するね。にひー」
満面の笑みで中指と人差し指を立てるファニーちゃん。背の低さも相まって、かわいらしく思えた。
「あはは。よろしくね、ファニーちゃん」
「よろぴく! ユーナさん」
「あだ名でいいよ」
ここはちょっと、ファニーちゃんのセンスを確かめてみよう。そう思って言った。すると何て返って来たと思う?
「りょ! よろぴこ、ゆなっち!」
なかなかにいいセンスである。二歳下の子に敬語なしで話しかけられても、嫌な気がしないのはファニーちゃんの人柄のおかげだろうか?
私はファニーちゃんを見た。
クルルとレテシーとは違う。黒髪黒目な彼女からは親近感を感じる。私の生きた時代にいたら、なにかのグッズをバックにつけまくっていたことだろう。わたしとは真逆のような存在。
アンニュイな私でも、仲良くできそうな、明るさを感じた。
(そういえば私、大人しい子だったっけ……)
そう思うと、休みたくなる。なんで、こんなに頑張ってるんだろう……?
ああ、逃げたいな。
「お前が何もしなかったから……、ミイちゃんがこんなことになったんだろうが!!」
嫌な言葉が蘇る。
(ああ、だから頑張ってるんだ。後悔しないように、適度に力を入れる)
「ゆなっち? ゆなっちー!」
「……!」
「あ、戻って来た」
ファニーちゃんはにこにこ笑って言った。
「地球に行ってたの?」
「ふふっ……。まあ、そんなところかな」
物思いに耽りすぎていたようだ。
「ファニーちゃん」
「なにー?」
「今から修行なんだ。見学してく?」
ファニーちゃんは目を輝かせてこう言った。
「うん!」
私は頷いて、歩き始めた。城の一室へ向かって。
そして修行が始まる。師匠は一瞬驚いたが、すぐに対応した。
「今日は見学者がいるのですね」
「はい」
師匠はほんの少し笑った。
「それはちょうどいいかもしれません」
「……?」
私は首を傾げた。すると師匠は人差し指を立ててこう言った。
「ユーナさん、今日から最初の立ち合いのみ『ギフト』の使用を許可します」
「……!」
『ギフト』。それは召喚者が最初に貰える能力のこと。
「いいんですか?」
師匠は頷く。私は鋭い笑みを浮かべた。
「なら、遠慮なしに」
私は木製の剣を持つ。
師匠も同じく木製の剣を持つ。
「……!?」
「それに合わせて、私も武器を持つことにします。少々痛いですが、実践だと思って頑張ってください」
「マジか……!」
正直きつい。こっちは実質『偽装』オンリーだ。
(……なら、先制を取って優勢を取る!)
ダンッと音を響かせて、私は踏み込んだ。走りながら剣を師匠に振る。なぜか、師匠は守るだけで反撃してこない。
(舐めてるのか……?)
「……っ!」
後悔させてやる。
私は剣を握りしめた後に、投げた。
「なぜ?」
ジーダはそれを持っている剣で叩き落した。
「スキャニング完了。対象名を『木製の剣』に変更。コピー可能です」
ジーダは口角を上げ、こう思う。
(ユーナさんの実力、見せてもらいますよ)
私は勢いをつけて走り、剣になった。
だが体は動かない。
(やっぱり無生物はリスキーだったか……!)
私は急いで変身を解く。師匠は横に剣を振っていたので、私は股を床につけて避ける。追撃が来たので体を捻って避ける。
(……あれ?)
師匠の攻撃を前転のように回転し避け、剣を拾う。
「……」
師匠の攻撃が来たので、それを剣で防いだ。
「……」
木がぶつかり合う音がする。それを遠くから見ていたファニーは目を丸くし、こう言った。
「二人とも、一歩も動かなくなった」
そう、万葉木夕奈は理解したのだ。
木がぶつかる音が続く。
(これって……)
「はい」
師匠は大きな一撃を私に向けた。私はそれを剣で受ける。攻防が、中断された。
私はニヤニヤしながら言う。
「師匠、これって……!」
「はい」
師匠は頷く。
(これは……型だ。私が何度も練習したものと同じ)
私は一歩後ろへ下がる。
(私、師匠と戦えてるんだ。防御もできた。手が勝手に動いてた)
「……っ」
嬉しさが、こみ上げてくる。
そんな夕奈を見つめるジーダ。彼はこう思う。
(もともと才能はあった。素人とは思えない反射神経。そして努力の賜物である柔らかい体)
「ふぉっふぉっふぉ」
(体も成長している。私の課したトレーニングを毎日こなしている証拠ですな)
ジーダは笑う。ユーナは剣を強く握った。
お互いはお互いを見つめ合う。まさに明鏡止水。二人は、構えを取ったまま静止した。
一人、ファニーだけは、震えてこう言う。
「やっぱり、ゆなっちカッコいい。私も、いつか……!」
その瞳は輝いていた。まるで、強さを求めた万葉木夕奈のように。
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